事実婚から「夫婦別姓で法律婚したい」ー陳情アクションに参加したAUさん&KHさんの場合

事実婚も面白そう、と当初はポジティブな気持ちもあり事実婚を選択した女性研究者のAUさんとパートナーのKHさん夫妻。しかし、法律婚との差が大きく「このままだと二人の健康や命を守っていけない」ことに気づき、夫婦別姓で法律婚できる選択肢を求めて陳情アクションに参加しました。昨年、台東区に提出した陳情は見事採択!二人の活動経緯を追ってみました。

「非当事者」から「当事者」へ

――選択的夫婦別姓に興味を持ったきっかけを教えてください。

AU「興味を持った時期はよく覚えていないですが、少なくともサイボウズ 青野さんの訴訟報道(2018年1月提訴 係争中)に際しては「制度が実現してくれたらいいな」とSNSで記事をシェアするなどしていました。

私は大学の研究者です。職場など周囲の女性研究者は旧姓利用をされている方が多く、手続き上の不便があることを日頃から見聞きしていました。それで『旧姓利用はとてもめんどくさそう。だったら通称だけでなく、法律上も自分の姓を名乗り続けたいけど、そんなことを男性に伝えたらトラブルになりそうなので結婚はやめておこう』と思っていましたので、青野さんの訴訟報道は個人的に応援していました。」

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KH「結婚による改姓について初めて関心を持ったのは、5年ほど前に裁判の報道(2015年12月『夫婦同姓は合憲』とした最高裁判決)を見たときですね。まだ当時は自分も当事者になる可能性は想像していなかったので、『困ってる人がいるなら早いうちにそうなるといいなー』くらいの思いでした。

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その後、青野さんの訴訟の報道を通じて、日本人同士の結婚の場合のみ同姓が強制であること等、詳しく知っていった…という感じです。

また、女性研究者の改姓の問題(女性の教授が出産のたびにペーパー離婚しているなど)は学生時代に聞いたことがあったので、彼女との将来を考えるうえで、改姓の問題は次第に他人事ではなくなりました。

研究者である彼女を改姓させる選択肢はあり得ない、でも自分も慣れ親しんだ姓を変えたくない…と思っていたときに青野さんの訴訟に注目が集まったので、渡りに船とばかりに自分も応援していました。」

――事実婚に至った経緯を教えてください。

KH「一緒に住もうということになり、そうなるとお互いの両親に紹介したい。両親に少しでも安心してもらうためにも(改姓を伴わない)事実婚を…と考え、提案しました。」

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AU「Hに事実婚の提案をされるまで、結婚することに積極的にはなれませんでした。夫になる相手やその家族、あるいは私自身の家族に『女性が姓を変えたくないというのはわがままなのでは?』というようなことを言われることが非常に嫌でした。でも、どうして嫌なのかきちんと向き合っていませんでした。

事実婚の提案は全く予想していなかったので、まず、とても驚きましたが、そこまで私のキャリアのことを考えてくださる方がいることが嬉しく、感心し、そして誇らしく思いました。

そして実は『法律婚じゃなくて事実婚というのは、おもしろそう』というのが一番の理由です。

とはいえ、相続税などの面で事実婚は法律婚と違いも多くあることは本や女性研究者の方のblogで知り『選択的夫婦別姓制度が実現するよう当事者としてなにかしたい……』と思っていました。

ちなみに、本については、前の職場で女性のエンパワーメントに関する本棚企画をされている方がいて『事実婚でやってください!』とお願いして、事実婚・法律婚・家族法といった本をずらーっと揃えてもらい、すごくありがたかったです(笑)

――周囲やご家族の反応はいかがでしたか。

AU「二人でそれぞれの実家に説明とご挨拶をしに行きました。私の両親には特に反対されませんでしたが、父が何も言わずにちょっと複雑そうな顔をしていたのを覚えています。父は改姓しているので、なにか思うことがあったのかなと思います。

補足ですが、実は、私は3歳のときに姓が変わっています。私の母は父の姓に変えて結婚しましたが、ひとり娘であったため『姓を継いでほしい』と父が姓を変えて、家を継いだことになっています。選択的夫婦別姓があれば、母が一度改姓し、さらに父と母と私が改姓するということはなかったのになと思います。

