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Web3で進化する社会貢献活動No.1

学生の社会貢献活動を可視化!Web3技術による社会課題解決の新たなカタチ

2024/10/10

近年、企業にも社会との向き合い方が問われるようになり、SDGsをはじめとする社会貢献への取り組みが加速しています。そして、生活者の社会貢献活動に対する関心も高まり、プラットフォーム等を通じて個人が金銭的な支援をしやすい環境が整っています。

その一方で、寄付金がどこに、どのように使われているのが不透明でブラックボックス化しているケースや、金銭の大きさで測れない社会貢献活動は可視化・評価されにくい側面がありました。

こうした背景を踏まえて、電通グループのR&D組織である電通イノベーションイニシアティブ(以下、DII)とパナソニック ホールディングスは、Web3技術を活用し、環境課題や人権課題などに対する社会貢献行動を促進する「トレーサビリティ基盤開発プロジェクト」を立ち上げました。

Web3技術で社会貢献活動をどのように促進できるのか?そこにどのような可能性があるのか?パナソニック ホールディングスの蓑田佑紀氏、DIIの鈴木淳一氏に聞きました。

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(右から)パナソニック ホールディングス 蓑田佑紀氏、DII 鈴木淳一氏

 ブロックチェーン技術で、寄付金のトレーサビリティと「非地位財」を可視化

──「社会貢献活動を促進するトレーサビリティ基盤」とはどういうものなのでしょうか?プロジェクトの概要を教えてください。

鈴木:日本の大学生がそれぞれ関心のある社会課題を選んで寄付ポートフォリオを作成し、日本のシニア層を中心とする投資家が彼らを金銭的に支援することで、被支援者の課題解決を促進する、そして大学生やシニア層などの取り組みに関わった方々には第三者から共感のリアクションとして非金銭的なものを含むリワードが届けられる、というのがざっくりとした概要になります。

もう少し仕組みを説明すると、この基盤にはブロックチェーン技術が活用されており、厳格なトレーサビリティを確保することで、寄付金がどこに使われ、どのような成果につながったのかを詳細に把握することができます。また、学生は社会貢献活動という「非地位財」(お金で購入できない財のこと)をトークン化することで、就職活動などの与信評価に活用でき、投資家はトレーサビリティ基盤のチャネル上で被支援者や若い世代とコミュニケーションを取ることができるため、従来の金銭的支援では得られなかった交流の機会や情緒的なつながりを得ることができます。

──なるほど、学生と被支援者、投資家、それぞれにメリットのある取り組みであることは分かりました。具体的な仕組みについては後ほど改めてお聞きしたいのですが、そもそもこのプロジェクトを立ち上げた経緯を教えてください。

鈴木:構想のきっかけとなったのは、2023年に世界最大級の気候変動イベント「Climate Week」の一環として国連本部で開催された会合に参加したことです。この会合で世界の人権における最も危機的な課題を議論する中で、賛同者が一番多かったのが「インド地域における男女の教育格差問題」でした。

インドでは高等教育機関に進学する女性の割合が非常に少ないのですが、その背景には女性の職業選択の不自由や人身売買問題などの課題があります。こうした課題解決に向けて国際的な寄付金も集まっているのですが、現地団体の人件費で大部分を使い果たしてしまったり、何重もの中間介在によって多額の手数料が引かれたり、親が生活費に使ってしまったりするケースが起きているというのです。

寄付金の大部分が本来支援を受けるべき方に届かないという問題は、実はインドに限ったことではありません。でも、インドの場合は戸籍を与えられていない女性も存在していて、お金の問題と身分を証明する手段を有していない問題とが相まって、当該女性のキャリア形成には大きな制約があるのです。

──それは深刻な問題ですね…。

鈴木淳一

鈴木:この話を聞いたときに、私の専門分野であるテクノロジー、特にWeb3と呼ばれるブロックチェーン技術をはじめとした自己主権型の情報環境を活用することで、この問題を解決できるかもしれないと考え、構想を描き始めました。その過程で、寄付金の問題はインドに限った話ではないですし、人権問題や教育格差だけでなく環境問題においても持続可能な社会貢献のコミュニティを作るべきだと思い、以前から付き合いのあったパナソニック ホールディングスの蓑田さんに相談したんです。

──蓑田さんは、鈴木さんの構想にどのような印象を持ちましたか? 

