「毒タマゴ」とは何か?
7月後半から2週間、ドイツでは、ニュースをつければ卵の話ばかりだった。フィプロニルという殺虫剤で汚染された卵が出回っているとかで、ニュースの見出しには「毒タマゴ」というおどろおどろしい言葉が踊る。食べれば即死しそうな勢いだ。
養鶏場の従業員が巨大なコンテナに何千個もの卵を、これでもか、これでもかというように捨てていく映像が流れる。コンテナの中は黄色い卵汁の池のようになり、そこに壊れた殻が悲しく浮いている。「危険ゴミ『卵』」だとか。ドイツ人は、こういう「怖い話」が大好きだ。
まず、ざっと時系列で見ると、フィプロニルで汚染された卵がオランダの養鶏場で発見されたというニュースが私たちの耳に入ったのが、7月22日。
フィプロニルというのは、獣医が猫や犬などのノミの駆除に使う分には問題がないが、人間がその肉や卵を食べる動物に使用することは禁止されている。そういう動物のいる畜舎に噴霧してもいけない。
ところが、ベルギーの会社が、畜舎の清掃・消毒に使う薬剤の中に、フィプロニルを混ぜた。それをオランダの清掃会社が畜舎の清掃に使った。テレビニュースでは、マスクをした清掃員が鶏の小屋に消毒液を黙々と噴霧している映像が何度も繰り返し出てきた(ただし、撒いているのがフィプロニル入りの消毒液であるとは言わなかった)。
いずれにしても、この清掃会社が、オランダ国内180ヵ所の養鶏場でこの消毒液を使用したということはわかっている。だから、そこにいた鶏が産んだ卵から、残留フィプロニルが発見されたのである。
7月26日、オランダの管轄の役所が、その180ヵ所の養鶏場を営業停止にした。ドイツでも、この消毒薬を使用していた養鶏場が4ヵ所あり、それらがやはりただちに閉鎖された。
ただドイツの問題は、ベルギーとオランダから大量の卵を輸入していたこと。実はドイツは、年間80億個の卵の大輸入国なのだ。そこで8月の初めにはスーパーや小売店で大々的な卵リコールが始まり、あれよ、あれよと言う間に地獄の蓋が開いたような騒ぎになってしまった。
アルディという大型安売りスーパーは、即座に卵の販売を中止。こうして、短期間にドイツで廃棄された卵の数が1070万個! 念のため、私の買うスーパーのHPを見てみたら、「うちではオランダ産のタマゴは使っておりません」とあった。