ロサンゼルス南部で野菜、花、果物を育てる“ギャングスタ園芸家”ロン・フィンリーPhoto: Todd Williamson / Getty Images for Airbnb

ロサンゼルス南部で野菜、花、果物を育てる“ギャングスタ園芸家”ロン・フィンリー
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ガーディアン(英国)

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Text by Phoebe Weston

黒人やラティーノが多く住む米ロサンゼルス、サウスセントラル地区に暮らす“ギャングスタ園芸家”ロン・フィンリーは、10年ほど前から道路の脇や空き地などでゲリラ的に野菜を育ててきた。

最初は「農薬まみれじゃないリンゴ1個買うのに45分も車を走らせなきゃならない」ことに対する彼なりの抗議行動だったが、いまではその活動はロサンゼルス中に広がり、数十のコミュニティ菜園が作られるまでになった。

英紙「ガーディアン」が取材した。

「俺は菜園に夢中になんだ」と、“ギャングスタ園芸家”として世界で知られるロン・フィンリーは言う。「朝9時に家を出て、気がついたら午後7時だ。畑仕事をしてると何もかも忘れる。みんな庭を耕すべきだ」

手入れの行き届いたバラを育てるイギリスの園芸家なら、彼の気持ちがわかるかもしれない。だが、フィンリーが園芸をするのは、かわいい花を咲かせるためではなく、人間を育てるためだ。

植物を植えることは、彼独特の抗議のかたちであり、美しい草木や野菜でいっぱいになった菜園は、その副産物にすぎない。

ほとんどの人にとって、こんなことが抗議になるのは驚きだろう。だがフィンリーが住んでいるのは、彼自身が“フード・プリズン”(食べ物監獄)と呼ぶロサンゼルス、サウスセントラル地区だ。黒人とラティーノが圧倒的に多く、酒屋、空き地、ドライブスルーやドライブバイ(車上からの銃撃)しかない地域だ。

気候から考えるとアメリカの野菜生産地になってもおかしくない土地なのに、多くの住民は“自家栽培の農産物”というコンセプトなど知るよしもない。

「園芸は最大の癒しであり挑戦なんだ」


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウン以降、サバイバルのために園芸を始める人が増え、世界中の種や苗が品切れとなった。買いだめが起き、ニンジンやズッキーニの種がトイレットペーパーのように棚から消えた。生きたニワトリまでもが急に売り上げを伸ばし、“ていねいな暮らし”がふたたび流行しはじめた。

多くの人にとって自給自足は夢のまた夢だ。だが、ロックダウンが始まってからは、裏庭やバルコニーにつぎつぎと小さな菜園がつくられていった。

フィンリーは言う。「園芸は誰にでもできる最大の癒しであり、挑戦なんだ……菜園にはたくさんの学びがある。自分を育て、めんどうをみるってことを覚え、どんなもんでもすぐに手に入るわけじゃねえってことを学ぶんだ」

彼が最初に勇気ある行動に出たのは2010年、自分の家と道路の間の細長い土地を掘り返し、カボチャやケール、ヒマワリなどを植えたときだった。

「農薬まみれじゃないリンゴ1個を買うのに、45分も車を走らせなきゃならねえのは、もううんざりだったんだ。だから家の前に菜園を作った」と彼は言う。

歩道と縁石の間に何か植えるのは違法だと役人に言われたとき、彼は法律のほうを変えさせた。

10年後のいま、フィンリーはロサンゼルスの数十ヵ所の空き地にコミュニティ菜園を作るのを手伝っている。彼はあちこち旅行して、自分の仕事について話してきた。

彼がおこなったTEDトークは350万人もの人々が視聴した。ニックネームの“ギャングスタ園芸家”はTEDトークでの発言が元になっている。「みんな、ギャングスタ園芸家になろう。園芸をしていないなら、おまえはギャングスタじゃねえ」



サウスセントラルのコミュニティ菜園を取り上げた2015年のドキュメンタリー番組「Can You Dig This」で、フィンリーは語っている。

「ロサンゼルスでできたことは世界中でできる。農園ひとつでみんなの人生を変えられるし、コミュニティの崩壊を止められる」


アメリカで黒人として生きるとは…


フィンリーの菜園は21×12メートルあり、日々の食事を支えるのに十分な広さだ。3月11日に自主隔離を始めてから家を離れたのはたった1度、魚を買いに出たときだけだった。
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