【特別企画】
「ザナドゥ」38年周年! 今なお失われることがない魅力を持つモンスターゲームを振り返る
2023年11月3日 00:00
- 【ザナドゥ】
- 1985年11月3日 発売
PCゲーム史上で40万本という、最も売れたソフトとして有名なアクションRPG「ザナドゥ」は、日本ファルコムが1985年から86年にかけて発売した大ヒットタイトルだ。
現代のRPGのようなオープンワールドものではなく、閉じた空間が舞台となっているものの、攻略に際しての自由度の高さや隠された謎の多さなどは、当時としても驚くべきものだったが、そんな「ザナドゥ」は2023年11月3日で発売から38周年を迎えた。
今年6月には、「ザナドゥ」の名前を冠した新作「東亰ザナドゥeX+ for Nintendo Switch」がリリースされた。東亰の郊外に位置する杜宮市を舞台に、異界迷宮“ザナドゥ”を巡る物語が描かれる現代劇で、2016年に発売されたPS4用アクションRPG「東亰ザナドゥeX+」のNintendo Switch版となっている。
本稿では、これを機に初代「ザナドゥ」を振り返っていこう。
X1版を皮切りに多くのPCで発売。RPGがまだ珍しい時代
当時のPCユーザーであれば、誰もが知るタイトル「ザナドゥ」が発売されたのは、1985年11月3日。最初にリリースされたのはX1版で、それを皮切りに同月21日にはPC-8801mkIISR版やPC-8001mkIISR版、PC-9801版、翌年1月にFM-7版やFM77AV版、さらに1987年になるとMSX版やMSX2版が登場したことで、当時のPCユーザーならほとんどが体験可能となっていた。
1985年がどんな年だったのかというと、1月にNECから後にPC界の勢力図を塗り替えることになるPC-8801mkIISRが発売されたタイミングだ。夏にはPC-9801VM2、秋には富士通からFM77AVと多数の名機が登場していたが、「ザナドゥ」の開発に使われていたのはその前年、1984年冬にシャープからリリースされたX1Turboだった。
1985年当時は、まだまだアクションやアドベンチャーといったジャンルが流行していて、RPGは珍しいものだった。手元にある雑誌・月刊「ログイン」1985年3月号と、1986年3月号のゲームランキングを掲載したが、85年の時点ではRPGは僅か数本にとどまるのが、翌年の「ザナドゥ」がランクインしている時期には10本近くまで増えているのがわかるだろう。この時期は、「ハイドライド」シリーズと「ドラゴンスレイヤー」シリーズ、そして「夢幻の心臓」シリーズが、日本三大RPGと呼ばれていた時代だ。
そんな時代に登場した「ザナドゥ」は副題に「Dragon Slayer II」とあり、前年に「ドラゴンスレイヤー」を発売した天才プログラマの木屋善夫氏が手がけた「ドラゴンスレイヤー」シリーズ第2弾という位置づけ。
同シリーズ作品ということで、プレイヤーの最終的な目的はドラゴンを倒すこととなっている。細かなストーリーは設定されていなかったものの、マニュアルの「はじめに」部分には、以下のように記されていた。そこからも、1985年というのはRPGがまだ珍しいジャンルだったことが読み取れるだろう。
RPGは自分自身で一つのストーリーをプレイしながら作ってしまうとも言える、このゲームが単なる反射神経ゲームや、一つのストーリーの上を歩いて行くようなアドベンチャーゲームよりも、もっと面白そうではありませんか?
この世界におけるあなたの冒険は、最終的には、闇の世界に君臨する巨大な、数千度にも達する炎を吐く赤いドラゴンを倒すことです。目的は簡単明快ですが、これは非常に困難な冒険です。なぜなら、このドラゴンを倒すには、神々が遠い昔、ある王に与えた幻の剣“Dragon Slayer”でなければならないからです。しかし、それは、どこかに隠されてしまいました。唯一の手がかりは、精霊の王たちの王冠にあるとの噂です。まず冒険はそれを探すことから始められなければならないでしょう。さあ、すぐに旅立とうではありませんか!
