米小売業界で、一時は時代遅れとされていた紙のカタログが再び盛り返している。EC企業さえも例外ではないこの現象は、単なる景気回復の反映ではなく、ブランド構築の強力なツールとして紙が見直されているからだという。その背景にある4つの要因とは?

 

 JCペニーは最近、紙のカタログを復活させると発表した。これは米小売業界で、セールスとマーケティングの重要なツールとして印刷物が再び見直されているトレンドの表れだ。

 ブルーミングデールズやサックス・フィフス・アベニューのような百貨店は長年カタログの郵送を続けてきたが、いまでは専門小売企業もこの戦術を採用し始めている。アンソロポロジー(女性向けファッション)を含む数社は新たにカタログを創刊し、Jクルーやレストレーション・ハードウェア(高級家具)もここ数年でカタログの大幅な改良を進めている。さらに、ボノボス(メンズウェア)やバーチボックス(化粧品サンプルの定期購入サービス)のようなeコマース企業までもがカタログの郵送を始めている。米国ダイレクトマーケティング協会(DMA)によれば、2013年のカタログ郵送件数は2007年以降初の増加に転じ、119億件となった。

 近年、企業がカタログに大きく注力した年は、郵送件数がピークに達した2007年まで遡る。DMAの調査によれば、この年だけでマルチチャネル・マーケターの59%がカタログの発行部数を前年より増やしている。同年にJCペニーのカタログは、年に1度発行する1000ページ超の分厚い「ビッグ・ブック」に加え、他の形態が70種類まで膨れ上がった。

 しかし、その後の大不況でコスト削減の必要に迫られた小売企業は、カタログの予算を削った。同時期にオンラインでのセールスとマーケティングが成長していたことも相まって、印刷物は無駄だという認識が広がった。パタゴニアやブルックストーン(家庭用品、アイデアグッズ)のような一部の企業は印刷物を維持したが、その後の5年間で米国のカタログ発行部数は減り続けた。DMAが2001年に年間データを取り始めて以降、2012年には最低を記録した。

 最近のカタログ人気の復活を受け、カタログの価値と長期的な有効性についてどう考えればよいだろうか。この現象は単に大不況の終わりを示しているだけなのか。市場に不景気の兆候が現れたら、また廃れゆくのだろうか。

 私はカタログが今後も定着し続けるだろうと考えている。その根拠として、まずマルチチャネルのマーケティングと取引において、新たなダイナミクスが生まれている。そしてカタログ・マーケティングにおいて、ターゲティングと成果測定の新たな手段が可能になっていることも大きな要因だ。

 マルチチャネルでの購買が増えるなか、小売企業にとって最も価値の高い顧客は通常複数のチャネルの利用者であることが知られるようになった。実際にノードストロームの発表によれば、同社ブランドと複数のチャネルで接している顧客は、そうでない顧客の4倍もの金額を使っているという(英語記事)。ボノボスも同様の結果を発表している。マーケティング担当バイスプレジデントのクレイグ・エルバートによれば、同社ウェブサイトの新規顧客の20%は、カタログを受け取った後に初回注文している。しかもカタログを受け取らなかった新規顧客と比べて1.5倍の金額を使ってくれるという(英語記事)。