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Web3と法律No.2

NFTアートやNFTゲームで着目すべき法的論点とは?

2022/10/20

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ブロックチェーンやNFTをはじめとした、Web3(ウェブスリー)と呼ばれる新しいテクノロジートレンドが大きな注目を集めています。

さまざまな業界での活用が積極的に検討されている一方で、関わる法律があまりにも多く、現在の法規制の中でどのように解釈されるかがまだ不明瞭であり、参入の足かせになっているケースがあります。あるいは、Web3をビジネス展開する過程で法的リスクを知らずうちに犯してしまう可能性もあります。

そこで、電通ではブロックチェーンおよびNFT領域に詳しい法律事務所ZeLo・外国法共同事業による勉強会等を通じて、法的論点への正しい理解を深めながら、Web3の適切な市場形成に貢献することを目指しています。

本連載では勉強会の内容を中心に、NFTなどWeb3領域に関心のある読者にナレッジシェアを行います。第2回は、法律事務所ZeLoの弁護士、島内洋人氏と藤江正礎氏、電通の塩田悠人氏の鼎談をお届けします。

<目次>

NFTアートの取引にライセンスは必要?

NFTアートに所有権と著作権は生じる?

NFTゲームのガチャが賭博に該当する可能性も

ランキング報酬やログインボーナスは景品に該当する?

NFTの法規制は個別ケース。アイデア出しと検討を両輪で進めることが重要

 

NFTアートの取引にライセンスは必要?

塩田:電通の事業共創局でWeb3を活用した事業開発を担当している塩田です。今回はNFTビジネスにまつわるさまざまな課題について、法律事務所ZeLoの弁護士お二人に法的論点を整理していただき、皆さまのNFT事業創出に貢献できればと考えています。まずは「NFTとアート」というテーマで、島内さんに話をお聞きしたいと思います。

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法律事務所ZeLo弁護士 島内洋人氏(撮影:根津 佐和子)

島内:私は暗号資産が専門分野の一つですが、近年は暗号資産の単純な取引にとどまらない、ブロックチェーン技術を使った新しいサービスが次々と出てきており、NFTについてもクライアントから相談を受けるケースも増えています。今後、法律が大きく変わっていく可能性もありますが、まずは現状の整理と将来的な見通しをお話しできればと思っています。

塩田:ありがとうございます。NFTは文字通り「トークン」の一つですが、暗号資産とは何が違うのでしょうか?

島内:大きな違いは、「トークンに個性があるかどうか?」という点です。例えば暗号資産で有名なビットコインはお金と同じで、一万円札そのものに個性がないのと同様に、トークンそのものの個性は誰も気にしません。一方、NFTはトークンに情報を埋め込むことで個性を持たせることができるデータ構造となっており、実際、一つ一つの埋め込まれたデータの個性に着目して取引されることが多いです。

塩田:暗号資産の取り扱いにはライセンスが必要ですが、NFTと暗号資産が違うのであれば、NFTの取り扱いにライセンスは不要なのでしょうか?

島内:NFTについては、主に暗号資産交換業と金融商品取引業というライセンスの要否が問題になります。

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島内:まず暗号資産交換業については、「NFTが暗号資産に該当するかどうか」が重要な論点になります。日本には資金決済法という決済サービスを規制する法律があり、その中で暗号資産は一号暗号資産と二号暗号資産という2種類に分類されています。

詳細は割愛しますが、前者の一号暗号資産に該当するポイントは、決済手段として社会一般に受容されているかという点。NFTアートに関しては、何かモノを買う時の決済手段としてNFTアートを使うことはできないので、一号暗号資産には該当しないと結論付けることができます。

一方、二号暗号資産の要件は、「ビットコインやイーサリアムなどと相互に交換できる市場があるか?」「電子的に移転できるか?」という2点がポイントになります。これをNFTアートに当てはめると、マーケットプレイスに出品されているNFTアートの多くがイーサリアムと交換可能であり、ブロックチェーンに記録され電子的に移転が可能なので、二号暗号資産に該当するようにも考えられます。

塩田:そうすると、NFTアートの取引にはライセンスが必要という結論になるのでしょうか?

