賞味期限から開けると屈辱を味わう
一体なぜ賞味期限側から開けてしまうのだろう。トイレの便座をしたまますることなんてないじゃないか、裸足で外に出ることなんてないじゃないか。
なんでこんな簡単なことができないんだ…記事で取り組んでみますと担当編集安藤さんに言ったものの、期日だけが経過していった。
そもそも矢印で示している
大北:もう二度と間違えたくない。そんな思いであけぐちと賞味期限の傾向と対策を調べに行きました
安藤:僕も間違えたことある気がするけど、最近間違えないですね。なんでだろう
安藤:基本的には矢印書いてあるじゃないですか
大北:書いてあるんですよね。「だからなに?」とか思ってるんですかね、無意識の自分が
賞味期限からは開かない
安藤:賞味期限側からだと開かないんですか?
大北:あけぐちと賞味期限の側ではおそらく構造は同じなんですが、のりづけ面積が狭いのかあけぐちだけ開き、賞味期限側はしっかりのりがついてあって開かない。
安藤:なぜどちらからも開けられるようにしないのか
大北:ウィズニュースでメーカーに聞く記事がありましたが、なぜというのは構造上そういうものだからという話でしたね。
安藤:作る上で構造上弱い部分を開け口って言ってるんだ
メーカーによってばらばら
大北:このずらっと並んでいるのを見てください、あけぐちなんですが、右、右、左、とあけぐちはメーカーによって方向が違うと
安藤:なるほど、統一基準がない
大北:右のメーカーも左のメーカーもあるんですよね……くそっ!!
安藤:ほんとだ、これは見てないと間違えますね
大北:でね、このメーカーは右だ、左だ、って傾向を知って対策を練ろうとしたんですよ。森永は右だ、雪印は左だって。
安藤:それがわかれば対策がとれますからね
大北:するとこの仕打ちですよ。わかりますか? 180°ひっくり返して裏側を置いてみたんです。
裏表も右も左もない
安藤:あ!
安藤:こりゃだめだ
大北:裏と表が同じデザインなんですよ。一つの牛乳において、右にも左にもあけぐちが来てしまう
安藤:並べるときにおかしくならないように裏表を同じにしてるんですね
大北:これはどのメーカーもそうなんです、右にも左にも来る……一体どうしたらいいんだ
あけぐち戦国時代
大北:ただ賞味期限の数字が書いてありますよね。スーパーではそちらが向けられてるので数字が書いてあるほうが正面とも言えます。
安藤:まあそうでしょうね
大北:でもそんな数字を確認したうえで開けろというなら、そっもそも「あけぐち」と書いてあるのを確認するだろうと
安藤:はい
大北:それに数字を前に向けても右と左メーカーごとにあけぐちがちがうというのもある
安藤:まじか、やりたい放題だな
大北:あけぐち無法状態と言ってもいいでしょう
赤いのはみんな間違えているから
大北:メーカーによってはあけぐちが赤色というのが多かったです
安藤:わかりやすいですね
大北:ただし他と同色も多いです、ジュースなんかは特に同色が多い
大北:これって赤色にしているってことは間違える人も多いってことじゃないですか
安藤:そうでしょうね。
安藤:でも赤だと強いからデザイン的にそっちに目が行っちゃいますよね
大北:そういう意味では使いたくない。でも間違う人がいるから使わざるを得ない。とにかく私達はあけぐちと賞味期限を間違えているんですよ!
安藤:江戸の人がこれ見たら開けられないですよ
大北:そうですよ、江戸時代で考えたら正しく開けられない私達の勝ち。でも今は現代だからとにかく負け。もうあけぐちと賞味期限を間違えたくない…!
