特集 2014年12月9日

大量のレインスティックで大雨をふらせる

雨の音がする楽器を大量に作って大雨をふらせる
雨の音を聴きながら静かに泣いていたい夜もあるだろう。しかし季節は冬。シベリアから乾いた空気がやってきた。

雨がふらない時は雨の音がするレインスティックという民族楽器がある。しかもこれ手作りできるらしい。

癒やされたい。癒やしどころか、大量に作って大雨を降らせて神の気分を味わいたい。
2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

本来のレインスティック。雨の音がする楽器。バックパッカー旅を好む友人が持てあましていたりする。いらない度は高い。

自由研究にもいいらしいが…

作り方はネットで調べた。自由研究にぜひとどのサイトでも書いてある。

鼻水たらしてランドセル振り回して武器にするような少年が「アフリカで生まれ南米にも渡った民族楽器レインスティックを作って研究したい」とか言い出したら(おい、どうした)としか言いようがない。

自由研究って実現性が第一で動機は二の次なのでよくわからない状況に多々出くわす。
作り方。紙管という名前で売られている紙のパイプにつまようじをさしていく。つなぎ目にそって細かくさす。下穴もいるので面倒は面倒。
上から見たところ。ここに硬いものが入ってチャラチャラ音がする
入れるのはあずき。あまり多くても感じが出ないので2~30粒くらいがよかった
つまようじは80本くらいさした。飛び出たつまようじを切って両端にスポンジでふたをした

工作自体は簡単だった

なるほど、これはたしかに自由研究向きだ。つまようじを何十本さすというめんどくささはあるものの、作業自体は簡単である。

ためしに鳴らしてみる。やや、たしかに雨っぽい音はする。しかし管の長さが短かったか一瞬で終わってしまう。

一瞬の雨。はたしてこれは雨なんだろうか。
できた。雨が感じられるだろうか? パイプが短いからだが、雨の音って一瞬だけではないか
4歳児が興味を持った
マラカスや拍子木がなかったかと言い出す。セッションか。セッションをする気なのか。

幼児もすぐに飽きた

作ってるそばから娘が興味をしめしたので完成品をわたした。マラカスや打楽器を持ちだしてきて一緒に鳴らして遊んでいる。

だがすぐに飽きた。雨の音だとも思わないのか、リズミカルにならせるものでもないのですぐに興味を失った。

ちなみにこのレインスティック、いらない物としてデイリーポータルにすでに登場している(冒頭の写真はそれだ)。世の中的にいらない物に分類される。

買ったけどずっと使ってないもの鑑賞 - デイリーポータルZ

ああ、このままではいけない。亀田一家の父は勝ち癖をつけるために息子のラジコンにも改造を施したという。お父さんがレインスティックを大量生産して大雨を降らせる神の気分を味わわせてやろう。
世界中からかき集められた紙管のエリートたち
かんたんな作業でも積み重なると重労働
一晩明けて6本できた。あと10本。

血豆ができる

大量生産といっても一人である。初日の晩には6本。つまようじは450本程度さした。かんたんな工作だが体の同じ部分を使っているので血豆ができた。

翌日もひきつづき工作。

自分で作った本を置いてもらってる本屋から追加の注文が。工作が間に合わなさそうなので妻が幼子の手をひいて納品しにいく。父は家でレインスティック作りである。

その後ひいきにしているJリーグのチームの試合がテレビではじまる。優勝をかけた最終戦だ。友人から見に行かないかとさそわれていたが作業がありそうだからと断っていた。

彼らは球を蹴る。私はようじを刺す。お互いの世紀の一戦が今はじまる……

そう思いたいのだが、胸をかきむしられるようなこの気持ちは。なんだこれは、何百本さしてるんだおれは。今この世界がDVDプレイヤーで、傷の入ったディスクの読み取りを何度もしているのではないか。
徳島でJリーグの優勝が決まる。一方東京でつまようじが数百本ささる
よかったなあと優勝の瞬間は涙、涙
涙で紙管にささったつまようじが見えない……一体これはどういう状況なんだろう
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作業二日目の深夜、棒16本が完成。「……以下同文」と証書を渡しつづける校長のような作業である。きつかったが書くこともない
棒につなげていく。棒がまとめて回るようにベアリングというパーツをつけた。この部品、江戸時代なら神様扱いされるような働きっぷり。ハンズの相談コーナーが江戸時代にタイムスリップする物語を読みたい

さしたつまようじは約1700本

二日目の晩にようやく16本のレインスティックができた。450本入りのつまようじをほぼ4箱使った。1700本。毎食後つまようじを使うおっさんの一年間が詰まっている。ああ、急に泣けなくなってきた。

さてこれを一人で鳴らせるように1本の棒につないでいく。つなぎ方も最初は失敗して時間を浪費したが書くこともないので記憶を消すことにした。今では宇宙人にさらわれたことになっている。

宇宙人にさらわれたあと地道に棒につないで明け方の6時。ついに出来上がった。
二日目の夜が空けるころ、ついに完成した
完成した大雨レインスティック。棒を回転させれば雨は大量に、しかも永遠に振り続ける
レインスティックは本来雨乞いの儀式に使われるらしいが、もはやこれは水害が起こりそうだ。
手で持ったところ。目をつぶってみると……土砂降りっぽくないだろうか?

思ったよりもいいものができた

鳴る、鳴る、鳴る。鳴りまくるうえに永久に鳴る。

ちょっとした思いつきで作って(大雨に……なりませんでした)みたいなことになるかなと思ってたら意外といいものができてしまった。あの一瞬の雨音が大音量で、しかも永遠につづくのである。わはは、指一本で大雨だ。

どうしよう。これは楽器メーカーの人が目を丸くするどころではないのではないか。神無月の出雲大社からお呼び出しがかかるのではないか。

しかしこれ、作った本人が思ってるだけかもしれない。

それではできあがった直後の午前6時、達成感にまかせて就寝中の家族に聴かせた様子をごらんいただこう。
はたして雨の音にきこえるのか? 寝ている家族にきかせてみよう
4歳児くらいなら十分だませた。そうだ、これは神様の道具だよ。そして神様はわたしだよ
おすすめはこの状態。下にもぐりこんでジャラジャラいわせると
熱帯地方でスコールにうたれているような音がする……これが海外か
「ここは寝ちゃだめだよ」「草っぱら行こう」父の尊厳を代償に

これが神の気分か

レインスティック1本の癒やしの16倍にもなる大いなる癒やし。ビッグ癒やしがやってきた。

ちょっと押してやって棒をまわすだけでいつでもどこでも大雨気分に……これが神の視点か。なんてパチンコ屋っぽいんだ。

気を抜くといらなくなるのでこれから私はずっと気を張って生きていく

たしかに失恋した夜程度だとレインスティックでいいだろう。しかしそれくらいでは足らない夜もある。

密室で殺人が行われるような夜、村を襲う野武士の集団に7人の侍が立ち上がる夜、方舟に乗って逃げ出したいような夜。そんな夜はこの大雨の音をきいていたい。

……と思ったが、さっそく完成から一日経ってみるとすでに無用さがただよっている。

1本でも無用なものは16本あっても無用なのか。いや、無用といってしまうにはあの労力はあまりにも惜しい。いつか使うから今はただ置いているだけだ。方舟に乗って逃げ出すその日まで。これはわが家に置いておこう。
置いてみる。一瞬で邪魔なものとなった
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