「米国における人種対立の激化」ほか

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」 インテリジェンスレポートより

【はじめに】
今回のメルマガは、滞在中の沖縄県那覇市で執筆しました。那覇では、学童疎開船「対馬丸」が米国の潜水艦に撃沈され、多くの死者が発生してから70周年に当たる8月22日夜の追悼式典、ならびに翌23日に行われた小説家の大城立裕(おおしろ・たつひろ)先生との公開対談に参加しました。(略)

現在、辺野古で起きていることも、国策のために沖縄が翻弄されるという点では対馬丸事件と同じ構造を持っています。

国際情勢は混沌としています。中東、ウクライナだけでなく、米国における人種問題が顕在化してきました。ミズーリ州事件は、米国の宿痾なので、解決は難しいと思います。

分析メモNo.95「ロシアによる入国禁止日本人リストの通告」

【事実関係】
1.8月22日、モスクワでモルグロフ露外務次官が原田親仁(はらだ・ちかひと)在ロシア大使に対して、ロシアへの入国を禁じる日本人のリストを提示した。

2.入国禁止者の氏名、人数は発表されていない。

【コメント】
1.―(1)
前号(8月13日配信)掲載の分析メモNo.93 「プーチン露大統領は制裁リストからなぜ日本を外したのか?」において、7月17日に発生したマレーシア航空機墜落事件に対して、8月5日に日本が米国、EU(欧州連合)とロシアに追加制裁を加えた際、プーチンが日本に対して好意的反応をしたという見解を示した。この分析の要旨にその後入手した新情報を加えて、以下に記しておく。

8月6日、ロシアは、マレーシア航空機撃墜事件に関連して対露制裁を行った国家に対する対抗措置をとる大統領令を公布した。具体的には1年間の農産物輸入禁止措置だが、どの国を制裁対象とするかについては、メドベージェフ首相(前大統領)が決定することになった。

メドベージェフは、大変な日本嫌い。日本との関係を悪化させることに生き甲斐を感じている、変なおじさんだ。6日朝、首相府が作成した文書には、制裁対象国に日本が含まれていた。チマコワ首相補佐官が記者会見を行い、日本も制裁対象国だとはっきり述べた。しかし、プーチン大統領の決裁を得て夕刻発表された文書には日本の名前がなかった。

モスクワから筆者のところに入ってきた情報によると、プーチンがリストから日本を外したということだ。その結果、制裁対象国は、米国、EU、カナダ、オーストラリア、ノルウエーになった。これはロシアが、今年11月頃に予定されるプーチン大統領の訪日を諦めていないというシグナルだ。

-AD-

1.―(3)
しかし、外交で大統領を支えるロシア外務省が消極的になると、日露関係は停滞する。残念ながらロシア外務省は、8月5日に日本が追加的対露制裁を行ったことに過剰に反応し、プーチン大統領訪日を延期させようと画策している。日本の追加的対露制裁に対して、ロシア側は、少なくとも表面的には激しく反発した。

5日、ロシア外務省は、ザハロワ情報出版局副局長名で、<日本政府が新たに反ロシア制裁を決定した中でロシア外務省イーゴリ・モルグロフ次官と日本外務省杉山晋輔審議官が会談を持つことは不適切である。>(露国営ラジオ「ロシアの声」日本語版ウエブサイトより)と一方的に発表した。

もっとも、大統領報道官や外相でなく外務省情報出版局副局長という低いレベルで声明を行っていることは、これは、ロシアとしても「事をそれほど荒立てるつもりはない」というメッセージだ。

1.―(4)
問題は、杉山晋輔(すぎやま・しんすけ)外務審議官とモルグロフ次官の日露次官級協議がどの程度延期されるかだ。この次官級協議は当初、8月下旬に予定されていた。ロシア大統領の公式訪日の際には合意文書の発表が不可欠だ。外務次官級協議で、合意文書の作成準備をする。事務当局で合意できない部分を絞り込んで、外相会談を行う。北方領土に関する部分や大規模な経済協力については、外相会談でも合意することができないので、首脳会談での決断に委ねる。

ところが8月の外務次官級協議が中止されて、その後、再開の目処が立っていないために、合意文書策定作業が全く進まなくなってしまった。この状況が2ヵ月続けば、年内のプーチン訪日準備は時間切れになり、延期または中止を余儀なくされる。・・・(略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol043(2014年8月27日号より)

関連記事