バチカンのサンピエトロ大聖堂で執りおこなわれた復活祭(イースター)ミサ中継を見守る。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより会衆なしのミサとなった(2020年4月12日)Photo: Florian Gaertner / Photothek / Getty Images

バチカンのサンピエトロ大聖堂で執りおこなわれた復活祭(イースター)ミサ中継を見守る。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより会衆なしのミサとなった(2020年4月12日)
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クーリエ・ジャポン

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Text by Pope Francis

ローマ・カトリック教会トップの教皇フランシスコが、イースター(復活祭)を迎えた4月12日の日曜日、南米の民衆運動家たちに宛てた手紙が話題になっている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、社会の周縁に置かれた人々が最も大きな打撃を受けていることについて、現状を深刻に受け止めつつ、サポート役となっている無名の運動家たちを熱く励ます──そんなメッセージを緊急全訳でお届けする。

民衆運動・組織のわが兄弟姉妹へ

親愛なる友よ

以前の会合のことをよく思い出しています。バチカンで2度、ボリビアのサンタ・クルスで1度、皆さんにお会いしたときのことです。

このときの“お土産”に、いまも心温められていることを皆さんにぜひお伝えしたい。このお土産のおかげで、皆さんをより身近に感じ、そのときのたくさんの対話を思い返しています。その対話から生まれ、具体化し、現実となった美しきプロジェクトすべてのことを考えています。

いま、このパンデミックのさなかで、皆さんのことを特別に思い、また皆さんに対する私の親近感を伝えたいと願っています。

大いなる不安と困難の日々にあって、私たちの経験しているパンデミックを戦争にたとえて語る人も多くいます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との格闘がひとつの戦争なのだとすれば、皆さんは真に見えざる軍団であり、最も危険な前線で戦っていることになります。ひとりでは誰も自分を救えないときに活力となる、連帯と希望と共同体精神だけを武器とする軍団です。

会合でもお伝えしたように、私にとって皆さんは社会的詩人です。隅に追いやられた人々を苦しめている最も切迫した問題に対して、皆さん自身もまた生活する見放された周縁から、見事な解決策を生み出しているためです。

皆さんが受けるべき正当な評価を、ほぼまったく受けていないことも知っています。体制にとって皆さんは、真に見えざる存在だからです。

市場の解決策は周縁まで届かず、国家の保護もほぼ見られない。また一方で、皆さんには国家機能の代わりとなる資源もない。

共同体を組織化し、慈善活動を超えて動こうとすれば、疑いの目で見られる。働きを断念して経済権力の食卓からこぼれ落ちるパン屑に与る誘惑に屈したりすることなく、自分たちの権利を主張すれば、疑いの目で見られる。

絶えざる不平等を目の当たりにし、持てる側が既得権益を保つことの言い訳すらまったくないとき、怒りと無力さを感じてばかりいる。にもかかわらず、諦めて文句を言うに任せることもない。腕まくりして、家族、共同体、公益のために働き続けている。

皆さんの粘り強さに、私は大いに助けられ、奮い立たされ、教えられています。

そうした皆さん、とくに炊き出しでパンを何倍にも増やしている女性たちのことを思います──彼女たちは、タマネギ2個と米1袋を美味しいシチューに変えて、何百人もの子供に食べさせているのです(訳注:福音書に描かれるイエスの「パンと魚の奇跡」が暗示されている)。

病気の方のことを思います。高齢の方のことを思います。ニュースにも出てこない人たちです。同じように目立たない、小規模農家とその家族たちのことも思います。自然を壊すことなく、貯め込むことなく、人々の必要に付け込むこともなく、一生懸命働いて体に良い食べ物を生産している人たちです。

私たちの天の父が、皆さんを見守り、大事にし、称賛し、そしてその献身を支えておられることを知っていただきたいのです。

家にいろというのが、狭いボロ屋暮らしの人々、そもそも家のない人々にとって、どんなに厳しいことか! 移民、自由を奪われた人々、依存症のリハビリをしている人々にとって、どんなに辛いことか。

皆さんはその現場で彼らと肩を寄せあい、その辛さを和らげる手伝いをしています。そんな皆さんを心から祝福し、感謝を申し上げます。

この危機に、また人類の直面するその他の深刻な問題に取り組むためには、国家中心であろうと市場主導であろうと、テクノクラティック(技術官僚主義的)な枠組みでは不充分だと、諸政府に理解してもらうこと──それが私の望みです。

これまで以上にいま、個人、共同体、人民が中心に据えられ、癒やし、労り、分かちあうために、まとまるべきです。


皆さんがグローバリゼーションの恩恵に与っていないことを、私は知っています。皆さんは、あまりにも多くの良心を麻痺させる薄っぺらい快楽を享受してもいないのに、それが生み出す害にずっと苦しめられてきました。

すべての人を苦しませる災難が、皆さんの上には倍になって襲いかかります。

皆さんの多くはその日暮らしで、身を守ってくれる法的保証の類いも何もない。露天商、リサイクル業者、大道芸人、小規模農家、建設作業員、裁縫師、さまざまな分野の介護者。非正規で、フリーランスまたは草の根レベルの経済活動をしている人、この難局を乗り切るだけの安定収入のない人……そしてこのロックダウンを持ちこたえられない人。

これは、ユニバーサル・ベーシック・ウェイジ(賃金)(※)を検討すべきときかもしれません。それが、皆さんの遂行する崇高で、不可欠な職務を認め、尊ぶことになるでしょう。そしてこれによって、権利のない労働者をいなくさせる──という、人間的でありキリスト教的でもある理想が保証され、具体的に実現されるでしょう。


皆さんにはさらに、「パンデミック後の生活」についてもぜひ検討をお願いします。この嵐は過ぎ去るでしょうが、その深刻な影響はすでに実感されてきているからです。
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Translation by Yuki Fukaya / COURRiER Japon

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