アップルは自社の成長を支えるために、別の新たな市場――十分に規模が大きく、弱みを持つ業界――で再びバリューチェーンを破壊する必要がある。テレビ、広告、医療、自動車――他にどんな業界が、ターゲットとなりうるだろうか。


 過去10年間でかつてない成長を遂げたアップルについて、アナリストらは「2013年はアップルの存在を忘れるべき年」と見なした。同社の問題についてはほとんどの識者の意見が一致している。創設者スティーブ・ジョブズ亡き後、画期的イノベーションをもたらしていないという点だ。だが我々の見解からすると、アップルはもっと深刻な問題に直面している。同社は破壊的変化をもたらす独特の方程式を持つが、その影響を最も受けやすい業界の規模は、同社の成長ニーズを満たすには小さすぎるのだ。

 アップルはこれまで、破壊的イノベーション理論の例外であったように見える。2003年には売上げ70億ドルだった同社が2013年に1710億ドルへと躍進を遂げたのは、優れた製品を携えてすでに確立された市場(いまだに成長中ではあるが)に参入することによってである。これは、破壊的イノベーションのモデルに照らせば「負ける戦略」だ。

 2008年に我々(イノサイトのスコット・アンソニーとシスコシステムズのマイケル・パッツ)は、アップルの成功のカギは「バリューチェーンの破壊」という特別な戦略を実現したことであると指摘した。これは新興企業が、他社のビジネスモデルを破壊するために新たな技術を活用するのではなく、バリューチェーン上の重要な資産への支配力を奪い取ることによって、既存のバリューチェーン全体を破壊するということだ。すなわち、アップルはiPodという機器、iTunesというソフトウェア、iTunesというミュージックストアを統合することによって、レコード会社とCD販売業者、およびMP3プレーヤーの製造メーカーから成る既存の音楽産業のバリューチェーンを破壊した。その成功のカギは、スティーブ・ジョブズが大手レコード会社にその重要な資産、すなわち1つひとつの楽曲を、99セントで販売するよう説得できたことにあった。

 業界にこれほど大規模な破壊的変化を引き起こせるのは、きわめて稀である。既存のバリューチェーンにおける主要プレーヤーたちは通常、希少な資源への支配力を握っており、新たなバリューチェーンの形成を阻んでいるからだ。そして彼らは当然ながら、その支配力を手放したがらない。だが音楽会社は当時、自分たちの資産を無料で配る新興企業による攻撃を受けており、ナップスターなどの音楽共有サービスを訴えて葬ろうという空しい努力をしていた。無料と比べれば、99セントは上々である。

 ジョブズがまとめた取引によって、アップルはiPodというハードウェアから高いマージンを得る一方で、音楽コンテンツの合法な配信に向けて自社を中心に据えた新たなデジタル・バリューチェーンを形成することが可能となった。そしてまたたく間に米国最大の音楽販売業者となる。アップルは業界における利益のいちばん大きな分け前を吸い取ってしまったとレコード会社はぼやいたが、もはや手遅れであった。