島内:ここで重要になるのが、金融庁の「事務ガイドライン」という文書です。この中で金融庁は二号暗号資産について、「一号暗号資産と同等の経済的機能、すなわち決済手段としての機能を持っているかどうかで二号暗号資産に該当するかどうかを判断しましょう」という主旨の限定解釈をしています。つまり、決済手段の機能を持たず、NFTに紐付いたデジタルアートのデータに着目されて取引されている場合は二号暗号資産に該当しないと解釈することができるのです。

塩田:NFTアートが決済手段として扱われていなければライセンスが不要になる可能性が高いということですね。でも、NFTアートが決済手段ではないと客観的に判断するには、どんなところに着目すればいいのでしょうか?

島内:例えば、あるコレクションのたくさんのNFTアートが全く同じ値段で取引されている場合は、一つ一つの個性に着目されていないので決済手段と見なされる可能性があります。コレクションの中でもNFTアートの値段がそれぞれ違えば、デジタルアートの個性に着目されていると考えることができるでしょう。もちろん、取引の実態によって解釈は異なるので、個別に毎回検討が必要にはなります。

塩田:NFTアートは基本的に暗号資産に該当しないものの、個別ケースで都度確認することが非常に大切であることが分かりました。もう一つ、金融商品取引業のライセンスが必要かどうかの判断について教えてください。

島内:金融商品取引業は有価証券の取引に関するライセンスなので、NFTアートが有価証券に該当するかが論点になります。典型的な有価証券は株式ですね。NFTアートの文脈でよく議論に上がるのが「集団投資スキーム持分」という有価証券です。これは、金銭を拠出して何かしらの事業が営まれ、そこから利益が生まれた時に分配を受ける権利のこと。ユーザーがNFTアートを購入することで、何かしらの利益の分配を受けることができるようなビジネスの場合は注意が必要です。

塩田:NFTアートを持っている方に独自通貨(トークン)を分配したり、新しいNFTを配ったり、トークンを安く購入できる権利を付与するのは、集団投資スキーム持分に該当しますか?

島内:まずお金でなくトークンを配ることが「分配」にあたるかという問題ですが、分配の対象は法律上限定されていないため、配ったものに経済的価値がある限り、トークンであっても、「分配」に該当する可能性があると考えるべきです。

塩田:NFTアートを購入する行為も「金銭の拠出」に該当するのでしょうか?

島内:そこはケースバイケースですね。NFTアートの購入代金の支払いであって、金銭の拠出ではなく、新たなトークンが配られるとしてもそれはあくまで購入のおまけだと整理できればいいですが、購入代金で何らかのプロジェクトを立ち上げて、そこから生まれた利益をトークンとして分配するとなるとやはり詳しい検討が必要です。

塩田:やはり個別のケースに応じて、都度確認することが重要だということですね。

 

NFTアートに所有権と著作権は生じる?

塩田:続いて、NFTアートでよく議論の対象となる「所有権」と「著作権」について、どのような法的整理をすべきなのか教えてください。

島内:民法における所有権は、物理的な存在があるものにしか生じないので、単なるデータに過ぎないNFTに所有権は生じないというのが法律的な整理になります。

一方、著作権はデジタルデータにも発生します。そのため、NFTアートに紐付いたデジタルアートにも、通常、著作権が生じます。著作権は原則として著作者=アーティストやIPホルダーが持っていますが、契約によって他者に譲渡することが法律で認められています。そうするとNFTアートに紐付けて著作権を譲渡することもありえないことはないですが、元の著作者は完全に著作権を失ってしまうので、普通この方法はとられません。

塩田:著作権の譲渡以外の方法でNFTの使われ方をコントロールすることはできないのでしょうか?

島内:通常は、ライセンスが使われます。具体的なライセンスの方法として、一つは、マーケットプレイスの利用規約でNFTに関するライセンスを規定する方法があります。もう一つが、パブリックライセンス。要するに、アーティストが自身のウェブサイトなど公の場でライセンスを表明する方法です。

塩田:なるほど。実際、NFTはマーケットプレイスで売買するケースが多いので、利用規約をしっかりと整備することでNFTを発行する事業者が使われ方をコントロールすることができそうですね。ちなみにマーケットプレイスを運用する際に法的観点から注意すべきことはありますか?

