「強欲は善」とされるアメリカは中国よりも怖い!
アメリカの光と闇を描いた『ハゲタカIV グリード』著者・真山仁にインタビューキリスト教では「七つの大罪」のひとつにも数えられている“グリード GREED”=「強欲」。だが、これこそが、世界を牛耳っているアメリカの経済の原動力でもあるのだ。その実情を最新刊で見事に描ききった真山氏が、世界の現実を人間の本質を熱く語る――。
▼▼書評家の末國義己氏が『ハゲタカIV グリード』の魅力を解説!▼▼
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43754
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グリード・イズ・グッド(欲望は善)
――本作『グリード』はアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻(2008年)に端を発した世界的金融危機、リーマン・ショックを題材にされていますが、発生当時からこれを書こうと思われていたのですか?
前作の『レッドゾーン』(ハゲタカシリーズ三作目)を雑誌に連載しているときにリーマン・ショックが起こったのですが、読者や金融関係者からは「次はリーマンですね」とか「ハゲタカではリーマンをどう描きますか?」とよく言われました。でも、どちらかといえば避けたいな、というのが当時の本音。私はいわゆる金融小説のイメージを破る作品を書きたいと思って書いてきましたから、リーマン・ショックを扱うのは当たり前すぎて意外性がないんじゃないかと感じていたんです。
そのうちアイスランドのように国家規模で経済が破綻することになって、これはすごいことになったと。いまでもヨーロッパを中心に尾を引いているわけで、こういう世界情勢ではリーマン・ショックを抜きにして、ハゲタカシリーズは成立しないと思うようになりました。それで、この問題にちゃんと向き合って、小説に放り込んでやろうと本作に取り組むことになったんです。
――これまでのハゲタカシリーズでは主な舞台が日本でしたが、本作ではアメリカが舞台でマネーゲームに懲りないアメリカ人を描いています。
映画『ウォール街』(1987年公開)でマイケル・ダグラスが言った「グリード・イズ・グッド(欲望は善)」という台詞は、当時の金融業界のムードを象徴する言葉として知られています。2011年にニューヨークに行って金融関係者を取材したときに「かつてはグリード・イズ・グッドなんて言っていたけど、さすがにいまは反省したのでは?」と聞くと「とんでもない。アメリカンドリーム・イズ・グリードだ」って言い返されました。でも、そもそもキリスト教でグリードはよくないこととされています。
――七つの大罪のひとつですね(笑)。
彼らは「それは欲望が強すぎる人のブレーキをかけるための教えであって、我々には関係ない」との見解でした。あげくに「だいたいリーマンなんて古い話をするんじゃない」ってキレられて(笑)。そんなやりとりでわかってきたのは、アメリカの新陳代謝能力の高さです。大きな金融ショックが起きると、失敗した人はマーケットから一斉に退場して、その代わりに新しいプレイヤーが続々と参入してくる。そしてその人たちがまた新しいカネ儲けの方法を考え出すんです。そのバイタリティを目の当たりにすると道徳を口にすることさえ憚られる(笑)。
――格付け会社の人間が実は金融商品を理解していないということが書かれていて、そんないい加減なことがまかり通る業界なのかと驚きました。
金融の専門家だって、本当に個々の証券や債券の意味が詳しくわかっているかは疑問ですね。でも「みんなが踊っているのに、なぜ俺だけ踊るのをやめなきゃいけないんだ」と、カネ儲けの舞台から自分では降りない。
――アメリカは日本のバブル崩壊を見ていたはずですけど。
バブルがはじけて日本から1000兆円以上が消えましたけど、このときボロ儲けした国がアメリカです。ボロ儲けしたということは、日本がなんであんなことに陥ったかということもわかっていたはずなんです。なのに、失業者が家を持てるサブプライムローンなんて、冷静に考えれば無茶だとわかりきってる金融商品で同じ失敗をする。しかも動機付けの文句も同じ、「不動産の価値は下がったことがない」(笑)。それでも懲りないし、たいして反省しない。
――その厚顔ぶりが日本人にはなかったから、日本経済はこれだけ停滞したんですかね。
それくらいじゃないと世界一にはなれないということなんでしょうね。スティーブ・ジョブズなんて日本人の道徳観から言えば、とても独善的で非常識な人ですよ。自分の欲望に対して微塵も疑いを持たず、それを実現するためなら相手を騙したっていいくらいに考えていた人です。でも、アメリカでは成功者として認められる。日本でそれやると、堀江(貴文)さんや村上(世彰)さんみたいに叩かれてしまう。