概要
ドット絵とは、1pixel(ドット)単位で描かれる絵の総称。本項ではとくにゲームソフトに利用されるグラフィック表現としてのドット絵について紹介する。
また、ファミコンなど8ビット時代、スーファミなど16ビット時代のレトロゲームのグラフィック風のイラストにつけられるタグでもある。
昔のコンピュータ画面の解像度の低さ・表示可能色の少なさをカバーしつつ見栄えの良い画像を表示するために発達した技法であり、特にゲームの画面はADVやワイヤーフレーム物等を除けば、ほぼ全画面がドット絵の集まりであった。
コンピュータゲームが一般的になり始めた1970年代以降から、携帯機でもフルカラー・3DCGの表現が容易になった2000年代ごろまで多くのゲームソフトで利用されていた。
現在はハード的な制限とはあまり関係なく、独特のレトロで温かみのある表現方法の一種としてコンピュータゲームとは違う場面でも広く用いられている。
タイルパターンやアンチエイリアスなど、独自のテクニックも多い。
英語圏では「ドット絵」に相当する表現として「pixel art」「pixel graphic」という言葉が使われている。
特徴
『こういう絵がドット絵である』という定義は正確には存在しないが、以下のような特徴がある。
1ドットずつ点を並べて描かれている
これがドット絵の最大のポイントである。そのため、通常の写真・イラストを拡大したものは、ドット絵とは呼ばれない。また、2値ペンで描かれたイラストがドット絵に分類されない(2値ペンを利用したドット絵自体は存在する)理由でもある。
ドット絵が2ドット以上重なって線が太く見えているとガタついて見えてしまうため、1点1点丁寧に修正し、拡大した時に描線を構成するドットが1点ずつきちんと認識できるように描かれていなくてはならない。(画風上、あえて輪郭線を太くとって描いている場合は例外だが、この場合もきちんとドットを整えて汚く見えないように調整されている)
「あくまで点を並べて描かれていること」が、ドット絵の定義の最たるものなので、最低限この条件さえ満たしていれば、カラー・モノクロ、描くプロセス問わず「ドット絵」であると言えるだろう。
実作業においては、1からドットを描き起こすのは大変なため、以下のような手順で手間を省略する方法もある。
- 直線や曲線は使っているソフトのツールでおおまかに線を取り、あとでドット単位で修正する。
- 2~3ドット幅のペンで大まかに下絵を描いてから、削って形を整える。
- 数ドット四方程度をツールで塗り潰す。
- 左右対称の形にならば半分だけ描いてコピーし、反転して貼り付けて仕上げる。
- 手書きの線画を下絵として取り込み、丁度いい大きさに縮小して線を潰し、レイヤーを重ねて上からドットを拾って打つ。
パレットが使用されている
絵画・イラスト・3DCGと違い、ほぼ全てのドット絵は固有のパレットを持っており、使用する色を事前に決める必要がある(色を追加することはできる)。
これは、昔のコンピュータでは、ひとつのオブジェクトに使える色の数が制限されており(例えばファミコンは1パレット4色まで)、その伝統を引き継いだものと考えられる。
現在はソフト・ハード的な制限がかなり緩和されており、1パレット256色(インデックスカラー)で描くのが一般的である。とくに、アイコンのような小サイズの絵の場合、256色というのはほぼ制約なしに近い色数である。(16x16ドットなら全部で256ドットしかないので無制約)
また、レトロゲームの雰囲気を再現するため、あえて16色(もしくはそれ以下)の制限をかける人も少なくない。透過色を使う場合は透過色で1色使うため15色となる。
ただし、ハード性能の発達によって昔のようなキツイ制限が緩和されてきた今の時代においては、2Dゲームなどの色数の制限がいまだ絡む環境でない限り、必ずしもドット絵を描くのにパレットを用いなくてはならないという決まりはない。
画像サイズ
ドット絵というのはサイズが小さければ小さいほど、イラストとは違う独自の技法が必要になる。
32x32ドットのアイコンサイズに1ドット幅の線を引くというのは、相対的には1024px四方のキャンパスに太さ32pxのペンで線を引くようなものであり、線であると同時に、面としても機能してしまう。
