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戦時設計

せんじせっけい

文字通り戦時下で行われる設計。
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概要編集

戦争の期間中だけ使用する前提で、「質より量」を追求した設計の総称。

デザイン性を度外視する事は大前提として、その上に次のような手法を積み重ねた。

  1. 性能も必要最低限に。無くてもいい部品は作らずコストと工数を低減。なんなら安全装備も省略して気合いでなんとかする。
  2. ニッケルアルミニウムゴムといった素材は戦略物資なので、陶器コンクリートなどで代用。
  3. 代替不能な部分も極力薄く軽く造り、使用量を節約。軽量化は燃料の節約にもなる。
  4. 機械加工を多用し、単純な直線円筒を流れ作業で組み合わせてゆく。職人芸的な工程を排除して、どこでも誰でも簡単に作れるようにする。
  5. 規格を統一し、類似の製品にも水平展開してゆく。生産がいくぶん柔軟になり、教育の手間も省け、最悪共食い整備までしやすくなる。

言わば意図的な粗悪品であり、当然の事ながら不備不調を頻発し多くは不評に終わるものである。

他方で政治軍事的な圧力が強く働く関係上、良かれ悪しかれその後の工業生産に影響を及ぼす可能性は高く、技術史における存在感は決して小さくない。


類似の概念編集

  • 大量生産:それを前提として設計されるものの、手の込んだ手抜き状態になって失敗したり、そもそも戦争の終結で用済みになったりで必ずしもイコールにはならない。
  • 粗製濫造:結果的にこうなる事が多いが、あくまで短期的な利益を追求した結果としての無責任な売り逃げとは異なり、まかりなりにも材料調達から現場での使用までが総合的計画的にデザインされているという点で本質は正反対と言える。
  • 使い捨て:耐久性を犠牲にはしているものの、戦争はいつ終結するかわからない以上、使える限りは入念に整備して使い続ける事を求める点でやはり異なる。それすらも放棄し、そもそも「平時の」「正常な」形態が存在しない「人間魚雷」のような例は一般的に「戦時設計」に含まない。
    • パンツァーファウストM72などの歩兵用対戦車ロケットの一部機種のように、弾頭部がメインで、コストや量産などのためにあえて使い捨ての構造にする事もある。ソユーズなどの有人宇宙ロケットのように、再使用可能なように造る技術が無いか、技術があっても製造や運用にコストがかかりすぎたり信頼性の低下に結びつく(宇宙飛行士も高度な技能職であり、育成コスト自体も莫大なため、事故が多いとロケットのみならず人材供給にも問題が生じる。スペースシャトルも参照)ため、あえて再使用は考えず「一回の使用が確実に行える」方向で設計や製造を突き詰めるケースも。
    • 軍用機増槽は戦闘時に投棄するので基本的に使い捨てだが、ナチスドイツのように増槽に使う資源を惜しんで「礼金を出すので届けよ」との記載までして増槽の残骸を回収・再資源化したケースや、敵に資源化させないためや資源節約のため、木や紙などで増槽を作った例もある。
    • 逆に、戦後も引き続き物資が欠乏する中で復興用に生産を続けざるを得なかったという事例も発生しており、改修を繰り返されながら長期間第一線に立ち続けた物品も珍しくない。あくまで設計時点の状況とコンセプトを基準に判断される概念と言える。

代表例編集

鉄道編集

碌な仕上げ加工をせず、除煙板を排除し、「砂箱」は本当にただの箱に、炭水車に至っては船底のような構造にして台枠(人間で言う背骨ぐらいの重要パーツ)を無くすという徹底的な簡素化の下に造られた。

ドイツの場合ナチスの意向で平時から戦争を意識した設計を研究していたものの、ここまで構成部品を削減してしまうと流石に保って5年程度と言われた…のだが、良好な性能を発揮した個体が多く現代でもまだ動く保存機があるほど。

BR52型の元を辿ると戦前に設計され量産されていた優秀機BR50型で、この設計を元に性能を落とさずに量産性を上げる目的で徹底的に突き詰めて設計したため、多少使い勝手は悪くなったものの優秀な性能を発揮した。原型となったBR50より改良されていた点もあり、密閉型運転室を装備した車両(ノルウェー型と呼ばれた)もあり、寒冷地で快適な運転環境を提供したほか、復水式(使い終わった蒸気を冷やして水に戻し、再使用するタイプ。水の少ない土地で使われた)仕様の車両も造られ、この技術は戦後南アフリカ共和国向けの車両に応用されている。



しかも侵攻先まで走ってゆける設計が功を奏し、戦後は東西問わず周辺各国の復興まで支える事になったばかりか、冷戦の混乱に乗じて勝手にコピー品まで造られた始末。その結果、当事者すら何両作られたか把握できない脅威のヒット作となっている。

ドイツ向けだけで少なくとも6000両が竣工、ドイツ支配下で生産に協力していた工場が解放後に仕掛品を完成させたり、一部では戦後にコピー生産までしたため、諸説あるが9000両以上竣工したとも言われており、鉄道機関車の単一形式でこれほど多く生産された例は他に無く、群を抜いた世界最多量産機関車と言われている。)


  • 日本国鉄D52形蒸気機関車

元々は貨物輸送を担う最強の蒸気機関車として計画されていたが、戦局の悪化でボイラーに使うすら削減。結果、出力が上がらないばかりか加圧に耐えきれず走行中に自爆する事故が多発した。もちろん死者が出ており、当時の乗務員からは爆弾の上に乗務しているよう」とまで言われた。

