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なぜ企業は古い戦略立案手法にしがみついているのか
20世紀においてビジネス戦略と言えば一般的に、「戦略上の問題」の解決策を見出すことを目指して、少人数の幹部チームの話し合いにより立案されるものだった。そのチームは、たいていCEOとその直属の部下で構成されていて、その人たちがさまざまなトレンドや変化を分析し、競合他社の活動を検討し、財務データを精査することを通じて、問題の解決策を考案し、それを戦略プランという形で打ち出していた。
しかし、こうした工業時代的な戦略立案の方法はもはや通用しなくなりつつある。インターネットの時代が到来したことにより、情報に精通していて、互いに強いつながりを持っているユーザーのコミュニティが出現しているためだ。企業がどのような行動を取るべきかについても、ユーザーがこれまでになく強力な意見を抱くようになっている。
高速インターネットと、ソーシャルメディア、高度なネット検索テクノロジー、モバイル通信が普及したために、今日のユーザーは、昔とは比較にならないくらい膨大な量の知識と選択肢と影響力を持つようになった。その結果、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の上級幹部たちに言わせれば、古いトップダウン型のイノベーションと戦略設計のアプローチは「破綻したモデル」になっている。
では、なぜいまだに多くの企業がそのような古いモデルにしがみついているのだろうか。そして、そのような企業は、どうすれば「参加の時代」への移行を遂げられるのか。
企業幹部たちが古いモデルに囚われる主な原因は3つある。
戦略プロセスのあり方を狭くとらえてしまう
ポールは、国防、航空、通信、輸送などの産業向けに高度な通信ケーブルを製造している会社の創業者兼CEOだ。なぜビジネス戦略を設計するプロセスにさらに多くの人を参加させないのかと尋ねると、すぐにこのような答えが返ってきた。「人気投票で戦略を決めるつもりはありません」
このような門前払い的な反応は、戦略プロセスのあり方を狭くとらえる発想を抱いているために生まれる。しかし、ポールが見落としている点がある。戦略立案のプロセスに多くの人を参加させたからといって、かならずしも意思決定の権利を譲り渡すことにはならないのだ。
面子を失うことへの恐怖心
アショクは、地域のゴミ処理業務を担う公共事業のトップを務めている。この組織が運営するゴミ埋め立て場には、生ゴミからアスベストを含む廃材まで、ありとあらゆる種類のゴミが運び込まれる。事業環境は、お世辞にも安定しているとはいえない。ゴミの削減とリサイクルを求める圧力が高まっているのだ。しかも、いま使用している埋め立て場は、10年以内に満杯になる見通しだが、代わりの新しい埋め立て場を見つけることは困難な状況だ。
地域社会やオンライン上では、ゴミ処理事業の未来と、今後の取り組みをめぐり、活発な議論がなされている。環境保護活動家からも、利益の最大化を目指す地元のビジネス関係者からも、貴重な意見が唱えられている。参加型の戦略プロセスを採用して、そのような外部のアイデアを活用してはどうかと提案すると、アショクは冗談まじりにこう言った。「そんなことをしたら、私が間抜けに見えてしまいます」。アショクにとっては、有効なアイデアを知ることによる恩恵よりも、面子を失うことへの恐怖心のほうが大きな意味を持っていたのだ。
負担が大きくなりすぎることへの不安
アイデアの数が多すぎて困ることはありうるのか。一部の企業幹部は、この問いに「イエス」と答える。大勢の人から提案を受け付けることにした場合、そのマネジメントに時間を要することは確かだ。アイデアを集めて、それを検討し、提案者に返答するには、時間がかかる。
モーリーンは、自動車免許と営業免許を発行する公共事業のトップを務めている。参加型の戦略プロセスを採用してはどうかと提案すると、モーリーンはあるリスクを指摘した。「大混乱を招きかねません。マネジメントするために、途方もない時間がかかるでしょう。膨大な量の情報をどうやって処理すればよいのでしょうか」
CEOがこうした障壁を克服して、より参加型の戦略アプローチを採用するには、以下の3つの行動を実践することが有効だ。