みんな眠れぬ夜を過ごしている
大北:賞味期限側から開けたときはミシッとなるんです
安藤:接着が丈夫だから
大北:それは自尊心が傷つく音なんですよね
安藤:自尊心が接着に負ける
大北:サッカー選手とか骨折するときとかに音が聞こえたりするらしいじゃないですか。ああいう心が折れる音が聞こえるんです。もうそんな思いはしたくない。枕を涙で濡らしたくない。
安藤:昨日、豆腐のパックを開けようと思って、失敗してのりしろだけ取れちゃって。心が折れました
大北:こうして私達は眠れない夜を……
大北:いくらメンタルヘルスを整えようが、腸を整えようがすべて無駄です。
安藤:ユニバーサルデザインから漏れたんだおれは、という悲しさがある
大北:早起きしても断食しても賞味期限から開けてしまったら全部むだ。
安藤:牛乳飲んで骨が強くなる前に心が折れてるんだからな
一体どれくらい賞味期限とあけぐちは違うのか
大北:そうですよ。一回よくよく賞味期限とあけぐちを比べて眺めてみようと。
安藤:それでもう間違えなくなるかな
大北:これです。こんなに違う
大北:こんなに違うものをよく間違えていたなと。
安藤:おれ目が悪いけど間違えようがないくらい違う
まったく糸口がない
大北:重ねてみたところでこうですよ。ぜんぜん違う。
安藤:これは立体メガネかけても飛び出さないな
大北:もう特訓もしようがないなと記事がここで止まりました。3日くらい考えてました。
安藤:そうですね、おれが全面的に悪い、という話になりますね
大北:私の無能さをあげつらって終わり、
安藤:「これからはよく見よう」だとダメなんですか
大北:残念ながら
安藤:なんで……でも、そうですよね、人は間違えますからね
大北:私はあけぐちも賞味期限も無意識のうちに見てるはずなんです、それでも間違えている
幼稚園からやりなおそう
大北:こんな乳幼児でもちがいが分かるようなものに対して私達は間違えている。
安藤:どうしたらいいんだよ
大北:ビリから大学に行くような人は小学校の教科書からやったりしますよね。そういうことなんじゃないかと。乳幼児レベルの訓練からしなければならないんではないかと。
安藤:危険な発想ですね
大北:「幼稚園からやりなおせ」という言葉がありますが、むしろそこをやってみようかと
安藤:長い戦いになりそうですね……
大北:これを作りました
安藤:ああ、ここからですね
大北:やってきました
安藤:いや、書けるでしょう、これ
大北:書けるんですよ、書けます。でもそれは反省文のような心を鍛え上げるようなことだと思うんですよ。
安藤:注意力不足は心の弱さなのかな!?
ドリルをとく心は泣いている
大北:安藤さん……間違えてないならおれはこんなことしないですよ(泣)
大北:安藤さん間違えてないでしょ? 賞味期限から開けてないでしょ?
安藤:まあそうですね、これまでに2回くらいしか間違えてない気がする
大北:おれはしてるんですよ。……だったらやらないといけない!
大北:こういうドリルを買ってきまして
安藤:「2歳」
大北:やりましたよ
安藤:これもわかりますよねそりゃあ
大北:漢字ドリルは「わかる」とかじゃないですよね。訓練なんですよ。
安藤:心で覚えるってことですかね
大北:素振りとか空手の型みたいなものなんですよ
安藤:「あ」を見たら無条件に開ける、とかでいいのでは
大北:もう少しだけ問題を難しくしました
安藤:一瞬考えましたか?
