アリババ創業者ジャック・マー「引退宣言」全文を読んで分かったこと

「ボクにはもっと大きな夢がある」

世界7位の巨大企業トップが突然

先週9月10日は、中国では「教師の日」だった。一年に一度、全国の教師たちに対して、日ごろの苦労をねぎらおうという日である。

この日、30歳まで英語教師だった中国の一民営企業トップが、ホームページ上にアップした「教師の日おめでとう!:)」と題したメッセージが、「緊急速報」として、世界のトップニュースになった。日本でも、夕刻のニュースで大きく報じられた。

それは、アリババグループの馬雲(ジャック・マー)会長(54歳)が、「一年後に辞任して張勇CEO(46歳)に引き継ぐ」と発表したからだった。

アリババは、8月末日時点での企業時価総額で、世界7位の4501億ドルにつけている。中国企業としてはトップだ。ちなみに日本のトップは、トヨタ自動車の43位で、1805億ドルである。アリババは、トヨタの2.5倍もの時価総額を誇っているのだから、そのトップが「まもなく辞任」と宣言すれば、それはビッグニュースなのである。

〔PHOTO〕gettyimages

具体的に、馬雲会長がホームページ上にアップしたメッセージは、以下の通りだ。やや長文になるが、いつもの飾らない「馬雲調」で全訳してみよう。

〈 教師の日おめでとう!:)
アリババの顧客、アリババの社員、アリババの株主の皆様:
今日でアリババは19周年。ボクは高鳴る気持ちで、皆さんに宣布する:取締役会の批准を経て、一年後の今日、つまり2019年9月10日、アリババ20周年の日に、ボクはアリババグループの董事局主席(会長)を下りる。現在、アリババグループのCEOを務めている張勇(逍遥子)が、董事局主席の職を引き継ぐ。

ボクは今日から、全面的に張勇と、ボクたちの組織をうまく引き継ぐための準備を進めていく。2019年9月10日の後も、ボクは引き続き、アリババグループの取締役会のメンバーであり続ける。それは2020年度のアリババの株主総会までだ。

 

これはボクが深思熟慮し、真面目に準備してきた10年計画で、今日実現に至ったものだ。アリババのパートナーたちの同意を得られて感謝している。また、アリババの取締役会の批准に対して、あらゆるアリババの社員たちとその家族に対して、感謝している。まさにこの19年間、皆さんはボクを信頼し、支持し、共に努力し、十分な自信と能力をもってこの一日を迎えることができたのだから。このことは、アリババが個人のカリスマ性に頼る時代から、組織的な機構、人材文化の企業制度に頼る時代へと、昇級を果たしたことを示している。

1999年、皆さんと共にアリババを創業した時、ボクたちは、中国と世界に誇れる会社を作ろう、(22世紀まで)102年永続し発展する会社にしようという志を立てた。誰であろうと、102年間も会社を率い続けていくのは不可能だというのは、分かりきったことだ。会社が持続的に発展するためには、制度を整備し、文化的なシステムや尽きることのない人材の供給に頼るしかない。会社を、何人かの創業メンバーに頼るわけにはいかないのだ。ましてや、能力、気力、体力の面から見ても、いかなる人であろうと、永遠に会社のCEOや董事長(会長)の仕事を続けていくのは不可能であると、ボクはつくづく思う。

10年前に、ボクたちはこの問題を自分たちに問うた。馬雲が会社を離れた後も、アリババが依然として健全に発展していくことを、いかにして保証させるか? それにはワンパッケージの制度を作り、ワンパッケージの独特の文化を形成し、一定数の後継者たちを育成、トレーニングし、そうしたことによって企業を持続的に発展させるという難題を解決していくしかないと考えた。それでこの10年というもの、ボクたちは休むことなく努力と実践を重ねてきた。

ボクは、自分が受けた教育によって教師になったことは、ここまで自分が進んで来られたことにとって、とても幸運だった。会社の未来を担うことも自己責任であって、社内にいるさらに若くて、さらに能力と才気ある人がリーダーとなり、「天下にできない商売をなくす」(アリババの社是)という偉大な使命を引き継いでゆくのだ。

全世界の中小企業、若者、女性を助けて発展させるという、ボクたちの使命と原景は、揺らぐものではない。これはボクらの初心であり、ボクらの恩返し、責任でもある。そうした使命を信じて実現していくためには、さらに多くの馬雲が必要であり、アリババの社員はそのために奮闘してほしい。

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