ますます激しくなる人材獲得競争。優秀な人が集まる会社が俄然、競争優位をつける時代だが、逆に優秀な人材を輩出する企業こそ、真の競争力ある企業ではないだろうか。

 

時代とともに変わる「人材の重要性」の意味

 人材の重要性は日本経済が右肩上がりの頃から言われていましたが、その背景は大きく様変わりしました。大きく3期に分けられそうです。

 第1期は1980年代までの高度成長期。労働市場の流動性がほとんどなかった当時、新卒で採用した社員をいかに育てるかが大きな命題でした。そこには、事業の成長と企業の成長への確信があり、競争要因の一つとして「社員の質」が問われました。そこで多くの企業では、「人材開発部」を新設し、研修所をつくることや、社内研修プログラムを充実させることなどに躍起になっていました。

 また当時は、終身雇用を前提とし従業員へのロイヤリティへの期待も高く、組織への忠誠心を育てることも人材育成の目的の一つでありました。

 第2期は、90年代以降のバブル崩壊期から始まります。急激な経済低迷期を迎え、企業は余剰人員への対応に追われた時代でした。従来の終身雇用や年功序列賃金などの仕組みが悲鳴を上げはじめました。その一方で人材の重要性は変わりません。ただし、それは終身雇用の中で育てるという発想より、優秀な人材の獲得へと転換します。事業環境の変化に自社の社員では対応できなくなってきたこともあります。企業が新規事業を開始する際、時間をかけて事業を育てるよりも、M&Aによりノウハウを有する企業を買収することで、「時間を買う」戦略が見直された動きに符合します。

 この頃から言われ出したのが、「War for Talent」(人材を巡る競争)という言葉です。優秀な人材の獲得競争が事業の競争優位に直結する。いかに彼らを引きつけるかが至上命題となったのです。企業の新卒採用においても競争が激しくなり、複数の内定をもらう学生とひとつももらえない学生の二極化が生まれました。