前作「ドラゴンスレイヤー」は、アクション要素が入ったターン制のパズルRPGという形だったが、「ザナドゥ」は完全なアクションRPGとなっている。プレイヤーは主人公を操作し、ダンジョンに入り敵を倒して経験値を稼ぎながらアイテムなどを回収しつつ王冠を見つけ、どこかにある“Dragon Slayer”を手に入れてキングドラゴンを倒すのが目的だ。
なお「ザナドゥ」は多数の機種でリリースされているが、MSX(1)版を除けば見た目や内容は大きく変わらないので、この記事で使用している画面写真などは最初に発売されたX1版を使用している。
パラメータの割り振り次第! 特徴的なキャラを創り出せたキャラクターメイキング
本作にはさまざまな特徴があるが、そのうちの1つが最初に行うキャラクターメイキング。王様に面会して名前を入力すると、その時点で3,500ゴールドを得ることができる。これを、地上にある7つの道場にて消費し、プレイヤーキャラのステータスをアップさせていく。つまり、この3,500ゴールドをどのように使うかで、各プレイヤーごとに特徴的あるキャラクターを創り出すことが可能だったのだ。
例えば、STR(ストレングス)とINT(インテリジェンス)を100に、AGL(アギリティー)に50割り振れば、剣と魔法の両方に長けた魔導戦士として運用することができる。CHR(カリスマ)を100にしておけば、ダンジョン内でのショップで買い物をする際に定価(CHR50時)の25%引きで購入できる、商人のような感じのプレイをすることが可能になるなど、プレイヤーの思うがままのキャラでゲームを進行できるというのが非常に面白い部分だった。
ダンジョンの攻略方法は一通りにあらず。限られたリソースをどう配分するかが鍵
キャラクターメイキングを終えて地下へのハシゴを下り、最深部にある洞窟を通れば、そこからが冒険の始まりとなる。
洞窟を抜けた先のダンジョンは、レベル1と呼ばれる場所。地下にはレベル1から10までのダンジョンがあり、レベルが上がるほどに敵モンスターのステータスも強くなっていく。各レベルには8種類の敵が存在し、おのおの倒されても4回目までは再出現するものの、それを退治すると二度と現れなくなる仕組みだ。つまり、オーソドックスなRPGのように、敵が永遠に出現し続けるわけではない。
敵との遭遇は、今でいうところのシンボルエンカウント方式となっており、モンスターと接触するとそれまでのサイドビューから一転、トップビューのバトルシーンへと移行する。戦闘フィールドではプレイヤーキャラを上下左右に移動させ、現れた1~9体の敵と戦っていくことになるのだ。
プレイヤーキャラを敵モンスターにぶつけることでダメージを与えられるのだが、単なる体当たりで終わっていないところが「ザナドゥ」の凄いところ。敵味方共に正面や背後それぞれに防御力が設定されており、攻撃がヒットした場所によってダメージが変化するようになっていたのだ。
敵は基本的に背面の防御力が低いので、相手の進行方向後からアタックするのがセオリーだし、反対にプレイヤーキャラの場合は鎧を着ていれば全方位からの、盾は前方からの攻撃を軽減するため、それを踏まえて移動することが戦闘シーンでのコツだった。そのために、シフトキーを押しながら操作することで向きを固定しての移動ができるようになっており、これも気づいた時には非常に感心したもの。
また、戦闘ではスペースキーを押すことで魔法を使うこともできた。使用するとプレイヤーキャラから魔法が射出され、一直線に飛んでいく。その途中、CTRLキーを押しながらテンキーを操作すれば、方向を変えることも可能だ。ただし、魔法が出現している時間はINTの数値に関係してくるので、鍛え足りないと敵に届く前に魔法が消えてしまうことも……。
つまり、敵の射程外から魔法で攻撃すればノーダメージで敵を倒せるのだが、ここにも「ザナドゥ」の魅力が仕込まれている。敵は倒されると宝箱に変化し、これを開けることで中からゴールドやフード(食料)が出てくるのだが、最後の1体を体当たりでトドメを刺すことで、アイテムが出るかもしれない赤い宝箱が出現するのだ。なかには希少なアイテムを持っている敵もいるので、魔法だけで戦っていると冒険を有利に運べるアイテムを取り逃がしてしまうことにもなりかねない。
さらに、プレイヤーキャラには“戦士としての経験値”と“魔法使いとしての経験値”の2種類が用意されており、武器で倒せば戦士としての経験値が、魔法で敵を倒すと魔法使いとしての経験値がそれぞれ増えていくようになっている。どちらもバランス良く育てていくことで、キングドラゴンを倒せる勇者へ成長していくのだが、魔法ばかり使っていれば戦士としての経験値が増えないため、これも後々困ることに(慣れてくれば、そのようなプレイスタイルももちろんアリだ)。
