最近たまたま、30代のシングルマザーから、親も高齢化してきたので自立したいという相談を受けることがありました。彼女は正社員経験もなければ、専門的なスキルと言えるようなものもありません。
ところが彼女は私のアドバイスから半年後、見事、正社員の仕事に就くすることに成功しました。
正社員と言っても、ブラックに近い職場じゃないの? そう思う人もいるかもしれません。しかし彼女が就職したのは、大企業ではありませんが、堅実なメーカーです。
どうして彼女はこうした好条件で職を得ることができたのか。私が、彼女にしたアドバイスはただ一つ。「簿記3級の資格をとりなさい」だけでした。
経理はぜんぜん足りていない
意外に思うかもしれませんが、今、経理の仕事は需要と供給がまったくバランスしていません。需要に対して供給が極端に少ない状況です。
転職情報サイトの「DODA」が発表した2018年7月の転職求人倍率によると、一般事務の有効求人倍率は0.2倍でした。1つの求人に対して5人が応募するという状況ですから、いわゆる買い手市場の狭き門です。
ところが、経理を含めた企画職に限れば状況が一転、求人倍率は1.7倍です。職を探す人よりも求人数の方が1.7倍も多いのです。完全な売り手市場となっています。
厚生労働省が発表した同月の有効求人倍率は、一般事務が0.3倍、会計事務が0.7倍となっています。数値の定義が違えども、同様の傾向を示しています。
人手不足は外食や建設業などばかりで、事務職は逆に人余りで困っているというのが大方の認識だと思いますが、少なくとも経理に関してはまったく状況が違います。
その理由について、需要から見ていきましょう。ご存知のように労働者人口は減る一方ですが、実は法人数は同じペースで減っているわけではありません。後継者不足などで廃業する企業も増えていますが、反対に国が独立起業を支援するような流れもあり、企業数そのものは激減しているわけではありません。つまり会社があれば、必ず付随する経理の仕事は減りにくいことになります。
では、供給側はどうでしょうか。経理業務を受託する会社もありますが、中小企業・小規模事業者を相手にするプレーヤーはそんなに多くはありません。大企業の支社や子会社に配置する専任者は減っていくでしょうが、そもそも法人全体380万社のうち小規模事業者は325万社ありますので、小規模事業者への供給に大きくは影響ないでしょう。
経理の「後継者不足」
このように人材需要は維持されたまま、供給が減る状況が続いていました。
企業が能力給、成果主義に移行する中で、経理は能力差が見えにくいです。そのため、本人とすれば会社のため頑張っているという意識が強いにもかかわらず、それが評価されにくいという傾向があるのでしょう。そうしたことも一因となって、若年層の経理志望者は長らく少数派だったために、経験者数が育ちにくい状況でした。