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自由と民主主義を考えるための「世に倦む」選書15冊 - 対案はこれだぁ

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自由と民主主義を考えるための「世に倦む」選書15冊 - 対案はこれだぁ_c0315619_1824010.jpg対案の選書として、以上の15作品を推薦したい。 ①『君たちはどう生きるか』については、前回の記事で詳しく説明した。丸山真男を読むなら、②『現代政治の思想と行動』が必読書である。日本で自由と民主主義を考える者にとって、これがマストの本であり、この一冊だけでよいと言い切ってもよい。ここに収められた論文を、特に第1部と第3部の論文集を繰り返し何度も読んで欲しいし、実際、日本で政治を考える者は死ぬまでそうすることになる。日本の政治学とは丸山真男の学問のことだ。他に続く政治学者がいない。戦後民主主義の思想とは何か、一冊挙げよと問われれば、未来社のこの本が文句なく代表に上がる。戦後日本の至高の書。③の『日本の思想』もマストだ。この本は、60年安保の翌年に出版。日本の思想を考える上での入門書であり、日本の思想について何か研究して書く人間は、必ずこれを読んでいる。「タコツボ型」とか「ササラ型」はこれが原典。所収されている「であることとすること」は、高校の現代国語の教科書にも採用。海外のアカデミーでの日本研究、日本思想研究において、論文「日本の思想」は長く演習テキストとして使われ、この原文を読みながら学生は日本語を学んだ(ヴォルフガング・シャモニの証言)。②の中の「超国家主義の論理と心理」とか、③の「日本の思想」は、初めて読む者にはデジャブ体験をする文章で、ビートルズの曲を初めて聴いたときと同じように、これがあれだったのかと発見と邂逅の感動を覚えることだろう。

自由と民主主義を考えるための「世に倦む」選書15冊 - 対案はこれだぁ_c0315619_18241347.jpg④のシロタの「1945年のクリスマス」。SEALDs選書の中にこれが入ってないことに驚かされた。SEALDs選書のリストの査閲と承認には、中野晃一と小熊英二が関与していることは明白だと思われるが、二人の意識の中で日本国憲法の意味がどれだけ軽く低いかが頷ける一事だろう。日本国憲法を知るには、芦部信喜の『憲法』のような大学の憲法学(憲法解釈)の講義テキストを読むのではなくて、日本国憲法の誕生と成立の歴史を知らなくてはいけない。この本は、条文起草に直接関わったシロタによるドキュメンタリーであり、彼女の代表的遺作である。日本国憲法が、自ら産声を上げた瞬間が生々しく証言され、日本国憲法の思想とは何かを知ることができる。皇后陛下も読んで感動された。特に、1946年2月4日から12日までの9日間の草案作成過程の刻一刻を描いた章は圧巻だ。日本で自由と民主主義を考えようという学生が、シロタのこの一冊を落とすことは絶対にあってはいけない。⑤のダワーの『敗北を抱きしめて』も重要で必須の書で、敢えてその意義を説く必要もないが、どうしてSEALDs選書の15冊から漏れたのか不思議である。今夏の反安保・反安倍の運動を振り返ったとき、5月2日のTBS報道特集でのダワーの言葉は本当に影響が大きかった。われわれの心を揺り動かした。残念なのは、今の日本のアカデミーにダワーのような渾身の言葉を発せられる知識人がいないことだ。

自由と民主主義を考えるための「世に倦む」選書15冊 - 対案はこれだぁ_c0315619_18242826.jpg⑥の『東京裁判』(朝日文庫)は、今は絶版品切れになっていて入手が難しい。どうしようかと悩んだけれど、やはり、東京裁判について知識を持ってもらいたいし、SEALDsの皆さんもその関心と必要の動機は同じだろうと想像する。岩波ブックレットでは薄すぎ、情報量があまりに少なすぎる。市販の本で十分な知識を正しく得られるものがない。amazonの検索で引っ掛かる最近のものは、すべて有害で悪質な右翼本の東京裁判論ばかりである。河出書房新社の「図説」本は、写真は多いが内容的には不十分だ。推薦する中古本は1983年刊で、その点で信頼できる東京裁判のドキュメンタリーとして合格点を与えられるものだろう。2年半の東京裁判で何が審理されたのか、市ヶ谷の法廷でどういう戦争犯罪が具体的に告発されたのか、事実の概要を知らなくてはならない。東京裁判のザッヘに即くこと。日本で自由と民主主義と考えるということは、とりもなおさず、戦争と戦後の歴史を知るということだ。SEALDs選書にはその問題意識が軽く、最近の売れ筋(売れっ子商業学者)ばかりがゴマスリ的に無造作に並べられていて残念に思う。⑦の吉田裕の『昭和天皇の終戦史』は、前にブログで紹介した。最近の本だが、これは良書であり、衝撃的でもあり、ぜひ読んでいただきたい。1945年から1946年の日本の政治で何が起きていたのか。豊下楢彦の『安保条約の成立』や山田朗の『昭和天皇の戦争指導』などと併せて読んでいただきたい。