島内:運営側がまず考えるべきなのはライセンスの設計にどの程度関与するかという点です。NFTを売る人それぞれにライセンスの設計を委ねるケースもあれば、プラットフォームで画一的なライセンスを定めるケースもあります。

また、NFTアートの著作権者がライセンスを撤回したり、著作権を誰かに移転してしまうとトラブルになる可能性があるので、プラットフォームの利用規約で法的な手当てをしておくなどの対策が必要です。

 

NFTゲームのガチャが賭博に該当する可能性も

塩田:NFTアートの権利やマーケットプレイス上の法的論点を島内さんに整理していただきました。続いて、NFTの配布行為における法令遵守やNFTゲームについて、藤江さんに話をお聞きしたいと思います。

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法律事務所ZeLo弁護士 藤江正礎氏(撮影:根津 佐和子)

藤江:私はもともと国内大手の法律事務所に所属し、知的財産や紛争解決、景品表示法を含む消費者法などの案件を扱っていました。今回はNFTゲームやゲーム内アイテムにおける法的論点について解説したいと思います。

塩田:よろしくお願いたします。はじめにNFTゲームについてご紹介いただけますか?

藤江:近年、NFTゲームが国内外で非常に流行しています。最近もメタバースゲーム「The Sandbox」内で流通している暗号資産「SAND」が国内大手暗号資産取引所のコインチェックで上場するなど、大きな注目を集めている分野の一つです。NFTゲームが既存のゲームと異なるのは、ゲームをプレイしてNFTと結び付いたゲーム内アイテムやゲーム内キャラクターを獲得し、これをゲームという枠を超えて自由に譲渡できる点です。そこに関連して法的論点が生じています。

塩田:昨今、「Play to Earn」という言葉に代表されるように、NFTゲームで稼げるという情報がメディア等で増える一方、ギャンブルにあたるのではないか?という議論が起こりつつあるように感じます。

藤江:NFTゲームで獲得したアイテムは、他者と売買することで現金に換金できるという側面があります。すると、アイテムを獲得するにあたって費用を支出したにもかかわらず、獲得できたアイテムの市場価値がこれを下回ることが生じ、賭博にあたるのではないかという議論が生じます。日本では原則として賭博が禁止されており、賭博行為をした人だけでなく、賭博の場を提供した者も罰せられるので、賭博に該当するかは大きな問題です。

塩田:そもそも賭博とはどういった定義がされているのでしょうか?

藤江:細かい点は割愛しますが、賭博とは「偶然の勝敗によって、財物・財産上の利益の得喪を2人以上の者が争う行為」と定義されています。NFTゲームに照らし合わせて考えると、例えばアイテムを獲得できるかどうかという点や、獲得できるアイテムがランダムで決まるという点は「偶然の勝敗」に該当する可能性があります。そして重要なのは、「得喪」を争うかどうかです。

例えば、5000円で取引されているアイテムを獲得できるかもしれないゲームに500円の参加費を支払って参加し、5000円のアイテムを獲得できれば利益を得ているように見えますし、100円のアイテムしか獲得できなかったり何も獲得できなかったりすると、財物を喪失しているように見えます。

塩田:ガチャを回してアイテムを獲得するゲームはたくさんありますが、NFTゲームのガチャの場合は注意が必要なのでしょうか?

藤江:おっしゃるとおりです。一般的なゲームのガチャはリアルマネートレードが禁止されていることもあるので、ガチャで得られたアイテムのレア度に差があったとしても客観的には等価値、すなわち得喪がないという整理が可能です。しかし、NFTゲームの場合、売買を通してアイテムを現金に換金できるため、アイテムに客観的な価値の違いが出てきてしまいます。

最近では、ガチャを通してアイテムを得るための価格(一次流通市場における価格、上記の例における500円)と、得られるアイテムの市場価格(二次流通市場における価格、上記の例における5000円や100円)は別個のものであって、二次流通市場における価格が一次流通市場における価格を下回ることがあったとしても、これは財物の喪失にはあたらないという主張もなされ始めています。もっとも、この主張においても、仕組み次第では賭博が行われていると評価される可能性があることを認めていますし、当然ながら反対意見もあります。

現時点では確たる法的見解がないため、専門家の意見も踏まえつつ、500円の参加費なら少なくとも500円分のアイテムは獲得できる、すなわち得喪の「喪」がない、と合理的に整理できる仕組みを構築するのが安全です。何が賭博に該当するかが不明な点は政府でも問題視されているため、将来的な立法的措置が講じられることを期待しつつ、今後の動向を注視することが重要です。

 

ランキング報酬やログインボーナスは景品に該当する?

