世界基準から大きくかけ離れている日本の中絶
昨年末に日本で初めて承認申請された経口中絶薬(以下、中絶薬)の承認が待たれています。一年経ってもなかなか承認に至らないのは、医師たちがどのような取り扱いにするのかガイドラインを作っているためだという話が関係者を通じて聞こえてきます。昨年の承認申請後、日本産婦人科医会の当時の会長が、経口中絶薬は母体保護法指定医しか扱えないようにし、手術と同等の10万円ほどの料金にするのが望ましいと発言し波紋を呼びましたが、厚生労働省も今年5月の参院厚労委員会で、経口中絶薬の服用の際には配偶者の同意が必要との見解を示し、「自分の体のことなのに、なぜ配偶者の許可が必要なのか」と批判が相次ぎました。
経口中絶薬に制約をかけるこの日本の方針は、世界のスタンダードから大きくかけ離れています。
なぜなら世界では、約30年をかけて中絶は女性(※1)にとって必須の重要な「医療」であることが確認され、リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利。以下、リプロ) を保障すべきだと考えられるようになったからです。
今回日本で申請されている経口中絶薬も、2005年から国連の世界保健機関(WHO)の必須医薬品モデルリスト入りしている非常に安全で有効な薬です。コロナ禍を経た今では、テレヘルス(遠隔医療)でオンライン処方したこの薬を自宅に送り、当人に正しい情報を与えて服用させる「自己管理中絶」という選択肢を与えることを国際産婦人科連合(FIGO)やWHOが奨励しているほどです。
日本の中絶状況がいかに世界の基準から外れているかをわかりやすく伝えるため、WHOが2022年11月に発行した補完文書『質の高い中絶ケアのための支援的な法律・政策環境に向けて:エビデンス・ブリーフ』(未訳)の法律・政策に関する推奨事項と比較してみたいと思います。問題になるのは次の5点です (冒頭の番号はガイドラインの中の推奨項目番号。⇒以降は日本の現状)。
1.中絶の完全な非犯罪化を推奨する。⇒日本には刑法堕胎罪がある。
2.a. 中絶の理由に基づいて中絶を制限する法律やその他の規則を推奨しない。⇒日本の母体保護法は合法的中絶の理由を定めている。
b. 女性、女子、その他妊娠した人の希望で中絶ができるようにすることを推奨する。⇒日本には当人の希望で中絶できる条項がない。
3.妊娠週数の制限に基づいて中絶を禁止する法律等を推奨しない。⇒日本では厚生労働省の通達で中絶可能週数が定められている。
7.本人以外のいかなる個人、団体または機関の承認の必要なく、女性、女子、その他妊娠した人の希望に応じて中絶できるようにすることを推奨する。⇒日本では配偶者の同意と指定医師の認定が義務付けられている。
21.WHOの手引きと矛盾するような中絶の提供・管理者に関する規制を推奨しない。⇒日本では母体保護法指定医師しか中絶を行えない。