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新興国が台頭する新しい時代のグローバルリーダーには何が求められるのか。『フィナンシャル・タイムズ』紙の世界MBAランキングで今年1位となったINSEADは、企業幹部向けリーダー育成プログラムに注力し、世界中から多くの企業リーダーを集める。同校でプログラムを統括し、日本とも関係が深いナラヤン・パント教授とリーダーシップの本質を議論した。
「日本的リーダー」論は本質的でない
後藤(以下色文字) 素朴な疑問から伺います。リーダーシップのスタイルは国ごとに違うのでしょうか、それとも、国を超えて共通のエッセンスがあるのでしょうか。
パント教授(以下略) 国による違いというより、国を超えて共通の「良き」リーダーシップと「悪しき」リーダーシップがあります。「良き」リーダーは、周りの文脈を正しく受け止め、リーダーとしてのあり方を適応させます。たとえば同じ日本の中でも、P&Gジャパンと資生堂では文脈が異なり、必要なスタイルも違うでしょう。「日本型リーダーの本質とは何か」のような問いよりも、文脈や企業目標のニュアンスをきちんととらえる力の方が重要です。
――多くの企業が、新興国で事業をどう伸ばすかに苦しみながら取り組んでいます。そのような文脈では、「良き」リーダーにはどのような特徴があるのでしょうか。
その問いについては、もう長年考えています。でも一歩引いてみると、なぜいまだに新興国の難しさが話題になるのでしょうか。多国籍企業が新興国に参入して、もう数十年たちます。それなのにまだ昔ながらの議論が続くのには、何か理由があるはずです。
一つの仮説ですが、これまでリーダーたちは間違ったアプローチで取り組んできたのではないでしょうか。多くの多国籍企業は、出来合いの成功の方程式を新興国に持ち込みます。謙虚に学ぶ姿勢で市場に参入し、新しいやり方で価値を高める方法がないか、本当の意味で真剣に自問自答してきたでしょうか。そのような企業は、ほとんどなかったと思います。
――では、そのように「学ぶことに長けたリーダー」には、どのような特徴があるのでしょうか。企業は新興国にリーダーを送り込んで実地で鍛えようとしますが、やはり理想のリーダー像がほしいところです。
その通り。理想のリーダーは、「良い条件で本社に復帰できるように、海外で何年か我慢するしかない」などと言いません。そのような考えは、学びから心を閉ざし、海外での経験に興味もなく、ただ帰国までやり過ごすことを意味します。一方で学びに心を開いたリーダーなら、現地での発見に驚かされ自分を変えることも大歓迎です。
先進国企業の多くは、プロセス志向が非常に強くなり、学習志向が弱まっています。たとえば日本の金融機関や欧米の重工メーカーの本社などに行くと、共通の文化を感じます。「手続きを順番にこなし、技術を持ち、資金をつければ、事業は成功する」という感覚です。
そもそも本社のこうした空気に、チャレンジする必要があります。考えるべきは、本社自体がどのように「学習する組織」としての環境を整え、多様な環境への適応能力が高い人材を生む確率を高められるかでしょう。
――なぜ「悪しきリーダーシップ」がはびこるのでしょうか。
主な原因は、人々が頭の中に持つステレオタイプです。どう世界が動くかを、人は実際に見て学ぼうとはしないのです。たとえば多国籍企業が中国に参入した頃を思い出してください。当時の商品や戦略は、中国ではハイエンド商品が売れることなどない、という前提に立っていました。それがどれほど間違っていたか、今では明らかです。