2014年の特許出願件数1位を獲得し、グローバルIT企業として目覚ましい成長を続けるファーウェイ(華為技術)。その強さの秘密を、同社の理念と創業者の言葉から読み解く。

 

「フォーチュン・グローバル500」に名を連ねる中国本土の企業は、現在91社ある。そのなかでファーウェイ(華為技術)は、国内よりも国外での売上高のほうが多い唯一の企業だ。

 ファーウェイの国外市場における受注高が、中国市場での売上高を初めて上回ったのは2005年。そして2012年には、電気通信・ネットワークの分野で当時世界をリードしていたエリクソンを売上高と純利益で超えた。成長はその後も続き、2014年度には過去最高の売上高465億ドルと純利益44.9億ドル(どちらもUSドル)を達成した。

 ファーウェイがこれほどの成功を遂げている理由はいくつもあるだろうが、偉大な企業の多くは優れた文化を強みとしている。我々はファーウェイの文化を形成する特定の理念に着目することで、その成功の一因を見出した。従業員へのインタビュー、創業者の任正非(レン・ジェンフェイ)による記事や書簡や講演の分析、そして任正非本人へのインタビューを通して、同社の理念重視の文化を支えているものについて理解できた。

 1. 顧客第一の姿勢

 強いリーダーは目的意識を植え付けるが、任正非も例外ではない。彼が何よりも関心を向ける対象は、顧客である。多くの企業が顧客重視の姿勢を打ち出しているが、まっとうされているだろうか。ファーウェイはこの点で競合を圧している。創業初期には社内の誰もが「顧客に目を向け、上司には背を向ける」必要があった、と任正非は繰り返し語った。

 こんなエピソードがある。数年前、モルガン・スタンレーのチーフエコノミスト、スティーブン・ローチ率いる機関投資家の代表団が深センのファーウェイ本社を訪問した。通常このような訪問を行うのは、株の買い付けを望むベンチャー投資家である。任正非は当時のR&D担当副総裁フェイ・ミンに、代表団への応対を任せた。後日、ローチは失望を表明した。「任正非は、3兆ドルを動かせる我々に会おうとしなかった」と。任正非の説明は非常に明快だ。取引先であればどんなに小規模な相手でも直接会うが、ローチは取引相手ではなかった、と語ったのである。

 ファーウェイの顧客志向を物語る別の例として、いまでは伝説と化している創業初期のエピソードがある。中国の辺境や砂漠地域では、よくネズミが通信ケーブルをかじり、接続に深刻な影響を及ぼしていた。当時、サービスを提供していた多国籍電気通信企業はいずれも、それは自社の問題ではなく顧客側の問題であると考えた。対照的にファーウェイは、ネズミの被害はプロバイダー側が責任を負うべき問題であると捉えた。解決に取り組むなかで、同社はより頑丈な装置や素材(「防噛」ケーブルなど)の開発に関する幅広い経験を培った。そのおかげで後日、中東での大きなプロジェクトを複数獲得する。中東でも同様の問題が多国籍企業を悩ませていたのだ。

 以降もファーウェイは、過酷な環境条件でのプロジェクトをいくつか経験した。世界最標高での無線通信基地局の建設(エベレスト山腹の標高6500メートル地点)や、北極圏内で初のGSMネットワークの構築などだ。これらの経験で得た有益な知識は、たとえば同社が欧州の3G市場でシェア拡大を目指した時に役立っている。

 ファーウェイは、欧州の通信事業者が基地局に何を望んでいるかを理解していた。多くの場所を取らず、設置が容易で、環境に優しく、エネルギー効率が良く、かつ広域をカバーすること。このような顧客ニーズに基づき、同社は世界に先駆けて、大小さまざまな規模のプライベート・ネットワークにより、無線アクセスができる分散基地局というコンセプトを実現した。このイノベーションによって、より安価での基地局設置が可能となり、欧州の通信事業者の間で歓迎された。