特集 2023年5月9日

「日本は安くなった」はどこから生まれるのか~お金の専門家と街歩き後編

『お金のむこうに人がいる』の田内学さんと街を歩いてお金についての考え方を知れました

専門家と街を歩くシリーズ最新回はお金の専門家として田内学さんと渋谷を歩く。

接着剤や広告看板など知られざる世界の専門家と街を歩くことが多かったこのシリーズであるが、今回はダイレクトにお金である。うっすら避けてきたお金の話がみるみるわかってしまう…

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:専門家と街を歩くシリーズ、思い切ってお金の専門家を呼んでしまう

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

「お金は人を動かすチケット」で考える

田内学さんの書いた『お金のむこうに人がいる』は、お金とは人に動いてもらうためのチケットだという考えがもとになっている。

高齢化社会に向けて2000万貯めたところで、動いてくれる人がいないと意味がない。インバウンドで日本に残った外貨はいずれその国の人が動いてくれることになる。などなど、その考えで初めてお金のことが体感として分かってきたのが前回(『専門家と街を歩くシリーズ、思い切ってお金の専門家を呼んでしまう』)

今回はその続きである。私たちはお金でどうやって幸せになるんだろうか?

お金のむこうに人がいる』著者の田内学さん(左)デイリーポータルZwebマスター林雄司(右)ライターの大北(写真撮ってる)でお送りします

そもそもお金以外の支え合いがあった

林:
開発途上国について書かれた本を読んでいて、地元の繋がりがあるとみんな不安なく生きてるっていう話を見たんですよ。

田内:
僕らは今お金の話をしてますけど、お金じゃない経済ってたくさんあって。地方に行くとコミュニティの助け合いがおすそ分けみたいなのも含めてたくさんありますね。
例えば都市部だとさっきもメンタルクリニックがあって、そこではお金を払ってカウンセリングとして相談をしている。でも、周りの人に相談を聞いてもらうことができたらお金がかからないですよね。地方はその傾向が強い。それも含めて経済で、実は僕らの中でも家事や育児はカウントされないけども、そういう人として支え合いの話も経済に含まれる
途上国の話も一緒なんじゃないでしょうか。ただ、途上国は人口が増えてるから大丈夫なんですよ。一方日本は今、お金じゃない支えがあったとしても、若い人たちが減ってるから支えられないんですよ。

大北:
ひゃー、つらい現実。

林:
真似しようと思っても人が少ないのか。

林:
大北くんは芝居をやってますけど、芝居とかってすごいみんな安い金額で動いてたりするじゃないですか。お金プラス出ることへの自分のメリットみたいなものを感じて

大北:
世の中にある偏見でもありますが、やりがい搾取と呼ばれるやつですね。

田内:
お金だけじゃない部分っていうのがありますよね。知り合いだとお金いらないけど教えてあげるよみたいに。僕らの意識の中では、お金もらって働くのが当たり前で、そうじゃないことって特別な気がしちゃいます。でもそれは本当は逆。お金っていうものが隙間を埋めてたはずなんですよね。
演劇のことはわからないですけど、例えば地元のコミュニティでみんなで演じることになった時、音楽演奏できる人が誰もいないとします。でも、お金を払えば地元外の人に音楽をつけてもらったりもできる。お金によって世界が広がっていってる

林:
田舎で焼酎がお金代わりになってるところありますよね。村でちょっと世話になったからって、お金だとちょっと露骨だからお酒。義理とお金の中間というか。でそのお酒をまた誰かに渡したりとか。

大北:
中間にあるのは酒、説得力ありますね。

田内:
本来お金ってそういうしるしみたいなもののはずだったんですよね。使ってるうちにお金自体にすごい価値がある思うようになっちゃったんですね。

いったん広告です
街にある公共のものの値段ってどう考えればいい?

