マヤノトップガン
まやのとっぷがん
マッハの衝撃波。
4歳の菊花賞、有馬記念、5歳の宝塚記念、そして6歳春の天皇賞。
まさに狙い定めたように数々のビッグタイトルを獲得してきた。
阪神大賞典でのナリタブライアンとの歴史に残る名勝負も記憶に新しい。
田原成貴の手綱さばきとともに相手が強くなればなるほどその戦法は変幻自在だ。
いつ動きだすのか、どこから来るのか、ライバルたちは常にトップガンの脅威に晒される。
狙いは正確にして機を見るに敏、勝利を射程に収めると一気に加速するその決め手はまさにマッハの衝撃波だ。
- ヒーロー列伝No.42
※本馬をモチーフとする『ウマ娘 プリティーダービー』のキャラクターについては→マヤノトップガン(ウマ娘)の記事を参照。
(※この記事では、馬齢表記に旧表記(数え年表記=現馬齢+1歳)を用います。)
生年月日 | 1992年3月24日 |
---|---|
死没日 | 2019年11月3日(27歳没) |
英字表記 | Mayano Top Gun |
性別 | 牡 |
毛色 | 栗毛 |
父 | ブライアンズタイム |
母 | アルプミープリーズ |
母の父 | Blushing Groom |
5代内のインブリード | Nasrullah4×5 / Alibhai5×5 / Nearco5×5 |
馬主 | 田所祐 |
調教師 | 坂口正大(栗東トレーニングセンター) |
競走成績 | 21戦8勝 |
田原成貴騎手の代表的騎乗馬。日本ダービー当日に2勝目を上げた遅咲きの晩成馬で、菊花賞を制した勢いで同年の有馬記念も制して1995年JRA賞年度代表馬に輝いた後、GⅠ4勝を全て異なる戦法で勝つ万能性を武器に「変幻自在」と讃えられた。
誕生~3歳時代
1992年3月24日、ナリタタイシン、後にブルーコンコルドを輩出した川上牧場で誕生(いわゆる95世代)。
母・アルプミープリーズは米国産馬で、未出走のまま現地で繫殖入りして2頭の仔馬を産んだ後、ビワハヤヒデ・ナリタブライアン兄弟等を輩出する早田牧場で繋養されていたが、その血統に目を付けた川上牧場の当時の代表に高値で売却され、川上牧場で2頭の牝馬を産んでいた。
ブライアンズタイムが配合相手に選ばれたのは、早田牧場との縁に加えて血統面での相性の良さから、ステイヤータイプの良馬が産まれることを期待してのものであった。
(なお、アルプミープリーズは翌々年の1994年に牧場の経営難を理由に別の牧場に売却されるも、移動先の牧場で出産中の事故によりお腹の仔馬共々死亡している。)
人懐っこく健やかに育っていったため、産まれて間もない頃から牧場関係者からの期待度は高く、当時の代表もマスコミの取材に対して「タイシンの後に来るのはこの馬だ」と豪語していた。
その後、牧場を訪れた坂口に購入され、その得意先の馬主であった田所の持ち馬となる。
元々坂口は本馬の半姉が本命だったもの、その仔馬が既に別の馬主に買われてしまったことからその代替として、本馬を産まれたら坂口が貰うという約束を1年前に川上牧場と交わしていた。そして田所が馬選びを調教師に任せていたことから、坂口の薦めで田所がそのまま引き取ることとなった。
そして、田所が営む病院に勤めていた事務員の提案で、彼女の好きな映画作品にあやかり、マヤノトップガンと正式に命名された。
しかし、厩舎に入ってきて間もなく、調教中に足を痛めたことから休養を余儀なくされ、休養明けの3歳秋からはプール調教を中心としたメニューに組み直され、初出走は年明けの4歳新馬戦まで待たざるを得なかった。
4歳時代
1995年1月8日、武豊を鞍上にデビューし、1番人気に支持されるも、後の桜花賞馬・ワンダーパヒュームの5着に敗れてしまう。
その後、武騎手との3度目のコンビで挑んだ4戦目の未勝利戦で初勝利を掲げ、日本ダービー当日に2勝目を掲げた。この2勝目以降、田原が主戦として引退時まで定着した(田原は田所の持ち馬であるマックスビューティの主戦であり、かつて坂口厩舎に所属していた田所の持ち馬・マヤノペトリュースにも騎乗していた縁から起用された)。この時までは足元の弱さが懸念されてダートを主戦としていたが、ダートの条件戦が少なくなることやトップガンの足元が徐々に安定してきたこともあり、芝に転向。
