日本経済の右肩上がりは終わったのか - 否、力強く絶倫的に続いている
GDPを2倍にすれば、所得も税収も2倍になり、年金財源を再び安定化させることができる。日本の社会保障を「中福祉」の水準で健全に維持するためには、GDPを現在の2倍の規模の1千兆円にする必要がある。その展望をコンセンサスにしたい。このアジェンダを国民的な合意と確信にでき、目標に設定できれば、若者も高齢者も希望を取り戻すことができる。未来に夢と希望のある日本にすることができる。社会に活力を取り戻すことができる。現在のGDP500兆円という規模は25年前の日本経済と変わらぬ大きさであり、当時の欧米諸国のGDPは現在の2分の1のサイズでしかない。所得も税収も25年前の水準に戻れと言われたら、欧米の人々は卒倒してしまうだろう。今、年金問題が喧しく、参院選の争点になろうとしているけれど、誰一人として、GDPを2倍にして公的年金基金の収支を均衡させる問題解決を言わない。エコノミクスの正論の解決策を言わない。そのことが不思議でならない。社会保障の給付を減らすことと、消費税を上げることしか言わない。節約してカネを貯めて株の博打で儲けろとしか言わない。この国に経済学者はいないのだろうか。
GDPを2倍の1千兆円にすることは可能だ。われわれの経済社会は20年間長い病気に陥っているのであり、病気を治すことで欧米諸国と同じ健康な身体を取り戻すことができる。「病は気から」という諺がある。われわれの経済がこれほど衰弱したのは、新自由主義による制度改悪(竹中政策)が直接の原因だけれども、ネオリベ政策の遂行を左から補完したイデオロギーがあり、脱構築主義の言説の所在を忘れてはいけない。曰く、右肩上がりの時代は終わった、欲しいモノは何もない、経済成長を追い求めてはいけない、経済成長は悪だ、等々。これらの呪文のフレーズを、田中優子、小熊英二、上野千鶴子、湯浅誠、本田由紀、内田樹らが刷り込み続け、国民がそれを信じ込んだ結果、経済成長して収入を増やすという政策方向性は否定され拒絶され排斥された。国民の選択肢でなくなり、それを言う政党はなくなった。われわれは脱構築のイデオロギーに精神を冒された結果、新自由主義の政策(自滅政策)を素直に受け入れたのである。自己責任とトリクルダウンの言説を肯定せざるを得なくなり、「広く薄く」を納得してしまったのだ。左翼学者の罪は大きい。
どうやってGDPを2倍にするか具体策を述べる前に、まず、それがなぜ日本で可能なのかを説明する必要があり、経済論理的に納得してもらわないといけないだろう。始めに下の図を見ていただきたい。見慣れたグラフであるが、これは重要な政策根拠となる指標であり、この意味を本質的に理解しなくてはいけない。右肩上がりの運動は終わっていない。エネルギッシュに、エンスージアスティックに、絶倫的に、激しく獰猛に続いている。
左翼学者は、二言目には「右肩上がりの時代は終わった」とヒステリックに言うが、勢いよく右肩上がりを続けている日本経済の客観的事実がある。今年も9月上旬に内部留保の発表がある。昨年の発表では累積で446兆円となり、前年より40兆円(約10%)も増えて積み上がった。左翼学者と左翼にはよく考えてもらいたいが、この1年間で40兆円増えたところの経済価値は誰が生産したのか。資本主義社会での価値の生産は誰がするのか。自然に増殖するものなのか。左翼の常識では、労働者が汗水垂らして生産して、それを資本家が搾取して特別剰余価値の資本会計に積み上げたのではなかったか。G-W・・W'-G'、G'=G+ΔGの定式は、大学の教養課程の経済学で教わる資本論の基礎知識だが、まさか左翼は忘れてはいないだろう。W(Ware)は生産過程でP(Produktionsmittel)とA(Arbeitskraft)の二要素に分解される。Pは不変資本(C)であり、Aは可変資本(V)である。Pは生産過程で自ら価値を増殖すること能わず、Aのみが価値を増殖させられる。ΔGを剰余価値と呼び、マルクスはそれを不払労働部分だと指摘、その論理を通じて本来労働者の所有だと主張した。
