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田原総一朗がゼロから人工知能(AI)に挑む大型連載、2日連続更新! 今回は、人工知能の主力研究所を、名古屋ではなくシリコンバレーに設置したトヨタを取材。応じてくれたのは、グーグルから移ってその研究所「TRI(Toyota Research Institute)」の幹部となった、ジェームス・カフナー氏。白熱のインタビューは、「車」と「ロボット」の垣根を越えた、驚くべき未来像へとおよんでいく──。


──ギル・プラット氏が、トヨタに入った理由の一つとして、「毎日の総走行距離が、トヨタは抜群に長い」と言っています。トヨタはリアルデータが世界一多いということですね。いまはビッグデータの時代ですから、それがトヨタの最大の強みだとおっしゃっているようです。

「その通りだと思います。いま一番いいAIのソフトウェアだといわれているものは、すべてオープンソースです。テンソルフローやカフェ、トーチ、そしてプリファード・ネットワークスのチェイナーなどすべてです。

では、何が勝敗を決するかというと、持っているデータです。

データに関しては、3つの側面を見なければなりません。1つが『クオリティー(質)』、2つ目が『量』、そして3つ目が、どのくらいそのデータにばらつきが含まれているかという『多様性』です。2番目の『量』ということでは、トヨタが圧倒的に強い力を持っています」

──なるほど……。ところで、ヨーロッパやアメリカの自動車メーカーは、2020年前後に一般道での自動車運転を実現すると言っています。それに対してトヨタは「2020年代の前半」と言っていて、少し違いますね。これは安全性を重んじているためですか。

「その点ではSAE(Society of Automotive Engineers, Inc)の定義がありまして、自動運転というのは1から5までレベルがあって、5が『完全なる自動運転』とされているのです。

つまり、どのような道路でも完全にソフトが運転する。すべて人に置き換わるレベルが5なのですが、どのメーカーもまだ全然そこまではたどり着いていない。レベル4にもほど遠い段階です」

──ヨーロッパやアメリカは、レベル3ですか。

「いいえ、レベル2です」

──でもアメリカでは試験運転をやっているじゃないですか。

「人がシステムを監視していなくてはならないのは『2』です。レベル4というのは、交通条件、気象条件、道路条件など、いろいろ条件がついた中で自動運転ができるというレベルでして、一般道での試験運転はすでにトヨタもやっています。

ただ、問題は、どれだけの信頼性や安全性が担保できるかということで、現時点では自動運転のためのハードウェア、センサーなどがものすごく高くて、とても市場に出せる価格ではありません。もちろん、他の企業に負けないように、トヨタは市場に出せる自動運転車の開発を懸命にやっています」

──レベル5になるのは何年くらい後でしょう?

「それは大変難しい質問です。正直言って、わかりません。単純に私の予測で申し上げますと、私が死ぬ前には現実になるだろうと思います」

──トヨタと契約しているプリファード・ネットワークの西川徹社長も、一般道での自動運転が可能になるのは10年以上先だろうと言っています。

「私も、西川先生と同じように考えています」

カフナー氏は同志を得たように、ほっとした口調で言った。

トヨタがファンドを立ち上げるメリット


──ドイツのフォルクスワーゲンが、新経営計画を発表しました。それによると、自動車メーカーではなくモビリティー(移動手段)のサービス会社になることを明確に打ち出しています。車というハードをつくって利益を出すだけでなく、モビリティーサービスのプラットフォーマーになろうとしているのですが、このあたりはどうお考えですか?

「フォルクスワーゲンだけでなく、ほかのメーカーさんもみんな同じことを考えているはずです。TRIでも、当然モビリティサービスについては考えています」

──実は、経済評論家の冨山和彦氏が、トヨタはこの先Uberを、あるいは世界中のレンタカー会社を買収するのではないか、と指摘しています。

「この領域はいま、急速に1つのエコシステムのようなものができあがっているところです。すなわち、伝統的な車のメーカー、それからソフトの力を持っていろいろな技術やサービスを提供できる企業、そういったところが、1つの大きなエコシステムを急速につくろうとしているところだと思います。

Uberに関しては、すでに私どもはコネクティッドという会社をパートナーとして発表しています。ですが、それだけではなく世界のいろいろなところで技術やサービス面のイノベーターといわれる企業と組むことを考えています。

TRIは7月中旬にベンチャーファンドをつくることを発表しました。トヨタAIベンチャーズという名前です。設立の目的は、TRIやトヨタと、この領域で急速に発展しているイノベーターを投資でつなげることです。このファンドの立ち上げに関しては、私たちも非常にわくわくしています」

──イノベーターとつながる意味、メリットはどんな点ですか。

「このファンドの活動のメリットは、1つ目が投資、2つ目がパートナーシップ、3つ目が投資先の持っている技術にアクセスできることです。昨年すでにTRIは3つの会社に投資をし、パートナーシップを組んでいますが、その1つがイギリスのコンピュータビジョンの会社です」

──コンピュータビジョンとは?

「簡単に言うとAIカメラのようなものです。ロボットやダッシュボードのところにある車載カメラがドライバーの状態をモニターして、そのデータをとっていくような会社です。ひょっとしたら、そこからのデータをいろいろ共有できるかもしれない。そして、その業界の成長を促すことが狙いです」

──カフナーさんは、いまロボットと言われましたが、トヨタはロボットも開発しているようですね。ロボットをつくる目的は何ですか。

将来、Uberが世界的に普及すると、スマホで呼べばすぐに車が来るようになる。すると自家用車などが減って、車の需要が落ちる。そのためではないか、と思うのですが。

そのことはともかくとして、トヨタがロボットをつくるのは、トヨタの工場で使うためなのか、それとも、ほかの企業に売る、あるいは一般家庭も対象にしたロボットなのか。まず、このあたりからうかがいたい。

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PROFILE

Text by Soichiro Tahara 田原総一朗
ジャーナリスト。政治・経済・メディア・テクノロジー等、時代の最先端の問題をとらえ、活字と放送の両分野で精力的な評論活動を続けている。
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