投資をすることは未来の労働

林:
飲食店は人が中にいるので、この価格は労働代から来てるんだって見えやすいんですけど、エスカレーターみたいなのはどう考えればいいですかね。商業施設がエスカレーターを作る労働をメーカーから買ってる?

田内:
こういう場合は作られちゃってるわけで、投資なので。老後への備えって意味で言うと、実はこういうエスカレーターとかの方がお金を貯めるよりも大事ですね。この階段が登れなくなる、誰かに介助してもらいたいけど将来の労働力を増やすことはできないからお金貯めるのは意味がない。

林:
新しく作られた国立競技場とかもそうですかね。

田内:
そうそう、未来の人は設計に頭を悩ませたり、汗水垂らして建設しなくても、利用できちゃう。このエスカレーターは将来の労働というか、将来の人を助けるわけですよね。設備投資とか言いますけど、投資っていうのは将来の誰かに対して働くことで。

大北:
投資という言葉には成長!成長!みたいなイメージがなんかありましたけど、将来の労働やその助けとも考えられるんですね。おもしろいな~。

田内:
「将来誰かのためになるために、今、資材を投げる」が投資ですよね。それが成長っていうのは将来の収入ではなく生活が豊かになりますよねっていうことなんですね。

林:
東芝が1980年代ぐらいからフラッシュメモリを研究してたおかげで今我々が助かってる。そんな40年前からすごいな~と思うんですよね。今ドローンのタクシーとかみんな開発してるのは20年後とかに乗れるわけですよね。

田内:
便利になりますよね、普通のタクシーよりも安くなるかはわからないですけど。でも安くなるっていうと「給料下がっちゃう、タクシー業がなくなる」って話によくなるんですけど、その分、将来の人が働かなくて済むっていうことなんですよね。

大北:
私達が利用してたサービスが安くなるとその中の働く人が減ってる。それは多くの人が働かなくて済んでるってことでもある。

林:
その人たちは、さっきの楽天モバイルじゃないですけど、新しいところで働いたり…

田内:
それが理想ですけどそんな急激には変われなかったり。最近、政府がリスキリング(新しいスキルを学ぶ)って言ってるのもそれですね。

大北:
高校で投資教育始まるとかって話ありますよね

田内:
投資って、たとえば新薬ができてみんなに使ってもらえればお金も回収できるから、そのお金をみんなで分けようっていう話なわけですよ。
多くの人がお金を投資するようになっても、新薬を作りたいって頑張る人が増えなければ、将来回収できるお金は変わらない。だけど投資する人は増えているから薄まって分配されるだけ。
日本の成長のためには頑張る人を育てるのが大事なのに、今はなぜか投資教育をしようみたいな話になってるなと僕は思ってます。

街にあるものは、大体誰かが働いたものの痕跡であり、未来の働きでもある

林:
この山手線の線路とかも。これ、100年ぐらい前に昔の人が敷いてくれたやつですけど今何も考えずに使えるわけですよね。

大北:
そうすると街にあるものは、大体誰かが働いたものの痕跡というか集合体なのかなー。

田内:
『日本沈没』っていう映画がありましたけど、日本にもう住めないからみんなで無人島に移住しようとなったとしますよね。
たとえば、この渋谷の不動産の資産価値が100兆円だとして、じゃあ100兆円の現金をその無人島に持っていっても全然意味がない
新しい土地に何があったらいいかなって考えたら、やっぱりこういう鉄道だったり、もしくは制度とかルールとかもあるでしょうけどハードウェアじゃないですか。それがもう僕らの生活の豊かさで。失われた30年で給料は下がってると言うんだけれど、でも30年前より絶対に便利ですよね。

大北:
ルールもハードウェアに近いものがありますかね?

田内:
いろんな制度とかね。医療制度や教育制度ができて僕らは今暮らしが安心して暮らせる部分もあり。

林:
医療ってこの30年ぐらいでも新生児の死亡率とか下がってるらしいんで安全になってるんですもんね。あ、結局少子化の話題にいってしまいますね

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