蓑田:まさしく、私たちやりたいことと方向性が合致していると思いました。パナソニックグループでは、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」が両立する社会の実現に向けて、2022年に長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」を策定しました。具体的には、2050年までに3億トン以上のCO2排出量の削減インパクトを創出することを目指しています。

しかし、この目標は一社だけで実現することは難しく、社会やお客様と共創していくことが非常に重要です。そのようなコラボレーションや意識変容を促進する上で、「持続可能な社会貢献コミュニティ」が重要な役割を果たすのではないかと考えました。

蓑田さん

鈴木:先ほどお話しした「非地位財」という言葉は、蓑田さんとの会話の中からたどり着いた表現でしたよね。

蓑田:そうでしたね。以前から当社では未来のより良いくらしを追求する中で、健康や環境による幸せに加えて、愛情ややりがい、自由など、お金では買うことができない価値の大切さをしっかりと考えていくべきだと議論していました。

ちなみにパナソニック ホールディングスの技術部門は、2040年の未来にありたい姿「一人ひとりの選択が自然に思いやりへとつながる社会」と、その実現に向けた研究開発の方向性を示す「技術未来ビジョン」を2024年7月に策定しています。その中でも「心地よい心身の状態でまわりの人との関係性の中に思いやりが“めぐる”」という、自分らしさと人との寛容な関係性について触れています。

また、パナソニックの創業者・松下幸之助が残した「企業は社会の公器」という言葉のとおり、当社では社会貢献こそが企業の使命であり、利益は社会に貢献した報酬として社会から与えられるものだと考えています。こうした経営方針も、非地位財という考え方に通じるものがあると感じています。

鈴木:非地位財の典型的な例が日々の善行や社会貢献活動のことで、パナソニックさんはそれを「陰徳を積む」という言葉で表現していたのが面白いと思って。まさに“陰”と言いますか、これまではなかなか表に出てこなかった価値や評価基準ですよね。

これをWeb3の世界で第三者によって評価可能な新しいアセット評価の指標を用いて可視化できるようになれば、例えば従来のようにお金持ちの人や高い時計を身に付けている人だけに特別なサービスを提供するのではなく、社会貢献活動をしている人や共感できる価値観を持った人に対してインセンティブを付与するような仕組みをつくることもできるかもしれません。今回のプロジェクトでは、そのような非地位財経済圏の確立も見据えています。

DIIはこれまで、J-WAVEのLISTEN+(リッスン・プラス)や落合陽一サマースクールなどの取り組みを通して、個人の日々の行動実績がNFTにより証明可能となる情報環境の整備を進めてきました。例えば2019年から落合陽一サマースクールに参加し卒業した生徒たちには卒業証明書NFTを発行していますが、その情報をもとに第三者であるフランスの地方自治体から今年の受講生20名が制作した映像作品のサムネイル画像を、当地フランスのロードサイドに設置される変圧設備の前面パネルにプリントし、展示したいというオファーが届きました。

それが実現すれば生徒にはアーティスト報酬も支払われるということですから、参加した生徒たちは早速、特定のプラットフォームに依存しないWeb3型の情報環境がもたらす恩恵に預かることができました。そのような経験を積むことで生徒たちの中から自身のクリエイティビティの可能性に気づく人も出てくるかもしれません。また、非地位財という新たなアセット評価の仕組みが登場することで、個人の日々の行動実績がポートフォリオとして、つまりNFTの総体として捉えられる意義も、まさにそこにあるのです。

学生・被支援者・シニア層の交流が、寄付の“やりがい”や持続的な支援につながる

──それでは改めて、今回のプロジェクトの仕組みを教えてください。 

非地位財

鈴木:こちらがプロジェクトの全体像を示した図です。はじめに、ソーシャルセクター領域のコンサルティングを専門とするファンドレックスの協力のもと、本プロジェクトによる価値創出が見込める社会課題リストを作成します。

続いて、学生一人一人がリストの中から課題の優先順位を決め、寄付額の配分を決めるポートフォリオを作成します。例えば、毎月2000円寄付できる学生が、そのうち45%の900円をインドの教育格差問題にあて、残りの1100円を脱炭素問題にあてるなど、自身の関心に応じて寄付ポートフォリオを作成できます。そして、学生が寄付する10倍の金額をシニア層や投資家が拠出することで金銭的な支援を行います。

──すみません、どうしてシニア層や投資家が学生の寄付を支援する必要があるのでしょうか? 