自由と民主主義を考えるための「世に倦む」選書15冊 - 対案はこれだぁ_c0315619_18244044.jpg⑧の中江兆民の『三酔人経綸問答』。明治時代の古い書物であり、文語調の文体なので現代人には読みにくいが、この古典はぜひ読んでいただきたい。理由は前にブログで説明したとおり。明治20年(1887年)、日清戦争の7年前、大日本帝国憲法発布の2年前、ここに憲法9条の源流がある。私はそのことを知らず、読んで初めて知って腰を抜かさんばかりに驚いた。ここに登場する洋学紳士が、これからの近代国家日本の国作りについて、非武装中立論を唱え、武力ではなく道理と信義と知力で立国し、国際社会の荒波を生き抜き、世界で地位を得る先進国になろうと提案している。憲法9条だ。前文だ。日本国憲法の日本だ。私の国だ。近代国家の出発点において、日本の知識人は非武装中立の理想国家をデザインし成功を考えていた。その意義と現実的可能性を言説化して確信していた。幕末明治の土佐は見事というほかない。この本は、題名と著者を高校時に暗記させられるが、教師たちは誰もこの本を読んでいなかった。だから、何が書いているかを生徒に教えられなかった。だけでなく、『三酔人経綸問答』が憲法9条の源流だと最初に言い挙げたのは、おそらく私が初めてではあるまいか。丸山真男による学生に向けての必読書というのが、実は全集の中には幾度も出てくる。その中に、必ずこの中江兆民の本があり、福沢諭吉を凌駕して繰り返し推薦されていたのだ。

自由と民主主義を考えるための「世に倦む」選書15冊 - 対案はこれだぁ_c0315619_1991769.jpgしかしながら、悪戯好きなのか、丸山真男がその理由を書いている記述はなく、どうして『三酔人経綸問答』を常に必読文献に入れるのか、読め読めと催促するのか、私はいつも首を捻っていた。丸山真男が読めと言うから、面倒くさい明治の文語体を我慢して読んでみたのである。あっと驚かされた。さすがに丸山真男だ。帝国主義が本格的に世界を覆う前の段階、日本が帝国主義列強に割って入る前の時点、大陸侵出に向かう前、そんな方向性ではなく別の可能性があり、別の道を歩むべきだと中江兆民が理想の針路を示していた。もっとも、兆民自身の政治的立場は三人の登場人物の中の南海先生のようで、すなわち、豪傑君と紳士君の二つの国家路線を整理する役だけで、どちらがいいとは判定せず、展望を出していない。結局、後の大陸浪人範疇である豪傑君の方向を薩長藩閥政府が選択、後の昭和の講座派(日本マルクス経済学)によって「軍事的=半封建的」と規定される資本主義の再生産構造(型)を採用、半島から満州を侵略して資源と市場を奪い、植民化して領土を拡大してゆくことになる。1945年に敗戦によって潰え、日本は軍事国家を放棄、中江兆民が理想を描いた原点に戻ることになった。その平和国家を憲法で体制にして70年続けた。今、その誓いを捨てて再び戦争を始めようとしているとき、維新から20年の半未開の日本において、非武装中立の国家論が唱えられ、その言論が少なからぬ人々を啓蒙していたことを、学生の皆さんは知っておいていただきたいと思う。

⑨から⑮については次回に。19日に講演する辺見庸にも、「基本15冊」を挙げてもらえたらありがたい。


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by yoniumuhibi | 2015-12-18 23:30 | Comments(3)
Commented by 半覚醒状態 at 2015-12-18 19:26 x
大変ありがたく感謝しています。私は理科系で政治・経済を選択していなかったのでいったいこの年になってどのように勉強したら良いのかと途方にくれていました。今回の本のなかで読んだことのあるのは、以前貴ブログで紹介していただいた昭和天皇についての岩波新書と古文好きだったからか大昔に読んだ『三酔人経論問答』だけ(笑)でした。高校の参考書を読んでみたのですが何とも物足りなく、歴史的流れを押さえつつ学ぶにはどうしたら良いかのご教示には大変感謝致します。いつもありがとうございます。
Commented by 研究者 at 2015-12-18 23:16 x
いつもありがとうございます。
私も理系、研究者です。
大学時代にこういった本を読みこんでいたら、と反省しています。
以前ご紹介いただいた、昭和天皇の終戦史のみ読みました。
正しく歴史を知るために、何を読めば良いのか悩んでおりましたが、
この15選は本当にありがたく思います。

5歳、1歳の息子たちがおりますが、彼らにも正しく歴史を学んでもらいたいと強く願います。そのために、まずは自分から勉強していきます。
本当にありがとうございました。
Commented by 芝ちゃん at 2015-12-20 16:29 x
85歳になる愛読者です。
最近の学者の著作は知りませんが、今回の選書15冊の著者を拝読し、懐かしさ一杯になります。
20年前の1995年に岩波書店が出版した「『世界』主要論文選(1946-1995)」を開きながら、ブログ主様がお選びの、大半のお名前が掲載されていますのに、感無量であります。
選書の書物とは違いますが、同じ著者の雑誌『世界』に論文が発表された当時、難解ながら、私は読んだ記憶があります。
吉野源三郎の『君たちはどう生きるのか』は岩波文庫で読みましたが、1946年の雑誌『世界』の初代編集長であったため、『世界』には論文を載せていません。
丸山真男は46年5月に「超国家主義の論理と心理」を書いていて、その後、何回も雑誌『世界』に論文を発表していますが、95年に編纂の『主要論文選』には、一人一編の制約から載っていません。
大塚久雄は46年12月「魔術からの解放」、日高六郎は76年9月「戦後史を考える」、樋口陽一は91年8月「『一国平和主義』でなく何を、なのか」があります。
これらの論文を再読し、私の知らないブログ主様『選書』の15冊を、余命のあるうち、読みたいものと念願しています。


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