2025.01.06

53歳で司法試験に合格したノンフィクション作家が明かす「7年に及ぶ受験勉強生活で私を最も奮い立たせた負の感情」

ノンフィクション作家で、開高健ノンフィクション賞受賞者の平井美帆氏。このたび、7年に及ぶ「死闘」の末、司法試験に合格した。なぜ40代半ばで司法試験合格を目指したのか。最難関の試験にどうやって合格できたのか。全てを赤裸々に明かすルポの第二回――。

(第一回はこちらから)

どうして続けることができたのか

気がつけば足掛け7年、3回目の挑戦で合格し、私は53歳になっていた。

私をここまで突き動かしたのは、何だったのだろう? 最初のきっかけ――、人生の喪失感を埋めたい気持ちは、いざ勉強をはじめると頭から消え去っていた。いまにして思えば、私はこれまでさんざん自由に生きてきながら、他人の人生を表面的に見て僻んでいたにすぎない。

勉強を続けられた理由のひとつは、やればやるほど、少しずつでも成績が上がっていったからである。もうひとつは、単純に新しいことを学ぶのは刺激に満ちていたからだ。ただ、ここまでなら、学習の範疇にすぎない。試験は勝負である。

 

長きにわたる受験生活をもっとも奮い立たせたのは、私のアイデンティティにかかわる、あるルサンチマンだったように思う。

私は30代後半から長らく、親族と相続紛争を抱えていた。私の父は私が6つのときにヨットの遭難事故で亡くなったため、私は父の代襲相続人になる。だが、父方の祖父が亡くなっても、叔父・叔母から遺産分割をしてもらえず、揉めているうちに祖母が亡くなった。相続紛争は複雑なものとなって長期化し、弁護士探しや法律相談をくり返しながら、裁判所では相手方弁護士と幾度も対峙するはめとなった。

【PHOTO】iStock

私は確かに無知であったし、己の無知を呪った。しかし、無知であったことが悪いとは決して思っていない。何を言われようと、自分の権利を主張したことを後悔していない。あのまま、泣き寝入りしたほうが一生後悔した。

相手方弁護士は古くからの知り合いの叔父と強く連携し、証人尋問では私が懸命に答えると、ふたりで私を嘲笑した。彼は争点整理手続の場でも、私を見下した言動を隠さなかった。内心ではどう思われてもいい。しかし、弁護士が原告にそのような態度をとるとなると話は別だ。

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