このため、線として見せたい場合はなるべく目立たないような配色にしたり、あるいは線としてのドットを配置せず、面の境界を線に見せる技術が必要になる。
他にも少ないドットで特徴を捉えて表現する。細かいものを省略したり逆に強調する、明らかに原画とは違う位置や角度でそれっぽく描くなど、省略とデフォルメの技術が要求されるようになる。
現在の「ドット絵」には、例えば256ドット四方のような大きなものも多いが、これはファミコンの出力解像度とほぼ同じであり、当時の感覚で言えばフル画面CGである。昔からのドッターの中には、このサイズをドット絵と呼ぶのは正直抵抗のある者も少なくない。
キャラクターはもちろん、ウィンドウやアイコン表示などの画面のレイアウト含めて、いかに情報を取捨選択してドット描画し絵として盛り込むかを苦心するかがこの時代のドットグラフィックの肝でもあったので、レトロゲーム時代のドット画像を再現する場合で言えば画像サイズは小さい方がよりらしさを感じさせやすくはある。
現在のドット絵
コンピュータのスペックが飛躍的に上昇し、ベクター画像や3DCG等も簡単に使用可能となった現在は、わざわざ解像度・使用色を制限するドット絵はあまり使用されない。パソコンのアイコン用画像では2000年代頃まで使われていたが、最新のパソコン向けOSではフルカラーの巨大なアイコンが使えるため、わざわざドットを打つ必要もなくなってしまった(例えば現在のmac OSのアイコンは最大サイズが1024×1024ピクセルである)。
しかし、Webサイトなどではまだドット絵が使用されるケースも多く(絵文字がその典型)、自主制作ゲーム(いわゆる同人ゲームなど)での制作が容易、ドット絵・レトロゲーム愛好家の支持などから、いまだ需要は見込まれる技法である。
また、海外ではHexelsという、正方形に限らないベクターベースのピクセルで描くツールが徐々に知名度を増し、伝統的なドット絵とは少し違う、新しいピクセルアートのジャンルが出来つつある。
ドット絵の技法
ここで紹介するものはあくまで一例で、ドット絵師全てが同じように描いているとは限らない。
また、絵師独自の描き方があり、ドット絵は小さいながらも個性が強く出る面白さを持っている。
アンチエイリアス
いわゆる『ぼかし』であり、なかにはぼかしツールやフィルタで済ませる場合もある。
2つの色のあいだに違う色を置くことで二色間を滑らかにするもので、ジャギ(ドット同士の境界がはっきり見える状態)を緩和する目的で用いられることが多い。ごく狭いグラデーションともいえる。
あいだに置く色は、ただの中間色の場合もあれば、どちらかよりの色であったり、または違う色味を加えることもある。
小さなドット絵の場合、例えば斜め45度の線を階段状でなくちゃんと斜め線のように見せるなど、同じドットを線に見せたり面に見せたりする技術としてかなり重要である。また、大きなドット絵(顔グラフィックやモンスターグラフィック)などでも仕上がりを美しくする鍵となることがある。
しかし、格闘ゲームのドット絵では、手間がかかるため、最低限度に抑えられる(もしくは無い)ことが多い。使いすぎるとにじませたように画像の輪郭がぼけてしまうため、意図的なものでない限り多用は禁物。使う際にはポイントを押さえたバランス感覚が重要となる。
タイルパターン
市松模様の形で二色を配置してグラデーションを作る技法。
グラデーションに使われる場合もあれば、ゴツゴツした表面など、質感を表現するために使われることがある。
特に16色CGなどで重要な技法で、青と黄色、赤と蛍光グリーンなどの補色を使って灰色に見せるといったテクニックも存在した。
ブラウン管が主流だったころでは1ドットがうまくにじんで色が溶け合って見えていたが、ほぼ今の主流となっている液晶ディスプレイでははっきりと見えるため、あまり多用すると粗く見えることも。
ドット絵に使われるツール
一般的なペイントソフトに加え、ドット絵の作成に特化したツールが存在する。
最低限、1pixel単位で編集さえできれば描けるが、特化ツールではより描きやすい機能がついている。
以下は代表的なツールである。
windows標準のペイントソフト。
最低限の機能(1pixelブラシ、ルーペ、原寸プレビュー)がそろっているため、問題なく描くことができる。
