ガザ地区との境界線沿いを走るイスラエル国防軍の戦車 Photo: Amir Levy / Getty Images

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レクスプレス(フランス)

レクスプレス(フランス)

Text by Thomas Mahler & Laetitia Strauch-Bonart

「新しい冷戦」がすでに始まっていると論じてきた歴史学者のニーアル・ファーガソンが、ますます不安定になる中東情勢やウクライナ戦争、米中関係などについて歴史家ならではの大局的な視点を仏誌「レクスプレス」に語る。


英国人の歴史家ニーアル・ファーガソンと1時間を共に過ごすと、まずは西側諸国に迫る脅威の数々を指摘され、おののくことになるだろう。その挑発的な言葉遣いに面白さを感じるのも間違いない。だが、彼の真骨頂は、歴史に立脚して遠くまで見通す強力な眼力だ。

米スタンフォード大学フーバー研究所の研究員でもあるファーガソンに中東情勢、米中冷戦、台湾、ウクライナ、トランプ復権の可能性など、地政学的な危機が連発する昨今の情勢について語ってもらった。その見解は、次々に固定観念を突き崩していく。

「新しい冷戦」が第三次世界大戦に発展するリスク


──2023年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃する1週間前、米国の国家安全保障を担当する大統領補佐官のジェイク・サリバンが「中東地域はこの20年で最も穏やかになっている」と発言していました。それに対し、あなたは2023年1月から中東で紛争勃発の可能性があると警鐘を鳴らしていました。どうしてそのような見方をしていたのですか。

私は中東の専門家ではないですが、中東情勢に詳しい優れた専門家たちから情報を得るようにはしています。その人たちが、中東情勢を不安定化させる要因がいくつもあると繰り返し教えてくれたのです。

まずイスラエルでは内政をめぐって国内で激しい対立が生じていたので、中東情勢に集中できる状態ではありませんでした。米国のバイデン政権もイランへの圧力を弱めていました。イランはイスラエルとサウジアラビアの接近を脅威だと認識していました。私の情報源は、こうした状況を踏まえ、2023年に中東情勢が暴発しかねないと伝えてくれていたのです。

加えて私は歴史家として歴史で繰り返されるあるパターンに気づきました。これは自著『大惨事の人類史』にも書きましたが、パンデミックのような大きな危機のあとには紛争が立て続けに起こることが多いのです。

コロナ禍後にウクライナで戦争が起きたので、さらにどこかで危機勃発があるのではないかと危惧していました。とりわけジェイク・サリバンなど、バイデン政権の要人が中東情勢にあまり目を配らなくなっていましたからね。


──世界では5年前から「新しい冷戦」が始まっているというご見解ですが、この新しい冷戦が第三次世界大戦に発展するリスクはどれくらいあるとお考えですか。

冷戦が起きるとき、そこには必ず世界大戦が勃発するリスクが潜んでいます。ジョージ・オーウェルの言葉を借りれば、冷戦は「平和ではない平和」だからです。英独の冷戦は1914年8月まで続き、その後、第一次世界大戦に発展しました。米ソの冷戦も、直接の衝突には至らなかったものの、20世紀後半に世界各地で紛争の勃発を招きました。
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