塩田:ありがとうございます。次にNFTを販促目的の景品として活用するケースが考えられますが、その際に気を付けるべき法的論点はありますか?

藤江:まず前提として、過大な景品類の提供は、消費者の意思決定を不当に歪めて損害を与えるとして、景品表示法によって禁止されています。景品類として付与できる限度額は、景品類の付与方法などに応じて変わるので、具体的な額は都度ご確認いただく必要がありますが、基本的には本来の商品・サービスの取引価格によって決まります。

ただ、NFTを景品類として提供する際、今まで市場で流通していないものを提供する可能性があるので、その価値がいくらなのかが問題になりえます。景品類の価格は、基本的にそれを通常購入する時の価格とされているので、NFTであれば、同様のNFTの過去における市場での取引価格や、NFTを用意するのに要した費用などを参考にして算出する方法が考えられます。この点は実務がまだ固まっておらず、今後官公庁から解釈等が公開される可能性もあるため、継続的に動向を追う必要があると考えています。

塩田:なるほど。価格の設定が難しいからこそ、過去の類似作品を参照するなどして、合理的に説明できる形で算出することが大切だということですね。

藤江:そのとおりです。また別の観点として、そもそもNFTが景品表示法の規制対象となる景品類に該当するのかという点も検討する必要があります。景品表示法が対象とする景品類は、大まかに、「顧客誘引性」「取引附随性」「経済的利益」という3要件を満たすものを指します。その中でも、景品類が何らかの取引に附随して提供されているという「取引附随性」が論点になるケースが多いです。

例えばランキング報酬が発生するゲームで、ランキング上位に行くために課金が不可欠な場合、ランキング報酬は課金という取引に附随していると評価され、景品類に該当するとして価格規制が及ぶ可能性があります。また、ログインボーナスについても、有償のゲームで提供されるのであれば、有償でのゲームサービス提供という取引に附随していると評価される可能性があります。

他方で、原則無料のゲームであれば、豪華なログインボーナスを提供したとしても消費者に損害が生じ難く、取引がないとして取引附随性は否定されると思われます。もっとも、この場合でも取引附随性を肯定する意見はあるようです。どうしても判断がつかない場合には、官公庁に匿名で照会して温度感を確認することも考えられます。

 

NFTの法規制は個別ケース。アイデア出しと検討を両輪で進めることが重要

塩田:今回はNFTをテーマに、NFTアートの民法と著作権法、そしてNFTゲームおよびゲーム内アイテムにおける景品表示法と刑法について、特に問題となる可能性がある論点をお二人に整理していただきました。最後にNFTアートやNFTゲームのビジネス展開を検討されている方に向けてメッセージを頂けますでしょうか?

島内:NFTアートはライセンスが必要になるかどうかがビジネスにおける一番の障壁になりますが、個々のケースで解釈が変わるため、精密に確認・検討する必要があります。これまでNFTアートのライセンスについてあまり論点に挙がっていませんでしたが、今後はより厳密に確認する流れが出てくると予想されるため、潮流のキャッチアップを継続していただくことが大切です。

藤江:NFTゲームは海外でも新しいものが次々と出てきており、日本でも同様のサービスを展開したいという相談を受けるケースが多々あります。まず、海外と日本では法規制が異なるので、同様のビジネスモデルで提供できるかどうかは慎重な検討が求められます。特に、賭博に該当した場合は刑法違反になるので慎重に検討する必要があります。一方で、一見すると法規制に抵触しそうなビジネスモデルでも、スキームを整理すれば適法に行うことができる可能性もあるので、ぜひ積極的なアイデア出しや弁護士への相談を重ねていただけると幸いです。

塩田:ありがとうございます。NFTは多くの課題解決につながる技術であり、私も含めこの技術に未来を感じている方も多いと思います。ただ同時に、法的整理を含めてまだまだ不透明な点があることも事実です。企業の皆さまが安心してWeb3やNFTを活用した事業展開をできるよう、電通では国内グループ横断組織「web3 club」を発足し、Web3関連ビジネスを統合的に支援いたします。この記事を読んでWeb3、NFTの活用に興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

【問い合わせ先】
株式会社 電通 web3 club:[email protected]

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