鈴木:まず、インドの女性が高等教育機関に進学するなど、課題解決につながるほどのインパクトをもたらすためには、できれば数千円ではなく数万円規模の寄付を継続的に行うことが望ましいと考えています。そして、従来の寄付活動は団体を窓口とした金銭的な支援が主流で、被支援者とのコミュニケーションがなかなか生まれにくいことが持続性において障壁になっていました。

そこで本プロジェクトでは、お子さんやお孫さんがある程度大きくなったシニア層の方が“第二の孫”を持つような感覚で、学生さんと継続的に交流することで、愛情ややりがいを育みながら支援を継続できるのではないかと考えました。トレーサビリティ基盤を用いることで、学生・被支援者・投資家の三者はチャネル上で日々の交流が可能になります。そのような世代横断型コミュニティへの参加機会が提供されることは、非金銭的なリワードとして有効であろうと考えています。

──寄付金はどのようなフローで被支援者に使われるのでしょうか?

鈴木:寄付金は高等教育機関の受験料や学費のほか、学用品や下宿先の手配費用などに充てられます。必要な額が貯まるまでは金融機関に供託され、被支援者が受験する段階や、入試に合格し入学手続きに進めるようになった段階など、局面に応じて金融機関から現地機関に対して、トークン認証技術を用いた正当性の確認プロセスを経て支払われます。あらかじめ使途が特定されたNFTを用いて供託金のロック・アンロックを制御可能とすることで、寄付者の意に沿わない使途には用いることができなくなる。

このように、寄付金の使用用途を厳格に管理することで、女子生徒の親が寄付金を使い込んでしまうケースや、権利を転売するといったケースを防ぐことができます。さらに、ブロックチェーン技術のスマートコントラクト(第三者を介さずに信用が担保された処理を自動化すること)によって、中間介在コストを極力減らすことができます。

また、インドの女性は戸籍が与えられていない場合もあるので、国連など国際的に与信が得られている機関が識別IDを発行することで、戸籍がなくても受験や入学手続きを可能にすることも構想しています。

これはあくまでもインドの教育格差課題に対するフローとなりますが、今後は環境問題における脱炭素の取り組みを促進するスキームも考案していく予定です。例えば、同じドライヤー製品であっても生産・流通などのサプライチェーン上でより低炭素に作られたドライヤーをブロックチェーン技術で可視化し、それを選んだユーザーにインセンティブを付与するというような仕組みも作れると思います。

蓑田:そうですね。環境については脱炭素に限らず、サーキュラーエコノミーや地域コミュニティ活性化、ネイチャーポジティブなど、関連する課題にもこの仕組みをどんどん広げていけるのではないかと思います。

鈴木:また、インセンティブと聞くとギフトカードなど金銭に換算可能なものをイメージしがちですが、それだけに限らず、例えば普段からエコを意識して生活している人であれば、もしかすると「カフェでプラスチックのストローが必要か毎回聞かれなくなること」が、その人にとってのインセンティブになるかもしれません。

個々の多様な価値観がNFTポートフォリオとして可視化され解析可能となることで、これまでの金銭的な評価指標を軸に設計されていた顧客ロイヤルティ戦略は、顧客それぞれが大切にしている価値へと戦略の軸足を移していくものと予想しています。もちろん価値の捉え方の一つは従来通り金銭的な地位財になるでしょう。しかし例えば、環境にコミットして生きてきた生活者が自社にとって重要だと捉える企業は、当該生活者に対してどのようなロイヤルティをオファーすべきか、リワードの種類や提供動線についてまだ事業者は知見を蓄積できていません。

