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ゴールデンスランバー■2010年/ビスタサイズ/2時間19分
■制作プロダクション:スモーク 
監督:中村義洋
脚本:中村義洋、林 民夫、鈴木謙一 原作:伊坂幸太郎
撮影:小松高志 
照明:蒔苗友一郎
編集:阿部亙英 
音楽:斉藤和義 
出演:堺雅人、竹内結子、香川照之、吉岡秀隆、濱田岳
   劇団ひとり、渋川清彦、ソニン、貫地谷しほり、柄本明
   相武紗季、石丸謙二郎、大森南朋、竜雷太、木内みどり
   永島敏行、ベンガル、伊東四朗



 仙台市内に暮らすごく平凡な宅配便ドライバー・青柳は首
相の仙台凱旋パレード爆破事件に巻き込まれる。状況も判ら
ないまま、犯人として警察に追われる青柳は、ひたすら逃走
を続けるが…

 日本映画でもこういったサスペンスアクションが出来たこ
とが素直に嬉しくなる、全編痛快な一本。
 ごく普通の青年・青柳の人生は、あるときを境に大きく変
わる。汚名を着せられ困惑と疑心暗鬼の中、ただひたすら生
き抜くために逃走を続けることになるが、とにかく四方八方
上に下にと走り回る、そのストレートな活劇性が、がっしり
とドラマを背負って、観るものをぐいぐい引っ張っていく。
 友人の遺した「生きろ」という言葉が、やがて青柳の中で
「逃げ切ること=生きること」という命題となり、映画もそ
んな彼の闘いの軌跡を追い続ける。

 所謂ハリウッド的な映画であれば「真相を突き止めて真犯
人と対決、決着をつけてハッピーエンド」となっていく展開
をすっぱりと放棄。謎は謎のまま提示されるのみで作品の視
点は「事件の渦中にいる者に、その全容は伺い知れない」と
いうリアリティに基づき、徹頭徹尾「走り続ける」というア
クションに注力する事でドラマと映画そのものが会得したダ
イナミズム。
 いわゆる「映画のように」事は上手く運ばないというワザ
が再三繰り返され、こちら側の思い込みや予定調和的な展開
にことごとく背負い投げを喰らわせる展開の数々は極めて新
鮮。

 堺雅人のどこか飄々としたキャラクターはシリアスなスト
ーリーに丸みを与えていてユーモラス、対する竹内結子は爽
やかでプレーンな魅力で作品の楽しさに一役買っている。
 青柳は「釣りスタイルで街中に現れる」というファースト
ショットからして「非日常的」で、一方の晴子は誰に請われ
るでも大きな決意をするでもなく、常に「日常生活」の延長
線上で(さも当然のように)青柳を窮地から救うべく奔走す
るという対比の妙。そして、かつて恋人同士だったこの二人
が、リアルタイムの劇中では全く顔を合わせないという作劇
の面白さ。(過去の回想シーンが現在の二人を絶妙に繋ぎ、
なおかつ後々の展開の布石にもなっていくという巧さ)
 
 この二人を軸に、スッキリと整理された登場人物はどれも
感情移入しやすく、エッジがくっきりしていて印象的。学生
時代の友人・吉岡秀隆、劇団ひとりは、それぞれのキャラク
ターを一旦抑えて、別角度から役柄にアプローチをかけてい
てリアリティがあるし、対する警察関係者の面々は謀略の尖
兵なのか正義の妄信者なのか、その不明瞭な不気味さで暴走
する。冷血非情な捜査官・香川照之、死神のような石丸謙二
郎、青柳とは対を為す「微笑みの暗殺者」永島敏行の笑って
しまうほどの怖さはキャラクター的にも傑出。出番は少ない
ながら良い味を出しているソニン、青柳の父親役・伊東四朗
の名演技にも注目。
 そして、青柳を陰日向にバックアップする多士済々な面々。
自称・裏稼業の入院患者(柄本明)、かつて青柳が助けたこ
とのあるアイドル(貫地谷しほり)、お調子者だけどロック
魂あふれる元同僚(渋川清彦)、かつてのバイト先の昔気質
の大将(ベンガル)、そしてとても気さくな(!)連続通り
魔の少年(濱田岳)。
 一癖も二癖もあるキャラクターたちは、青柳のセリフ「僕
の最大の武器は信頼だ」に呼応するかのように彼のことを信
じるか信じないかの2択問題を、己の人生を賭けた勘から選
択してみせる。

 「やったか、やってないか」。劇中において、青柳はアイ
ドルとの関係をからかい半分・興味本位に再三問われる。ユ
ーモアの要素として反復されているこの問いは、しかし「本
当に彼は総理暗殺の犯人なのか」という問い、あるいはまた
登場人物全員が様々な形で自問自答する、「自分は今何をや
るべきなのか」という命題へと転化するものでもある。
 「何を信じるか」それはこの作品全体を包括するテーマで
あり、その答えが積算されて浮かび上がってくるもの、それ
が『ゴールデンスランバー』の世界だといえるだろう。

"かつてそこには故郷へと続く道が、我が家へと続く道があ
った…"
            The Beatles「Golden Slumbers」

 「黄金のまどろみ」が瞳を満たし、微笑がその目を覚ます
時、また新しい明日が始まる。過ぎてしまえば昨日の事なん
て夢の中の出来事と大差はない。その進む先にまた新しい我
が家へと続く道が出来ているはず。青柳の逃走劇は「生き続
けること」を新たな命題としてさらに続いていく。
 交わることのない道を、それぞれが歩み出した穏やかな世
界。違う地平を見つめながら、それでもみんな同じ空の下に
生きている。青柳を信じた者全員が胸に秘めたこの「共犯関
係」が、ラストの清々しさの由縁なのだろう。そして、この
映画を観た我々もまたその「共犯者」なのだ。

(2010.2.24 天動説:映画批評)



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