前回の記事〈実は脳の神経細胞が「縮んで」いた!ついにわかってきた「うつ病」のメカニズム〉に引き続き、本記事では、脳科学の視点から最先端の研究を紹介した『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)の中から、特に多くの人々を悩ませる「うつ病」についてご紹介しましょう。
*本記事は『 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。
「 1日たった10分のストレス」で起きた変化
誰もが多かれ少なかれ、ストレスを感じながら生活をしていることでしょう。しかし、ストレスを受けたからといってうつ病になるとは限りません。どれくらいのストレスを受けると、うつ病になるのでしょうか。私たちの研究室では、次のような動物実験を行いました。
まず、大きくて攻撃的なマウス(大きなマウス)と普通の大きさのマウス(普通のマウス)を同じケージに入れて飼いました。すると、大きなマウスが普通のマウスを攻撃していじめるようになります。これは、普通のマウスにとっては大きなストレスとなります。これを1日10分、10日間続けると、普通のマウスの行動に変化が現れました。
通常、マウスは仲間を見つけると関心を示して近づいていくのですが、ストレスを受けたマウスの中に仲間に関心を示さないうつ様行動を示すものがいたのです。
それだけでなく、不安が高まり、適切な行動を柔軟に行えなくなるなどのうつ様行動も見られました。一方、同じストレスを受けたにもかかわらず、こうしたうつ様行動が見られない普通のマウスもいました。
「ストレスへの強さ」は遺伝子が関係している
この実験結果の興味深いポイントの一つは、実験対象のマウス(普通のマウス)はすべて、遺伝情報がほぼ同じ同一系統を用いたことです。遺伝子のタイプによってお酒に強い人と弱い人がいるように、ストレスに対する強さに関係する遺伝子タイプがあることが指摘されています。
しかし、たとえ遺伝情報がまったく同じで、同じ期間ストレスを与えても、行動が変わらないストレス抵抗性群と、行動が変わるストレス感受性群に分かれたのです