大北:イメージもついてますからね。
大北:この問題をやることによって心がさらに折れかねない
安藤:ここまで練習してそれでもはずしたらそれは嫌になる
大北:でもヒントがありました
安藤:何か見つけましたか
大北:これですよ
大北:見てください、のりものの愛を借りるというんです
安藤:そこか
大北:低レベルな鍛錬が嫌になる。そこでみんなが好きなのりものの力を借りるという。
大北:そういう意味で出来上がったものがこちらです。
安藤:そうなんだけどさ
大北:こうですよね
安藤:これホイールローダーの方を選んじゃうなおれ
大北:だめです。好きなのりものの方選んじゃったらだめですよ。
大北:あくまでも訓練のための装飾なんですから。
安藤:ジェット燃料輸送車がいいな
大北:嫌にならないように書いてあるだけですからそれ選んじゃったらだめですよ。
安藤:たしかに。このレベルで心を奪われていたら牛乳飲めない
大北:こういう工夫で他にも訓練を積みまして
大北:形を把握するうえではぬりえなんかもいいんじゃないかなと
安藤:鍛錬と娯楽のせめぎあいですね
安藤:楽しそうですらありますよ
大北:そういうレベルの問題を解かなければならない。賞味期限から開けるような奴は
安藤:そうなのかな……
大北:シルエットを見てみたり
安藤:いやいやいや、わかるでしょうこれ
大北:マッチ棒クイズとかね
安藤:もはや正解がわからないじゃないですか
大北:これは何本とかじゃなくて自由に動かしていいやつ
安藤:数から合ってないじゃないか
大北:あとこんなにちがうのに間違い探しにしたりね
安藤:間違いしかない
大北:どうですかみなさん、笑ってやってください。本当にやればやるほど自己の無能さを思い知ることになるんですよ。
大北:すべて自傷のような問題ですよ
安藤:でもこれで間違えなくなるのなら、ねえ…
大北:ちゃんとやる。「幼稚園からやりなおせ」をちゃんとやるってことですよね
特訓をやったという心の杖ができた
大北:ということでぼくは特訓を終えまして、もう間違えない。
安藤:これ、次に間違えたらさらにショックが深いのでは……
大北:たしかに
大北:とはいえ、やはり間違えるときってよく見てないと思うんですよ。焦っちゃって「なんか書いてある」と思ってすぐ開けちゃってる気もする。
安藤:見てないんでしょうね、そう思います
大北:でもこの特訓で一つの意識付けができたと思うんです。
安藤:気にするようになる、か
大北:教習所みたいなもので、もうおれはここに通ったんだから、と。今後の人生においてもう間違わないだろうと。
大北:賞味期限をむくとこうなってるんですけどね、のりが強くて開かないんですよ
安藤:カラーチャートっぽいものがあるんですね。間違えた人にだけ見える景色だ
賞味期限側からがんばると…
大北:でもこれ後で気づいたんですけど、ぐいぐいぐいぐい何回もやるとですね……
安藤:あれあれあれ
安藤:あれれ
大北:がんばったら開くんですよ!! もう泣きましたよ!
安藤:幼稚園からやりなおしたあれはなんだったのか……
牛乳パックは賞味期限側からも開く
大北:むしろなんかマークがついててかっこいいぞと。おれたちは間違ってなかった!
安藤:得した気分すらする
大北:変形学生服みたいなオルタナティブなかっこよさがありますよね
安藤:こっちからも開くんならもうどっちからでもいいんじゃないかな
大北:それは開きづらいんですけどね
大北:賞味期限から開けるとかっこいい
安藤:不良カッコいい、の精神だ
大北:こっちいったっていいんだぜという結論が導かれたんですよ。
安藤:どっちでもいいとなると気が楽になりますね
大北:これからはミスをしてもめげない。ぐいぐい頑張ればちゃんと開く。
安藤:めげない心をやしなう。人生いつからでもやり直せるという。
大北:むしろ逆から開いてかっこいいぞと。
大北:私の自尊心を犠牲にして読んでる人の人生の杖になれば幸いです。
安藤:もう見ずに開けて、正解だったらラッキーくらいの余裕があるといいんでしょうね
大北:こうして私の探求は終わりました。
安藤:原因を自分の中に見出すんですね。そして自分の中で解決する。大人だ。
大北:やってることは大人じゃないんですけどね
なんだったんだこれは…
デイリーポータルZに書き始めて17年が経ち、もはやどんな悩みでも記事になるのだと思っていた。しかしあけぐちと賞味期限、このタイミングで今までの最大のなにもなさであった。そもそも「ない」問題に立ち向かうドン・キホーテ的なその旅は、17年前に田園調布に宝を探しに行ったことから始まっていたのだろう。
だが本当になにもないわけではない。私達は牛乳パックを賞味期限から開けるという数学で言うなら無限小のようなお役立ち情報を持って人生を生きるのである。私達にはそれくらいしかできないのだから。
ライターからのお知らせ
2024年1月3日に大阪の梅田ラテラルにてアーの9上映イベントをやります。タローマンの藤井亮さんとデイリーの小堀くんと三人で喋ります。
『アーの9』の上映と説明 アー×藤井亮×小堀友樹
START / 18:00 会場:前売 ¥2,000 / 当日 ¥2,300