アメリカのドル安容認で「世界通貨安競争」が始まる可能性
想定外が起こりやすいからこそ「ドル安が国益である」発言の意味
年初来、外国為替相場で米ドルはユーロ、円などの主要通貨だけでなく、新興国通貨に対しても下落し、ドル独歩安の展開となっている。
当初、日銀の金融政策正常化観測やECBのフォワードガイダンス修正への警戒感が円高やユーロ高をもたらしたとの見方が多かった。
特に、ECBが政策変更の可能性を示唆したことは想定外であり、為替相場への影響は大きかった。
今後の展開を考える上で重要なのは、政治からの影響だ。24日、米国のムニューシン財務長官は、明確にドル安が国益であるという考えを示した。これは、見逃せない発言だ。
ここまではっきりと米国政府がドル安を歓迎する見解を示したことは珍しいといえるからだ。ドルの為替レートが米国の政治に振り回される可能性は高まったと見る。
年初来、米国の国債市場では金融政策の動向を反映しやすい2年金利が上昇基調で推移し、その水準は2.00%を超えた。これはリーマンショック直後以来の水準だ。
一方、わが国では日銀が異次元の金融緩和策を重視している。23日の日銀決定会合後の記者会見を見る限り、日銀の緩和重視姿勢は年初の時点に比べ、よりはっきりしたともいえる。
足許、世界経済は好調だ。先進国、新興国ともに株価は上昇トレンドを維持している。こうしたリスク愛好的な心理が高まりやすい中、米国の短期金利が上昇し、わが国の低金利環境が続くとの見方は、円キャリートレードの増加につながってもおかしくはない。いうまでもなく、それはドル高・円安をもたらす要因だ。
円キャリートレードが増える背景にはもう一つ重要な要因がある。それが、米国政府の為替レートに関する考え方だ。景気が緩やかに拡大する場合、米国政府はある程度のドル高を容認することが多かった。
ドル高は、経常赤字と財政赤字を抱える米国が、海外からの資金を引き付けるために重要だった。反対に、政府関係者がドル高をけん制する場合、大手投資家は円キャリートレードのポジションを手仕舞ってきたのである。
トランプ政権の取り組みを見ていると、従来に増してドル安の重要性が高まっている。中国からの太陽光パネル、韓国からの家庭用洗濯機へのセーフガード(緊急輸入制限)の発動は、米国が自国の輸出拡大を真剣に進めようとしていることの表れだ。
ムニューシン財務長官のドル安歓迎発言はその考えに一致する。米国が保護主義的な政策を目指していることがドル安をもたらしている。