われわれの経済は、かくしてインビジブルな領域で右肩上がりの成長を逞しく続けているのであり、右肩上がりの運動は終わってないのだ。日本の労働者と中小企業は汗水垂らして価値の生産を続けていて、さりながら、その剰余価値は分配されずに資本会計に回収され、内部留保と配当金とケイマン貯蓄に回っているのである。日本のGDPは538兆円。衰退に衰退を続け、生活水準の引き下げに次ぐ引き下げを続け、J.PRESS や NEWYORKER を売る百貨店が町から消え、ユニクロを着て鍋をすするありがたい貧困生活をわれわれは享受させていただいている。けれども一方で、25年間で他の国と同様のGDP2倍の成長を遂げたような、そういう仮想的な経済感覚を感じさせてくれる一帯が日本にもあり、それは、新しい高層ビルが林立してバブル再開発の熱にわく東京都心である。なるほどと思う。庶民の生活実感としては、日本経済は萎縮し零落して20年前の半分の活動体でしかない。地方に暮らす多くの国民の感覚がそうだろう。それが500兆円のサイズを維持して均衡できているのは、東京での猛烈な資本の集中集積があるからで、グローバル経済と一体化した資本主義経済の活動があるからだ。
東京の街を歩くと、この国は他の国と同じく25年間でGDPを倍増させているように見える。外国から訪れた観光客は、東京を見てそう思うはずで、日本も他の欧米諸国と同じ変化発展を遂げているように映るに違いない。東京の街は逞しく右肩上がりの成長を遂げている。日本資本主義の剰余価値がここだけ集中的に投下され、新海誠が憧れチックに美しくアニメで描くところの、25年前からGDPが2倍になった華麗な姿に変わっている。25年前と比較して2倍に増えた富を体感させる現実空間がある。富裕層経済がある。
by yoniumuhibi
| 2019-06-17 23:30
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Comments(2)
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愛知
at 2019-06-18 02:33
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「吸引力の変わらないただひとつの掃除機」のジェームズ・ダイソン。エンジニア育成のため、授業料なしで、給与年間250万円支給という大学を英国に設立。ビジネスインサイダーのインタビュー記事ですが、彼は日本からの学生も受け入れると。かたや日本では、政権ベッタリのスクールビジネスで、ほとんど存在意義のないような獣医学部を新設。日本企業も、内部留保ばかり溜め込まずに、経済成長のため学生に投資を。左翼学者は、二言目には「右肩上がりの時代は終わった」とヒステリックに―――また選挙で負けたいのかしらと呆れます。正鵠を射た発信に深謝。
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nyckingyo2 at 2019-06-18 04:33
ご無沙汰しています、当方ことしも性懲りなく、バーニー・サンダースのオッカケがはじめていますが、かれの経済参謀は、ことしも財政拡大理論“MMT"の提唱者≒ケルトン教授です。米民主の若き星、オカシオ=コルテスのいう、国民皆医療保険や温暖化対策「グリーン・ニューディール」の財源確保する理論的裏付けとして、MMTが浮上。逆説をたどれば、バーニー陣営とケルトンの今後の戦略を見ていれば、山本太郎の言う消費税5% or ゼロの道筋が見えてくるわけですね。現在ケルトンとMMT(現代貨幣理論)を勉強中ですが、ごく基本的な質問があります。CBSのケルトンのヴィデオ https://cnb.cx/2ILUIVg を見ていたら、4分ごろに日本とアメリカのGDPの推移図が出てきて、日本は1980から2016までにGDPが236%増加したと書かれています。アメリカも日本を見倣ないと、というわけですが、どういうことでしょう。80年代の高度成長は理解できるのですが、1995から2016までもGDP伸びていたことになっているのはどういうわけでしょう。基本的な問題を把握していないようで、申しわけありません。
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