Photo: ArtMarie / Getty Images

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フィガロ(フランス)

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Text by Madeleine Meteyer

叱る、お願いする、約束する、罰を与える──何をやっても言うことを聞かない子供を前に、途方に暮れる親は世界中にいる。心理学や児童精神医学を専門とするアラン・カズディン教授は、そうした親に、子供が「思った通りに行動してくれる」方法を伝授しているという。そのメソッドについて、仏紙「フィガロ」が取材した。

「成果が出る手法」をまとめた育児書


3歳の子供が皿の上でエンドウ豆を潰し、それを入念に広げている。

「いい加減にしなさい。早く豆を食べなさい」

母親の注意は、これでもう三度目だ。それでも子供はむずかる。

「ちゃんと食べなさい。そうしないと……」

今度は父親が脅しの言葉を口にした。すると途端に子供は癇癪を起こし、わめき散らす。わめきたいのはこっちだと親は思うが、夕食の時間が台無しになってしまったことに変わりはない。

「イェール育児センター」のアラン・カズディンは、親たちからそんな話を毎日聞かされている。彼はイェール大学の心理学と児童精神医学の教授でもある。

カズディンのもとを訪ねる親たちは、「宿題をしなさい」、「妹にちょっかいを出すのをやめなさい」、「早く寝なさい」などと子供に言うのに、すっかり疲れ切ってしまった人たちだ。そんな親たちに、カズディンは数十年の研究成果を盛り込んだ子育てメソッドを教えている。

そのメソッドの特徴は、「先行事象」、「行動」、「結果」に着目するところだ。すでに複数の国に広まっており、子供たちが基本的な生活習慣を身に着けるのを助けているという。

「親御さんたちには、教育において最も重要な部分、つまり価値観を子供に伝えることに専念できるようにしてあげたいのです」

なぜ同じ言いつけを繰り返すと逆効果になるのか。なぜささやいたほうが子供は指示を聞いてくれるのか。カズディンの著書『毎日の育児に使えるツール一式』(未邦訳)には、そういったことがわかりやすく書かれている。

行動主義心理学にもとづく一連のアドバイスのなかには、突飛なものもあれば、道徳に反しているように思えるものもある。だが、カズディンに言わせれば、そういったアドバイスも「成果をもたらす」ものなのだという。

世に出ている育児書の3分の2とは異なり、カズディンの本は読んでいて面白い。読者の感心を買おうとせず、教育に関するお説教も出てこない。成果が出る技法を書くことが彼のこだわりなのだ。


絶対に無意味なのは「お説教」


──「イェール育児センター」は研究施設であると同時に、子育てに悩む親たちの相談先にもなっています。これまでに無数の親が訪れ、「子供が言うことをきかない」とか、「体を洗うのを嫌がる」といった相談をしてきました。どうして親たちは、相談しなければならないと思うほど、子供が手に負えないと感じているのでしょうか。

いまの親は、前の世代に比べて得ている情報は多いのですが、得ているサポートが少ないのです。妊娠中に何を食べると胎児の成長にいいのかはわかっているのに、祖父母と遠く離れて暮らしているので、彼らの助けを借りられない事情などがあります。

また、キャリアを築きはじめてから子供を作るので、母親の大半が働きながら子育てをします。これはみなさんも充分にご承知のことでしょう。

親は育児と仕事の両方に気を配らなければならず、ストレスを抱えている場合が多いのです。つい我慢ができずに、子供に不適切な命令をしてしまい、困った状況に陥ったりします。そんなわけですから、子供が手に負えないと感じる親が出てくるのは、むしろ当然のことです。

──ひとりで着替えるように言っても、それを3日も続けられない子供がいるとします。親は罰や命令、約束、お願いを駆使しますが、それでも子供は変わりません。そんな状況でも、あなたが親たちに教えているメソッドに従って「先行事象」、「行動」、「結果」に注意を払えば、子供に基本的な生活習慣を習得させられるのですか。

私が親に教えているメソッドは、別に新しいものではありません。これまでにも兵士やアスリート、アルコール依存症患者などが、不適切な行動から抜け出すために使われています。その効果は実証済みです。

私は数年前、このメソッドを子供にも使えるのかどうかを研究してほしいと頼まれたのです。そこで私のチームは、臨床と併行して研究を始めました。

子供向けにメソッドを練り上げるのは喫緊の課題でした。というのも、私たちの初期の患者は、かなり深刻な問題を抱えた子供たちだったからです。家出を繰り返したり、ペットを殺したりしているような子供たちです。インゲン豆を食べない子供などの相談にも対応するようになったのは、もっと後のことでした。

どんな場合でも、このメソッドの狙いは、子供から望ましい行動を引き出すこと。そして望ましい行動とは、たとえば宿題を夕飯の前に終わらせるといったことです。

このメソッドは段階を追って進めます。

第一の段階は「先行事象」です。どんなときに子供に指示を与えるのがいいのか。親はそこを意識しなければなりません。いつ言うのか。どんな声音を使うのか。研究では、指示をささやいたほうが、大声で命令するよりも、指示が実行される確率が高くなることが示されています。

次の段階は「行動」です。子供からどんな行動を引き出したいのか。親はそれを明確に認識すべきです。より正確に言うならば、「やってほしくない行動」の反対の「やってほしい行動」が何なのかを認識しなければなりません。
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