そんなプレイヤーキャラクターが装備できる武器・鎧・盾・魔法そしてアイテムが、各17種類用意されている。しかも、それら各々には熟練度というパラメータが設定されていた。これは言うなれば“使い慣れたナイフのほうが、初めて扱う剣よりもダメージを与えられる”をシステムに取り入れたもので、熟練度の高い安物の武器が熟練度の低い高価な武器よりも威力を発揮するのだ。
実際にゲームをプレイしていくとわかるのだが、例えば最初から装備しているダガーをワンランク上のショートソードに買い換えたとする。しかし、しばらくはダガーのようには攻撃がヒットしないし与えるダメージも低いため、戦いで苦戦してしまう。ところが、それを我慢して使い込んでいくと徐々に大ダメージが出るようになっていく。この“熟練していく様”を体験させてくれるのは、まさに「ザナドゥ」ならではだった。このようなシステムが既に38年前にあり、そしてプレイヤーを魅了していたというのは、驚くべき事だろう。
戦闘を重ねていくと経験値が溜まっていくのだが、それだけではレベルアップすることはない。キャラクターを成長させるためには、ダンジョン内にあるTEMPLE(寺院)に入る必要がある。その際に十分な経験があれば、戦士レベルや魔法使いレベルがアップし、合わせて最大HPも増加。より強い敵と戦うことができるようになるのだ。
なお、寺院でレベルを上げるためには1つ、大事なことがある。それは、KRM(カルマ)のパラメータが0であることだ。本作におけるカルマは悪行を指し、データセーブ時に必要となるゴールドが足りなかった場合や、倒してはいけないモンスターを殺してしまった場合に付与される。
レベル3くらいまではあまり気遣わずにセーブしたり、闇雲に敵を全滅させてしまうことが多いため、気がつかないうちにキャラがカルマまみれになっていることも……。そうなるとレベルアップできないため、結果的にやり直したという経験を持つ人もいるのではないだろうか。カルマを減らす方法もあるが、当時それを自力で見つけたという話は自分の周囲では聞かなかったので、雑誌の攻略情報で知るまでは筆者も苦しめられたものだ。
プレイヤーキャラは、一定時間ごとに少しずつ、FOOD(食料)を消費していく。これが0になるとHPが減少し、緩やかに死へと向かう。つまり、冒険には食料が欠かせないのだが、レベルが上がると消費する食料の量が増加してしまうのだ。
食料は、FOODという看板が掲げられている食料屋にて1ゴールドにつき10FOOD買えるのだが、モンスターを倒して得られるお金は他にも装備品などを購入するのにも使われる。しかも、敵は決められた数しか登場しないため、無限にお金を稼ぐこともできない。つまり“限られたリソースをどのように配分するのか”にも頭を悩ませなければならないのだ。
これが「ザナドゥ」最大の面白さであり、今でも大勢のユーザーを惹きつけて止まない部分なのではと考えている。
ダンジョンを探索していると、所々に塔があるのがわかる。入口でスペースキーを押すと中に入ることができるのだが、塔の内部は戦闘シーンと同じトップビュー展開となり、上下左右の空いている部分から隣の部屋へと移動することに。なかには扉で塞がれている場所もあり、そのようなドアは鍵を消費して開けなければ先へと進めないのだ。
鍵は、敵から入手したり鍵屋にて有料で購入できるのだが、プレイヤーキャラがレベルアップするにつれ鍵の価格もドンドン上昇していってしまう。上述した食料だけでなく、塔内を探索するのに必要不可欠な鍵もまた、モンスターを倒した時に出現するゴールドでまかなわなければならないのだ。
さらに、塔内にはクラーケンやドラゴンといった通称“デカキャラ”と呼ばれるモンスターも存在する。プレイヤーキャラや通常の敵の何倍もの大きさがあり、もの凄いプレッシャーをかけながら襲いかかってくるのだ。それまでのゲームにも巨大なキャラは存在したと思われるが、“デカキャラ”という単語を有名にしたのは間違いなく「ザナドゥ」だろう。
今プレイしても色褪せることはない「ザナドゥ」の面白さ。現代ハードで今もプレイ可能
自由度の高いキャラクターメイキング、広大なダンジョンフィールド、方向により防御力が異なる戦闘システム、装備品やアイテムに設けられた熟練度、塔の奥に潜むデカキャラ、そして謎を呼んだカルマのパラメータ……1985年当時、これだけの魅力を持ったソフトは存在しなかったと断言できるだろう。
それ故に、累計で40万本を発売するほどの人気を得たというのも頷ける話だ。そして、今プレイしても面白い作品だというのも疑いの余地はない。一部に少々意地悪なところはあるものの、時代を考えれば十分許容できる範囲だったと言える。
現在「ザナドゥ」をプレイするには、PC向けであればプロジェクトEGGからPC-8801mkIISR版などがリリースされているほか、近いうちにNintendo Switchで遊べるバージョンも登場予定とのこと。この冬に昔を思い出して、久しぶりに遊んでみてはいかがだろうか。もしかすると、当時見えなかった面白さを改めて発見できるかもしれない。
(C)Nihon Falcom Corporation.