トリミングが簡単なのが特徴。反面、パレットの管理機能がないので、本格的に作品作りをするには不便。マゾ向け。
16・256色CG用のお絵かきソフト。256色を自在に扱うことができ、ドット絵だけでなくアニメ塗りも得意としている。個人サイトや掲示板ブームの後押しを受け、90年代に根強い人気を誇ったが、GIFが取り扱えないことやフルカラーの環境に対応していなかったこともあり人気が低迷。2000年代に入る前に開発終了した。
TAKABO SOFTのドット絵特化ツール。フリー版のVer.1とシェア版のVer.2がある。パレット管理がしやすい。
また、2では『ブック』という要素があり、複数の画像をひとまとめにできるうえに、それぞれにレイヤーを持たせることができるなど、アニメーション向けの機能も充実している。
ヒューマンバランスのドット絵特化ツール。
フリー版とシェア版があり、とりわけ動画の作成向けの機能(AVI出力、オニオンスキン等)が充実している。
フルカラーとインデックスカラーに対応していて、画像中の使用色の合計なども調べることができる。
正方形に限らないベクターベースのピクセルで描くことができるツール。
ピクセル形状の例としては、正三角形、直角三角形、六角形、ボロノイ形状があり、カスタム形状も可能。立体的な立方体(トリクセル/ボクセル)で描くアイソメトリックモードも搭載している。
カラーパレットも通常のスウォッチ形式とは異なり、ドット絵のように自由な配置が可能な機能もある。
PictBearSE
Fenrirの画像編集ソフト。2021年現在は開発が終了し、サポートを受けることができない。
カラーの選択が可能で、フルカラーやインデックスカラーなどを選ぶことができる。
また、マルチタブなので、複数の画像を編集可能。プラグインを利用してさまざまなブラシを追加することも可能である。
AzSkyのお絵かきソフト。1ピクセル線の補正(ディザを消す機能)が特徴。現在はLinux向けのソフト「として一般公開されている。
ドット絵制作向けのソフトとして、8bitカラーの編集が可能な「AzPainterB」、モノクロに特化した「AzDrawing」が存在する。
SYSTEMAXのシェアウェアお絵かきソフト。30日間の無料体験版がある。
2値ペンがデフォルトで搭載されている。
リアルな画材に近い表現が得意なためイラスト用途での使用が多いが、大きめのドット絵を描くには向いているだろう。
ただし、消しゴムツールは2値ではないので、透明色を使って修正をしなければならない。(もしくは背景色をあらかじめ決める)
ドット絵のために購入するのはオーバーと思われる。
Adobeの写真補正・画像編集ソフト。しかし画像編集に関してはその範囲に限らず、イラストやドット絵制作にも応用が可能。GIFアニメーションも制作できる。
しかし、プロ向けということでソフト自体の値段が高く、かつて展開されていたパッケージ版では数十万円(一般向けに機能を絞ったElementsであれば、ペンタブレットの購入特典として付属していたため比較的安価に入手できるが)、現在販売されているAdobeのサブスクリプションサービスであるcreative cloud版でも年間2万円以上と、ドット絵制作のためだけに購入するのはやはりオーバーだといえる。
pixivでの注意点
pixivでは、作品ページに表示される投稿作品画像は、サイズ、形式に関わらず、強制的にJPEG画像に変換されたものが表示されるため、元形式のまま保存したい場合は原寸大表示させてから保存する必要がある。変換・縮小表示された画像を保存すると、JPEG保存されているのでドット絵も例外なく劣化してしまう。
なお、pixiv側で投稿作品にかけられるJPEG変換は、
- 色にじみの原因であるカラーサブサンプリングをOff(=サンプリング1:1:1)
- ほぼ最高画質(※完全な最高画質は激増するデータ量に見合うほどの利点がない)
というJPEGを使う上で最良の選択をしている。
また、うごイラはJPEG変換された連続画像を表示している仕組み上、すでに劣化している。こちらは仕様上、どうしようもないのであきらめよう。アニメーションGIF化して保存できる有志開発のフリーソフトなどもあるが、JPEG変換したものに更にGIF変換をかけるためさらなる劣化が起こる点には注意が必要だ。
