現在、『リーン開発の現場』の翻訳をしているのですが、共訳の@papandaくんも僕もはじめての翻訳で、やってみて気がつくことが多々ありました。本が出版されたら、お世話になった出版社の方を呼んで「技術書の翻訳勉強会」とかやりたいなぁと思ったので、簡単ですが頭のなかを整理してみます。
1. どうやってはじめるの?
僕達の場合はインセプションデッキをベースに企画書を作って、監訳をお願いさせていただいた@kakutaniさん経由で出版社さんに見ていただきました。この企画書は僕らの頼れる先輩であり鬼編集長でもあった@kakutaniさんにも、出版社さんにも褒められたので、飛び込みで「たのもー」とするより、翻訳への熱意が伝わる材料として、企画書はあるとよさそうです(もちろん、@kakutaniさんの信頼貯金も大きい。ここ重要。テスト出るよ)。
あとは、原書を訳したモノがあるとさらにいいそうです。ざっくりでも「ひと通り訳してみました」というモノがあれば、出版社さんも安心して話を聞いてくれます。
他の企画もピッチ作るべきですね ―― 出版社の方
2. 技術書の翻訳の対価は?
僕は思い出づくりとして翻訳をしていたので、あまり対価を考えていません。一番は興味ですね。それ以外だと「自分が翻訳した本が書店に並ぶのってステキ」とか「ISBNをひとつゲットできるぜ!」とかがモチベーションでした。
場合によるとは思いますが、印税とかの割合を聞く限り、翻訳でお金儲けするには大量に売って印税で稼ぐしかなさそうでした。ただ、技術書はあまり売れないようなので(各国語に訳されている『Kanban』ですら全世界で3万部)、お金より名誉がモチベーションになるみたいです。
本を1冊出すというのは大きく違う一歩だ ―― 鬼編集長
3. ひとりでもできる?
『リーン開発の現場』では共訳が@papandaくんと僕。監訳は@kakutaniさんになっています。その他に「監修」とか書かれている本もありますよね。これらは、
- 共訳(翻訳)は、原文を読んで翻訳する仕事
- 監訳も原文も読むし、翻訳書としての責任を持つため翻訳より偉い
- 監修は、原文を読まず日本語レビューのみ。監訳より偉い?
といった違いがあるそうです。このへんの違いを気にせず作業していましたが、監訳のレビューで原文がほぼ書きかわりました。簡単にいうと、自分たちで翻訳した文章はボロボロだったということです。
ただ、監訳が入ったものを読んでみると「売ってる本」っぽくなりました。これは@kakutaniさんの職人力でしょう。だとすると、自分の感覚だと翻訳を2〜3冊経験するぐらいまでは、監訳者に助けてもらえるほうがいい本になる気がします。
翻訳ナメんな! ―― 鬼編集長
4. サラリーマンでも翻訳できるの?
『リーン開発の現場』のように共訳者、監訳者が普通のサラリーマンだと、全員が揃って作業できないため、すごく非効率になります。
たとえば、今回翻訳チームはGithub Issueを使ってコミュニケーションを取りましたが、何かの回答の返事が翌日だったり。文通レベルのスローリーなやりとりです。かといって頻繁に会えるほどサラリーマンは甘くはない。
よって、各自空いている時間に上から下から翻訳したり、見直ししたり、どうしてもわからないところはIssueにして議論したり・・・という感じで磨いていきます。今思えば、もうちょっと定期的に集まって話しておけばよかったかもしれません。
仕事の後にドトールにこもってやってた ―― 鬼編集長
5. 翻訳の環境ってどんなの?
僕はテキストエディタのみでした。翻訳したテキストファイルはGithubで管理していたのでSourceTree使ったりしました。
ただ、やっぱり不便な点もあって、GithubだからPull Request使っちゃえーとかやると、変更が多すぎて逆に手間になったりしました。すでに2700コミット超えてるように、頻繁なコミットがある時期にPull Requestは非効率です。
また、行ごとにコメントしても気がつかずスルーしてしまったり、管理していたファイルの特性でもありますが、段落が1行になっていたので、その段落のどの部分を修正したのかわかりにくかったり・・・。
まぁ、Githubって翻訳のためにあるわけではないので、ツールを使うってことはツールを使うプロセスもちゃんと考えていかなければならないってことでしょう。
俺は23時に寝る。お前は深夜に作業する。だからコンフリクトは発生しない ―― コンフリクトが全然発生しないのを不審に思った時の一言
6. 議論とかでケンカになったりしない?
すごい揉めます。やっぱり、Webベースでやりとりすると「なんとなく言わんとしていることはわかるけど、よくわからない」のが多いです。こういった経験をしたので「もうちょっと定期的に会っていたほうが効率が良かったのでは」と今は思います。
また、「こっちのほうが読みやすい気がする」とか感覚の話になってくるとネバーエンディングストーリーになりがちです。そういうときは「〜と思うけど、こだわりなし」「これは絶対〜だ」といった度合いをコメントに書くことで「ツッコミに対する意気ごみ」を表現するようになりました。
また、英語の知識も日本語の知識も必要です。僕はどちらもまぁまぁな人間なので、例えば「I told with my friend」という文があったら「友だちと話した」とおもっちゃうんですが、「友達と語り合った」のかもしれないし「友達に言い放った」のかもしれない。そういった文脈を段落レベルで読み取るのはとても難しいと学びました。
慣れるまではこれが本当に辛くて、「〜の雰囲気を出す言葉を探す」とか「そこまでやるんかぁぁぁ」というレベルのやりとりが繰り広げられます。翻訳はベニヤ板をツルツルになるまで手で撫でるような作業です。
僕「翻訳ってどう進めるんですか?」
鬼編集長「何周も読む」
僕「でもわからない文章とかでてきますよね?」
鬼編集長「何周も読む」
7. レビューの反映とか大変?
つらいのは、いただいたフィードバックを反映しないときです。それを承知でフィードバックを送ってくださっているとはいえ、心は痛むものです。なので、一つひとつのフィードバックに真摯に向き合う必要がありました。
今回は、本の内容に興味のありそうな方を中心にレビュアーを集めたのですが、そんな皆さんのフィードバックや励ましが本当に力になります。@papandaとも「こりゃ、レビュアーに足向けて眠れないね」と語り合うぐらい、とても助けていただきました。
レビュー反映していくと、そういった感謝の気持がふつふつと湧いてくることを学びました。
レビューがきたら向き合う ―― 鬼編集長
まとめ
今回は、9ヶ月を超える翻訳作業の思い出や、そこで生まれた名言を集めてみました。
正直に言うと翻訳をはじめた12月下旬から現在までで512回心が折れました。というのは半分冗談ですが、仕事しながらの翻訳はやっぱり大変です。単純に趣味レベルではじめるにはハードルは高いし、出版社さんはそれでビジネスしているわけだからコミットメントも求められます。
ただ、表紙があがってきたときはすごくうれしかったりするし、来月書店に並んだらまたうれしくなるだろうし、翻訳にかかる労力を超えた何かがある気がします。翻訳をはじめたときに、出版社の方にたしかこんなことを言われたんですよね。
翻訳には情熱が必要
出版社の方は本に対してすごく情熱をもっており、よい翻訳書をリリースするため、翻訳に情熱を持った人を探しているそうです。
そんな経験から生まれた『リーン開発の現場』もAmazonで予約できるようになりました。完成した本を手にとったときは感動するんだろうか。するよね、きっと。
2013/10/15 追記。『越境せよ!「リーン開発の現場」出版イベント』で翻訳について@kakutaniに質問するコーナーがありますのでご興味のある方はぜひどうぞ。