格上げ挑戦で出走した神戸新聞杯では、5番人気ながら逃げ粘ってタニノクリエイトの2着、次走の京都新聞杯では2番人気に支持されながらもナリタキングオーの逃げ切りを許して再び2着とクビ差に泣かされ重賞初勝利を飾れなかったものの、いずれも1番人気のダービー馬・タヤスツヨシに先着する健闘ぶりの結果、菊花賞本番への優先出走権を獲得し、そのまま参戦が決定した。この健闘ぶりから、夏の上り馬として競馬ファンや一部の評論家から一目を置かれるようになる。
そして、菊花賞本番を迎えた11月5日。レースでは好スタートを切って先頭に位置取りをして、前馬の失速を捉えて、第3コーナーからギアを上げ、そのまま後続集団を突き放して1着。
このときの走破タイムである3分4秒4は当時のレコード記録であり、坂口にとっては初のGⅠ勝利、鞍上の田原騎手にとって初の牡馬クラシック勝利でもあった。
田原はこのときの嬉しさを十字を切って投げキッスという派手なパフォーマンスで示したが、これは同年の凱旋門賞をラムタラで制したランフランコ・デットーリの真似でもあり、後輩の騎手たちから「勝ったらやってくださいよ」と言われたためにやったと語っている。
そして、次走はその年の有馬記念に選ばれたが、トップガンのコンディションなどの様子見などもあり、正式な出走表明は1週間前となった。
レースでは、1歳上の三冠馬ナリタブライアンやヒシアマゾン、同期の皐月賞馬ジェニュイン、その年の天皇賞(秋)優勝馬・サクラチトセオーなど豪華な面々が揃っており、菊花賞での混戦ぶりから6番人気に落ち着いた。
レース当日の12月24日は、来ていた人々の被っていた帽子が吹き飛ばされてしまうほどの強風が吹いており、トップガンが得意とする逃げ戦法に不利な天候状態と見做されていた。
このため坂口は、作戦変更を提案するため「今日は風が強いなぁ」とレース前の田原に話しかけるも、明確な逃げ馬がいないことからトップガンが逃げを打ってレースを支配したほうが最善策と考えていた田原は坂口の真意を読み取ってか「このくらいの風なんか強くですよ!」と反発、逃げ戦法にこだわった。
そして、レース本番ではハナを切って進めてスローペースに落とし込み、坂口の不安をよそに強風を物ともせずそのまま逃げ切り勝ちを収め、GⅠ2勝目を飾った。
5歳時代
古馬となった1996年の年初は、前年度のローテーションの疲れも考慮して、天皇賞(春)を第一目標に休養に専念。当初坂口は、前緒戦として産経大阪杯を視野に入れていたが、天皇賞本番とレース距離が近いこと、そしてローテーションにゆとりを持たせたいといった理由から田所の同意の元、田原の提案で阪神大賞典が選ばれた。同レースにはナリタブライアンも出走を表明していたことから、ブライアンとの再戦が実現することとなった。
当初の予定から前倒しとなったため疲労回復を優先して調教は捗らなかったものの、ブライアンと僅差で1番人気に支持された。
そしてレース本番は、得意のスローペースに持ち込み2周目の第3コーナーから後続集団を突き放して逃げ切りを図るも、後ろから追い上げてきたブライアンと競り合いながら第4コーナーを回って最終直線を激走、2頭揃ってゴールイン。写真判定の結果、アタマ差でブライアンに軍配が上がり、トップガンは2着に敗れた。
この日は日本の競馬史上における歴史的なマッチレースとして後世に語り継がれるが、この惜敗は坂口に大きな自信をもたらし、「あれほど万全でない状況でブライアンとあのような接戦ができるのなら、もう少し軽めに調教すればブライアンに勝てるはずだ」と考えた。
そして、本番の天皇賞(春)では前回に続いてブライアンに次ぐ2番人気に支持されるも、1周目から掛かり癖が出て暴走し、2周目の最終コーナーでこそ阪神大賞典と同様にブライアンとの競り合いを演じるも、最終直線にかかると徐々に失速、再びブライアンに交わされるばかりか、後方からやって来た同じ上がり馬のサクラローレルにも差し切られ、よもやの5着に敗れてしまった。
坂口は、掛かり癖の原因が(軽めとは言えども)調教をやりすぎてトップガンの機嫌を損ねていたことにあったと分析し、トップガンの能力を過信しブライアン以外のライバルを軽く見ていた自分の考えの甘さを深く恥じた(引退後のインタビューにおいてもこの敗北について「あれは調教師として一番の失敗でした」と振り返っている)。しかしながら、坂口はマスコミの取材に対しては「立て直して借りを返せるように頑張りたい」と前向きなコメントを残した。
坂口たちは宝塚記念をリベンジマッチとして選び、それまでは1か月近く石川県の温泉街で休養。
