自分で厳選したものを詰め込んだ核サバイバルバッグを担いだセルヒー・ドミトラック  Photo by Anastasia Vlasova for The Washington Post

自分で厳選したものを詰め込んだ核サバイバルバッグを担いだセルヒー・ドミトラック  Photo by Anastasia Vlasova for The Washington Post

画像ギャラリー
ワシントン・ポスト(米国)

ワシントン・ポスト(米国)

Text by Liz Sly and Kostiantyn Khudov

ウクライナの首都キーウの住民のなかには、街がロシアの核爆弾の標的になった時のために、核リュックサックを準備している人たちがいる。その中には何を詰め込んでいるのか、そして彼らのサバイバルプランとは──。

5歳の子供まで核リュックを背負って外出


ウクライナの首都キーウ(キエフ)に核爆弾が落とされた場合、セルヒー・ドミトラックが最も恐れているのは、爆風を逃れても飢えや渇き、寒さで死んでしまうことだ。そこで彼は、1週間分の食料とサバイバル用品を詰め込んだ、本人曰く「核リュックサック」を準備している。

パブロ・フクも同じような持ち出し袋を用意している。自宅と職場の地下室には装備を施し、郊外に発電機や食料、燃料を備蓄するための家を借りた。彼の心配は、この脅威を甘く見ている友人や親戚が、同様の予防策をとらなかったために命を落としてしまうことだ。

ナタリア・スリマは、5歳の息子ミーシャと離れ離れになることだけが心配で、サイレンが鳴ったら大人について避難所に行くことが大事だと教え込んでいる。息子専用の核リュックには、トランスフォーマーのおもちゃ、おやつ、お気に入りの本『竜と暮らした少年』が詰め込んであり、これを背負わずに外出させないようにしている。

「こんなことをしなければならないなんて信じられません。21世紀にもなって」とスリマは嘆く。

ナタリア・スリマと5歳の息子ミーシャ Photo by Anastasia Vlasova for The Washington Post


息子のためにスリマが用意した核リュックの中身  Photo by Anastasia Vlasova for The Washington Post


キーウ住民は程度の差こそあれ、自分の住む街が核爆弾の標的になるかもしれないという、かつては考えられなかった可能性に思いをめぐらせている。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナで勝利するために「必要なすべての手段」を使う用意があると不吉なことを言い、ロシアのトーク番組では核兵器の使用を擁護する話題が頻繁に取り上げられている。キーウの人々が憂慮するのも無理はない。

軍事専門家は核攻撃の可能性は低いとみており、米国防総省もロシアがその準備を進めている証拠はないとの見方を示している。2022年12月、プーチンはロシアのジャーナリストに対し、ロシアは核兵器に関して「正気を失った」わけではなく、その使用がもたらす深刻な影響を認識していると語っており、脅威はさらに後退したともいえる。

とはいえプーチンは、ロシアが「他のどの核保有国よりも高度かつ近代的な手段を持っていることは明らかだ」と語り、核兵器を使用する可能性を排除しているわけではない。「そうした兵器をカミソリのように振り回しながら世界を駆け回るつもりはない」と言っているだけだ。

そんなロシアが制圧に乗り出した国の首都キーウの多くの住民にとって、そのリスクは少なくとも不測の事態への備えを正当化するには充分だ。ウクライナ人の多くは、ロシアが攻めてくるとは思ってもいなかったし、戦争が勃発したときは呆然(ぼうぜん)としたとドミトラックは言う。

「いまは誰もが核戦争など起きないと思っています。でもロシアはやりたいならやるでしょう。備えはあるに越したことはありません」


とっさの判断が生死を分ける


キーウにはすでに、ソ連が冷戦時代に核シェルターを兼ねて建設した地下鉄網があり、地下約106メートルにある世界最深の地下鉄駅「アルセナーリナ駅」もその一部だ。

キーウ州のオレクシイ・クレバ知事によると、市外に住む人々のためにさらに425のシェルターが準備されており、食料や水、無線機器が備えられるという。

だが、シェルターには全員を収容するスペースがないことをクレバ知事は認めている。その上、放射性降下物から中にいる人を守るため、爆発予想時刻の5分前にドアを閉めることになるという。

それ以外の人たちに対しては、生き残るために取るべき手段を州政府が次のように詳細にアドバイスしている。
残り: 1731文字 / 全文 : 3726文字
無料会員になると記事のつづきが読めます。

さらに有料会員になると、すべての記事が読み放題!

無料登録で「特典」を利用しよう

無料会員に登録すると、毎月2本まで

プレミアム会員限定記事が読めます。

プレミアム会員について詳しく見る

オススメのプレミアム記事

読者のコメント 1
コメントを投稿するには会員登録が必要です。
クーリエのプレミアム会員になろう クーリエのプレミアム会員になろう
ワシントン・ポスト(米国)

ワシントン・ポスト(米国)

おすすめの記事

loading

表示するデータはありません。

注目の特集はこちら

loading
    • {{ item.type }}
    • UPDATE

    {{ item.title }}

    {{ item.update_date }}更新 [{{ item.count }}記事]

表示するデータはありません。