5月下旬に新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「パンデミックの状況で五輪をやるのは普通はない」と発言して以降、しばらくになります。
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このセンテンスが広く知られる一方、私のような専門家目線では、カギとなる発言として「どのような状況で感染リスクが上がるのか、しっかり分析して意見するのが専門家の務めだ」という文が極めて重要であると考えています。
いまこそ、落ち着いてこの感染症のリスクと向き合うことが何よりも重要だと信じています。本稿では、今回のことを契機にあぶり出された日本の新型コロナ対策の根幹となる問題について、その本質に触れつつ整理したいと思います。個人的には、以下に述べる問題点の改善は、今後、日本が“科学技術研究の成果”を政策活用に結び付けられる国となるのか否か、そのカギを握るものとさえ考えています。
「政治」と「科学」の対立が煽られた経緯
最初に私の想いを述べますが、私は政府を政治的に糾弾したくてこの文を書いているのではありません。状況を広く議論することにより「政府vs専門家」という、ありもしない対立構造を煽る報道に終止符を打っていただきたいと考えています。
そういったことよりも、流行対策が暗礁に乗り上げない方法を必死に考えねばなりません。各人が持ち場に戻り、私もデータ分析の話に戻るために以下について記述します。そして、本稿の狙いが政治的な話でなく、「リスク評価」と「リスク管理」の関係である、ということが正確に伝わればと考えています。
さて、内閣官房が取り仕切る新型コロナウイルス感染症対策分科会や厚生労働省のアドバイザリーボードに参画する専門家は、平日夜間や週末に“自主的に”リスク評価にかかる相談を頻繁に実施してきました。