「このままでは日本の映画は本当に終わってしまう」――そう強く訴えるのは『海街diary』など数々のヒット作を世に出し、2013年には『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞受賞をした是枝裕和監督だ。
今年は邦画のヒット作がいくつも生まれたにもかかわらず、日本映画界への危機感をあらわにする。その心中とは――。
ガラパゴス化する日本映画
「日本の映画業界はどんどん閉じ始めている。海外で取材を受けた時、僕はそう答えるようにしています。良くも悪くも、日本映画は国内のマーケットだけで投資を回収できる可能性がある。なので、海外に出て行こうとする意欲が作り手にも配給会社にもありません。東宝、東映、松竹、角川など日本の大手の映画会社は特にそうです。
そうなると企画が国内で受けるものに特化してくる。この状況に強い危機感を感じます。海外に出て行くことがエライわけでもスゴイわけでもないけれど、40歳以下の若手映画監督の名前を海外で聞くことは、ほとんどありません。このままでは、日本映画自体が世界から忘れ去られてしまう」
欧米のみならずアジアでも興行収入ランクは、ハリウッド映画が上位を占めるのが常だが、日本だけは違う。邦画やアニメが年間のベスト10に入ってくる状況が続いている。こうした日本映画界の“ガラパゴス化”は、ユニークな現象だ。
そんな中、今年は『シン・ゴジラ』、『君の名は。』といった邦画が大ヒットし、業界内でも話題となっている。『シン・ゴジラ』は興行収入80億円を超え、『君の名は。』も184.9億円(11月16日現在)、最終的には200億円近くまで延びる可能性も十分にあり得る。
『シン・ゴジラ』は、総監督・脚本を『エヴァンゲリヲン』シリーズの庵野秀明氏が。『君の名は。』は『言の葉の庭』(2013年)などで人気の強い新海誠氏が監督だ。どちらも固定ファンをもつ作り手だが、これほどまでの大ヒットになるとは誰も予想していなかった。
「この2作品は、観ていますよ。周囲でも話題になっていましたからね。両作ともヒットの理由は、とても理解できます。とくに『君の名は。』は、当たる要素がてんこ盛りですからね。ちょっとてんこ盛りにし過ぎだろ、とは思いましたけど。この映画に限らず、女子高生とタイムスリップという題材からはそろそろ離れないといけないのではないか、と思います」
もちろん、映画がヒットすることは業界としても悪いことではない。是枝監督も、福山雅治主演の『そして父になる』が32億円という予想を上回るヒットとなったことで、その“価値”を経験済みである。
「『そして父になる』は、僕の従来持っていたキャパを超えた広がりをした作品でした。正直、そこまで観客が来てくれるとは思わなかった。そもそもヒットする要素を入れた作品じゃないし。
出資者側は、福山雅治さんが主演だし10億円くらいの興行収入は目指していたと思います。僕は、それまで10億円を超える作品を1本も撮ったことはありませんでしたから、まったくそんなことは考えもしなかった。
ただ、映画が公開されヒットした後は、町でおばちゃんから、“映画観たわよ!”とか声をかけられたりもした。日本アカデミー賞にも呼ばれて、テレビに映ったりするとこんなに人々の認知度は変わるのかと思った。映画を観たという人から声をかけられるのは、単純に嬉しいですね」