抄録
ヒト血中サイログロブリン(hTG)の酵素免疫測定法を新たに開発し,種々の甲状腺疾患々者において測定した.正常値(n=50)は, 13.2±16.2ng/ml(平均±標準偏差)で,甲状腺癌(n=93)では977.1±1,919.8,良性腺腫(n=72)では689.8±1,624.6,腺腫様甲状腺腫(n=42)では623.9±1,313.4,のう腫(n=8)では100.5±184.0,バセドウ病(n=30)では461.6±459.4,亜急性甲状腺炎(n=13)では424.6±821.9,慢性甲状腺炎(n=15)では104.7±194.0であつた.甲状腺癌の中でも〓胞状腺癌に異常高値を呈する例が多かつた.乳頭状腺癌においては切除腫瘍重量とhTg値に弱い相関が認められたが,〓胞状腺癌や腺腫様結節では相関は認められなかつた.又,分化癌において頚部リンパ節転移の有無とhTg値には全く相関がなかつた.髄様癌では特徴的に全例で正常値をとり,癌でのhTg上昇のメカニズムとしては正常甲状腺組織の破壊によるものより,腫瘍そのものからの分泌の方がより重要と考えられた.さらに, hTg値からその結節の良性と悪性を鑑別することは困難と考えられた.バセドウ病では未治療時高値で,治療により低下する傾向があり,寛解中の患者の多くでは正常値であつた.従つて,抗甲状腺剤中止時期決定の参考になると思われた.血中TSH上昇にも敏感に反応するので注意が必要である.亜急性甲状腺炎では,その病勢とよく相関して変動し,治療経過観察のよい指標になると思われた.