タグ使用上の注意
いつからかは不明だが、日本語が読めない海外ユーザーの方々が、pixivからのオススメのタグと勘違いをしてしまい、投稿するイラストの内容に関係なく「ドット絵」のタグを付加してしまう事案が時々発生している。
悪意はないと信じたいが、検索妨害となり得る行為であり、心当たりのあるユーザーには自重を促したいところであり、もしそのような投稿を見かけたら、検索サイト等でその事を和訳して、コメント欄等に書き込んで注意を促してもらいたいところである。
(もちろん、イラスト内容やキャプション等で、ドット絵を意識している事が明白な場合はその限りではない)
※詳しくは、※作者は海外ユーザーの記事を参照。
余談
テレビゲームの黎明(れいめい)期においては、グラフィックを作成するための専用機材というのもまだ整っておらず、今の時代のようにコンピューター上で1から10までの全ての作業を行うということは環境的に出来なかった。そのため、デザイン画を元に、方眼用紙上でドットデザインを起こし、1マス1マスぬりつぶして色指定し、それを見ながら手作業でコンピューターに打ち込むというアナログとデジタルの折衷的な手法がスタンダードであった。
コンピューター上でなく、方眼用紙の1マス1マスを鉛筆で埋めてアナログ手描きドット絵を楽しむ愛好家もいる。
ちなみに
コンピュータゲーム、ソーシャルゲームにおけるドット絵の大半は『Sprite Database』、『The Spriters Resource.』、『RetroGameZone』、『Fight-A-Base』、『The Spriter Cemetery』、『Sprite INC』、『Realm of Darkness.net』という海外のサイトにうpされている。
関連書籍
ドット絵職人 -すべてのパソコンに入っている「ペイント」ツールでつくる-
Suguru.T著 2003/9/1発刊
ドット絵講座
R研究所著 2004/4発刊
ドット絵プロフェッショナルテクニック―ドット打ちからアニメーションまで
高野 隼人著 2005/2発刊
ドット絵の教科書
西村 将由著 2006/4/27発刊
ドット絵工房 -誰でも使えるドット絵テクニックが満載!!
鯖戸 昭史著 2006/6/26発刊
GameGraphicsDesign ドット絵キャラの描き方
瑞穂 わか・中村 竜彦著 2008/2/29発刊
関連イラスト
ドット絵の描き方講座の一例。線の描き方、パレットの作り方、ドット絵特有の技法など、大事な部分はほぼすべて載り、おすすめの講座である。
講座もうひとつ。
関連動画
ニコニコ タグ別ランキング #179 『ドット絵』
関連タグ
ドッツ(ドット絵が自作できるおもちゃ) ノルディック柄 市松模様
カイロソフト:ここから配信されてるゲームは全てドット絵で表現されている。
ドット絵に関する企画(タグ)
RPGツクールDSイラストコンテスト:「RPGツクールDS」用のキャラクター・モンスターを描く企画。独自のツールを使ってドット絵を描き、投稿する。
ツクールDSモンスターキャライラコン ツクールDS歩行キャライラコン
他の記事言語
外部リンク
個別
- Sprite Database
- The Spriters Resource.
- RetroGameZone
- Fight-A-Base
- The Spriter Cemetery
- Sprite INC
- Realm of Darkness.net
- 荒いドット絵がダウンロードできるサイト『DOTOWN』公式サイト
- ドット絵 - Wikipedia
- ドット絵 - ニコニコ大百科
pixivision
- レトロかわいいドット絵特集(2014年12月9日)
- 今日はファミコンの日!ファミコン風ドット絵特集(2016年7月15日)
- 簡単なドット絵の描き方講座 - ペイントやSAIで作成できる!(2016年9月5日)
- ドット絵アニメの作り方。イラストレーター・豊井さん(@1041uuu)インタビュー(2017年7月27日)
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