戦後にボイラーの載せ替え等が行われると本来の性能を発揮するようになり、復興の担い手となった。

生産能力の偽装工作としてナンバーを意図的に飛ばしており、最初から存在しない個体がある事も有名。また、車籍と部品の一部を利用して旅客用の「C62形」に大規模改造された個体もあり、そのあたりの事務的な処理にも戦争の影響が色濃く出ていた。


石炭輸送を主目的とした無蓋車積載量を増やすために補助輪感覚で車輪を増やした点が最大の特徴で、その他塗装すら惜しんで木の地肌そのままに就役させた個体なども存在した。

しかし、増やした中間車輪がカーブで抵抗を生み、走行不能に陥ったり脱線したりと散々な有様だった。この先天的欠陥は改善しようがなく、戦後は早々に淘汰された。特異な形状もあって戦時設計の失敗例として逆に有名な存在。せめて片ボギーにしておけば…


通称「木とセメントで造った機関車」。正確に言うと「木で造ったら軽すぎて使い物にならなかったのでセメントで塗り固めた機関車」である。木製部分も建て付けが悪く、冬場の乗務は過酷だったとか。

設計担当が時の東條英機首相に「寿命はどれくらいか」と聞かれ、とっさに「大東亜戦争に勝ち抜くまで保ちます」と応じてその場を取り繕ったという逸話がある。

戦後は構成部品の大部分が「EF58形」の大規模改修で発生した品に交換され、内外共に戦前の一般的水準にまで向上した。その後は他の戦前型電気機関車に伍して高度経済成長を支え、静かに歴史の中に消えていった。


「内装」という概念を捨て去り、骨組同然の姿で営業を始めた「走るバラック」。厳密に言うと、当初はモーターにも事欠いたため自走する事さえできなかった

自走させたらさせたで事故の引き金となり、「走る棺桶」に悪化。改修がてら「72系」へと改名されている。ほぼ別物になった上記EF13形でさえ名前は保った事を考えると、改めてこの車両の異常性が際立つ。

もっとも、この車両を「まともな電車」にしてゆく過程は「通勤型電車」の歴史そのものであり、現代の首都圏で一般的な「全長20m、片側4扉」というフォーマットが元を辿ればここに行き着く事もまた事実である。


船舶編集

大戦期に各国が建造した戦時設計の貨物船の総称。詳細はリンク先参照。


命名すらも簡素化(草木の名前から名付けられ、ネームシップのを始め漢字一文字の艦名の艦が多かった)した日本海軍の駆逐艦。草木名を艦名としたことから俗に「雑木林」と呼ばれた。(実際には明治大正期の駆逐艦にも草木名は使われており、単に分類するためとも)

しかし、最短5ヶ月の建造時間、就役だけで32隻の建造数は共に過去最高値であり、大戦中に得られた教訓も可能な限りフィードバックされていた。この中の一隻「」が戦後に海上自衛隊で再就役した事例からも、方向性は間違っていなかったと言える。


別名「週刊空母」米帝が米帝と言われる所以である。

一応断っておくと、流石のアメリカも1隻の空母を1週間で完成させられたわけではない。それはそれで、それだけの同時並行生産ができたという恐ろしさになるのだが。



銃器編集

英国が生み出した、元祖戦時設計短機関銃。ほぼ鉄パイプ同然の見た目と今一つな性能で悪名高かったが、その圧倒的な生産性と必要最低限は満たす程度の能力でWW2英国陸軍の歩兵戦闘を支えた。

大戦末期にはドイツでもコピー品が生産され、戦後もこれを原型としたSMGが各国で開発されている。


通称「グリースガン」。当時制式採用の「トンプソン・サブマシンガン」の生産性が低く重かったため、上記「ステンガン」にインスパイアされて製造された。

プレス加工と溶接のみで生産でき、設計も優秀。アメリカの同盟国に大量に供与され、フィリピンでは今も現役。本国でもアフガンやイラク相手に2005年くらいまで使われていたらしい。


「ヒトラーの電動ノコギリ」としてその名を轟かせた名銃。機関車といい、戦時設計って何だっけ?

優秀だが生産性が低く(必要人員が一丁あたり約150人)高価(同357ライヒスマルク)だった「MG34」に代わり、プレス加工を多用した構造で量産を始めた。その結果75人程度の人員と250ライヒスマルク程度のコストで同等かそれ以上の性能が実現してしまった。

あまりの優秀さから戦後も7.62mmNATO弾に仕様を合わせた程度で使用が続けられ、やはり周辺各国にも広まって一時代を築いている。


通称「リベレーター」。ヨーロッパ各国の対独抵抗運動への支援を目的に設計された単発銃。1丁あたりの組立時間は7秒足らずで、「装填から発射までよりも短い時間で製造された唯一の拳銃」とも呼ばれる。

弾丸を加速させるには短い銃身・狙った所に飛んでいかないスムースボア・自動排出されない薬莢撃ち続けると溶接部分から裂けるなど、欠点の盛り合わせ。あくまでテロリズムを前提とした、使い捨てに近い設計と言える。


その他編集

ガンダム』に登場した機体群。機体規格の画一化や整備・運用性を向上させる目的で始動したとされる事から、創作物における戦時設計の例として挙げられる場合がある。

相打ちではあるが、数少ないガンダムを倒した「ザクⅡ改」や部隊一個を殲滅させた、組み立てが簡単な「ケンプファー」などがあった。


関連タグ編集

独国面 日本面 英国面 米国面

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