蓑田:非地位財的なインセンティブは、私たちの生活の中にたくさんあるはず。生活における価値や体験って、お金で買えるものと買えないものがシームレスにつながっているんですよね。つい、お金で買えるものに目が行きがちですが、まわりにはお金で買えない価値がいっぱい潜んでいる。それをテクノロジーの力で可視化し、仲間と一緒につなぎ合わせていくことが、非地位財経済圏の創造につながると考えています。

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物質的な豊かさだけではない、多様な豊かさを受け入れる社会へ

──今回の取り組みは、電通グループとパナソニック ホールディングスのみならず、DIIの共同研究各社も参画しています。さまざまな企業を受け入れている背景には、どのような思いや狙いがあるのでしょうか?

蓑田:社会課題は一社で取り組むよりも、連携したほうがインパクトが生まれる、ということに尽きると思います。やはり、脱炭素などの大きな社会課題を解決するために、別々に取り組むのではなく一緒にやっていこうという考え方は共感を得られやすいのだと思いました。だからこそ、今回のプロジェクトでも積極的に仲間を増やしていくことが必要だと思っています。

鈴木:自分たちのテリトリーを守ろうとするのではなく、もしかすると既存事業では競合するような企業であっても、同じ船に乗って社会課題の解決を目指す。パナソニックのそのような姿勢は、本当に心強く感じています。

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──最後に、今回開発したトレーサビリティ基盤を通じてどのような社会変革を目指すのか、意気込みやメッセージをお願いします。

鈴木:電通グループは、「B2B2S」(Business to Business to Society)という経営方針を掲げています。これは、顧客の事業課題の解決を通じて社会課題の解決につながる価値を創造し、社会に貢献していくことを目指すもの。今回の取り組みはまさに、B2B2Sを体現するものになると考えています。

そして、従来の寄付活動においては、膨大な寄付総額に対して自分が寄付した金額が微々たるものであることから、貢献した実感や達成感が得られず、持続的な活動につながらないという課題もありました。特に学生などの若年世代にとってそのような傾向は顕著であり、周囲の人々を巻き込んで大きな運動につなげプロジェクトをファンドレーザーとしてリードしていても、結局は支援金の額で評価されてしまっていた。

今回のトレーサビリティ基盤を通じて、金額の大小ではなく、自身の思いの多寡を可視化することで、その思いに共感した人からの支援を受けられ、レバレッジを通じて自己実現が図れるというスキームを新たに確立することができます。そのように、非地位財という新しい評価尺度を浸透させることで、物質的な豊かさだけではない、人それぞれの豊かさを肯定し、多様な価値観を持った人が共存できる社会をつくっていきたいと思っています。

蓑田:同感です。社会のため、人のために何かをする、という行いは、昔から多くの人がやってきたことです。ただ、まさしく陰徳という言葉が示すように、人知れず見えないところでやっていることも多いと思うんです。そのような行いを可視化し、記録しておくことで、今すぐではなくても何かしらの形で還元されるようになることは、より良いくらしを作っていく上でとても大切なことだと考えています。その仕組みができれば、人びとの生活はもっと豊かになると思うので、ぜひ共感していただける方は、一緒にこの基盤を盛り上げていだけるとうれしいです。

鈴木:そうですね。まずは非地位財に対してさまざまな形でインセンティブを提供していただける仲間を求めています。製造工程において低炭素化を実現しているパナソニックのような企業もあれば、ロイヤルティプログラムの知見を生かして非地位財領域のインセンティブ開発にチャレンジしている事業会社もあります。

これからの時代は、社会との向き合い方が企業に問われ、売上や利益だけでなく社会貢献活動の成果を定量的に可視化していくことが求められます。今回のトレーサビリティ基盤は、まさにそのような社会貢献活動を実現できる場所として活用することもできます。ぜひ、お試しからで大丈夫ですのでご連絡をお待ちしています。

【問い合わせ先】
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ 鈴木
URL: https://innovation.dentsu.com/
Email: [email protected]

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