1年ぶりの阪神競馬場開催となった本番では、阪神淡路大震災の復興を願うファンの後押しもあってか1番人気に支持され、先行逃げ切り勝ちでGI3勝目を飾り、春の汚名を返上、秋まで再び休養に入った。
しかし、秋緒戦となったオールカマーでは1番人気に支持されながらも、最終直線での伸びを欠いて再びサクラローレルの5着に敗退。
天皇賞(秋)では、3度目の対決となるサクラローレルのほか、重賞戦線で頭角を現していた同世代のマーベラスサンデーなどが参戦。
レースでは、1歳下の牡馬バブルガムフェローの2着に終わるも、マーベラスの猛追を振り切り、これまで敗れ続けていたローレルに初めて先着した。
しかし、この年の有馬記念では、2周目の最終コーナーを回った途端から失速し、最終直線でローレルとマーベラスに差し切られるとそのまま馬群に沈み、7着とキャリア初の着外負けを喫した。
6歳時代
古馬となった1997年は、陣営からこの年限りでトップガンが現役を退くことが発表され、前年とは異なり、年緒戦には当初から阪神大賞典が選ばれ、その予定に合わせて休養と調教のスケジュールが立てられた。坂口がトップガンの扱いに慣れてきたこともあり、前年とは打って変わって調子は上向いていた。
これまでは馬の気分に合わせて馬なりにレースを進めた結果、逃げ・先行寄りの戦法を取ることが多かったが、田原は前年度の天皇賞以降の敗戦を振り返って、先手を切って進められるメンタルにないにもかかわらず無理矢理その戦法にこだわっていた自分の考えを改め、有馬の惨敗を踏まえて、発想を大幅に逆転して、後方からのレース位置取りを試みることにした。
そして、1番人気に支持された本番では作戦通り後方からレースを進め、2周目の第3コーナーに差し掛かったところでスパークをかけて先頭集団を振り払ってそのままゴールイン。
こうして田原は大胆な脚質転換に成功させるも、坂口はトップガンの脚質が逃げ先行寄りという考えを崩しておらず、天皇賞(春)の直前までレースの作戦を巡って激しく対立したが、田原の頑なな性格に屈してレース本番前では強く口を出すことをしなかった。
天皇賞(春)本番ではサクラローレルに次ぐ2番人気に支持されるも、レースが始まると前の馬が壁となっていたこともあり、前走と同じように後方から進めることとなった。そして2周目の第3コーナーからローレルが前へ躍り出たのに追従してマーベラスも加速していく中でも後方で待機し、最終直線で2頭揃って先頭に躍り出た瞬間を捉えてスパートをかけ、揃って差し切ってゴールインし、GI4勝目を飾った。
その後は昨年と同じく宝塚記念や天皇賞(秋)への出走が検討されていたが、屈腱炎を発症したため、秋のスケジュールを白紙に戻し、そのまま引退となった。
種牡馬時代~晩年
翌年1998年シーズンから優駿スタリオンステーションで種牡馬シンジケートが組まれ、2015年まで供給される。
しかしながら、種付けはあまり好きではなく、特に気性の激しい牝馬に対しては後ろ足で蹴られるリスクを敏感に察して止めてしまうことも何度もあったという。とはいえブライアンズタイム産駒の後継種牡馬の多くが失敗に終わる中、芝、ダート、障害を問わず重賞勝ち馬を輩出し数少ない成功例となった。
繁殖生活から引退した後は優駿スタリオンステーションで功労馬として余生を過ごしていたが、2019年11月3日、老衰のため27歳で死去。
ライバルのナリタブライアンとは1勝2敗、サクラローレルとは2勝3敗、マーベラスサンデーとは2勝1敗。
産駒からGⅠ勝利こそならなかったものの、チャクラが数少ない後継種牡馬であった。
そして、トップガンの死後である2021年のジャパンダートダービーで孫にあたるキャッスルトップが勝利し、父及び母の父を通じて初となる産駒のGⅠ級勝利を挙げた。
チャクラ(ステイヤーズステークス、目黒記念)
プリサイスマシーン(スワンステークス、阪急杯)
キングトップガン(目黒記念、函館記念)
トップガンジョー(エプソムカップ、新潟記念)
ムスカテール(目黒記念)
バンブーユベントス(日経新春杯)
メイショウトウコン(東海ステークス)
デンコウオクトパス(東京ハイジャンプ、東京ジャンプステークス、京都ジャンプステークス)
母の父として
キャッスルトップ(ジャパンダートダービー)
彼の産駒で生涯を通して地方で活躍したルーチェ(母:アラブランカ)は引退後、香川県の金刀比羅宮で神馬となった。
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