Handibotを使った継手加工
海外のアーティストを誘致して滞在制作をサポートするアーティストインレジデンスプログラムを運営するOffline Ventures出資のもと、東京大学創造情報学を専攻するMaria Larssonさんとのコラボレーションで、CNCルーターを活用した「継手加工」プロジェクトを実施しました。
Maria Larssonさんは、日本の伝統的な木工継手の研究を進める傍ら、継手の形状を容易に設計し、CNCルーターを動かす切削データを書き出すアプリ「Tsugite App」を開発しています。我々はその「Tsugite App」から書き出された切削データを加工・検証し、アプリ側にフィードバックしながら、最終的なゴールである「屋台」の制作を行いました。
「Tsugite App」は、木材の寸法入力から始まり、繋ぐ角度や本数を自由に設定でき、ボクセル操作の要領で継手の形状をデザインできます。このアプリの優れている点は、例えばA,B2本の棒材を繋ぐとした時に、棒材Aの形状をデザインすれば自動的に棒材Bの形状も導き出される点です。3本、4本と継手の構造が複雑になった場合も同様で、加工できない形状などではエラーを表示して、問題箇所を伝えてくれます。継手の設計だけでなく、切削データまで書き出すことができます。鋭角に切削できない内角部分も、使うツールの径に合わせて互いに形状補正されるので、ほとんど切削後の後加工を必要としません。
木工用CNCルーターを使った加工は、一般的に板材に対して行われます。そのため平面方向(XY軸)に広い加工エリアが取られており、垂直方向(Z軸)には強い制約がある場合がほとんどです。下の写真のような継手の場合、棒材を垂直に立てて加工したいところですが、長い棒材を立てて固定して切削できるCNCルーターはまずありません。
そこで我々は、Handibot(ShopBot製)をアルミフレームで組んだ専用の台に固定して、長い棒材を垂直方向から加工できる様にしました。Handibotは本体を垂直に傾けても動作するため、台より長い棒材を加工したい場合は、台ごと寝かせて加工することができます。理論上、どんなに長い棒材も端面に対して垂直に加工できる様になりました。
加工内容に応じてHandibotとMDX-540(Roland DG製)の両方に作業を振り分け、27本の棒材を加工しました。完成した屋台がこちらです。継手だけでなく、今回は屋台の暖簾としてキャンバス地に刺繍も加えました。
今回のプロジェクトは、ソフトウェアと連動しながら機材をアップデートさせることで、ものづくりの可能性が広がっていく格好の事例となりました。従来の道具や手工具が使い手の工夫でアップデートされていく様に、デジタルファブリケーションもまた、こうした工夫から新しい価値を生み出す可能性を秘めています。
【Links】
Offline Ventures
Maria Larsson
【10/24 追記】
Tsugite App Ver.1.0がMariaさんのプロジェクトページで公開されました(Win10, 非商用利用に限定)。
Tsugite App Project Page
また東京大学のプレスリリースにも、本研究が紹介されています。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00138.html
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