また、同世代にも仕事上のキャリア継続やアイデンティティといった理由からの事実婚カップルがいます。職場でお世話になった女性研究者の方が、法律婚からペーパー離婚をされていたのを知り、私も事実婚をすることを打ち明けたら『そのほうがトラブルが少ない』とおっしゃっていただきました。

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▲論文を執筆する研究者の中には、結婚による改姓を避けるため事実婚を選ぶ人が少なくない

研究業績の連続性のため、自身の研究者情報をどう見えるかコントロールすることはとても大切です。姓名については、法律婚をされた多くの女性研究者、(数は少ないですが)男性研究者は改姓に伴って旧姓利用をされています。旧姓でも論文等の研究成果を発表することはできるので業績の連続性を保つことはできますが、その場合、発表した姓名で国際会議等から渡航ビザが発行されます。そうするとパスポートに記載されている戸籍名と異なり、入国時にトラブルが起きることがあるそうです。
近年は、ORCID等の国際的に使える研究者識別子 (ID) がありますが、100%業績の連続性を保つことができるわけではないそうです。」

KH「私の親からも特に強く反対はされませんでした。
ただ法律婚にあるような保障等がないことには不安が大きかったようで、その中で『AUさんの姓に変えてもいいよ』と言ってもらいました。

ただ改姓は精神的苦痛で受け入れがたかったので、『30代ならデメリットに出くわすことは少ない』『青野さんの訴訟などで世の中は変わっていくはず』と説明して納得をしてもらいました。
また、姉に事実婚をすることを伝えたら『研究者同士の友達カップルが事実婚してる。やっぱりそういう困りごとがあるんだね』と言われました。」

――事実婚に際して何かしたことはありますか。

KH「住民票の夫・妻(未届)記載の手続きをしたほか、両家親族の顔合わせ会を行いました。それ以降も、正月などには互いの実家に帰省したり、家族が上京した際には一緒に食事をしたりしています。」

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▲住民票に記載される続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」とすることができ、多くの事実婚夫婦が利用している

事実婚を選び、感じた不安

――事実婚を選択し、何か感じたこと、変わったことはありますか。

AU「事実婚は法律婚との差が大きいことから「このまま事実婚だと二人の健康や命を守っていけないぞ」と思うようになりました。

また、いろんなことを調べて勉強すればするほど、選択的夫婦別姓制度がなんで実現していないのかということに対して、少し怒りや呆れの感情も交じった大きな疑問に変わっていきました。」

KH「若いうちなら事実婚のデメリットに直面しづらい…と思って選択しましたが、実際に事実婚した後ではもうすぐだと思っていた法改正がされず、いつまで経っても結婚できない…となったら怖いな』と思うようになりました。」

AU「ふたりとも若く元気でいるうちはかまわないけど、どちらかが若くても病気にならないとは限らないし、明日事故に遭うかもしれないし……法律婚で保障されるものが事実婚の場合にはないということは、やはり一緒に長く過ごすにつれて問題が顕在化するだろうなという点で、法律婚が望ましいと考えるようになりました。」

――陳情アクションに参加したきっかけを教えてください。

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AU「友人が法律婚からペーパー離婚したことをSNSで知って、経緯は違えど事実婚を選択したカップルがいたので話をしてみたいと、2019年4月に会いました。そのときに、アクションの話題が出て『当事者としてなにかやれることがあるなら』とその夜に登録フォームを入力しました。このときは、KHには了解をとった程度でしたが、アクションからの情報共有は2人の間でよくしていました。」

――登録してから活動はどのように進んでいったのですか。

AU「フォームを入力してすぐにご連絡をいただき、代表の井田さんではなく、私が住んでいる台東区で既に活動中のサポートメンバー(Tさん)との面談からはじまりました。私が入るまでにTさんは台東区の地ならしに相当骨を折ってくださっていて『やっと台東区の住人が現れたぞ!』という風に喜んでくださっていました。Tさんも長年事実婚でいらっしゃって、選択的夫婦別姓を切望されていました。世代が上の方のお話を直接聞いたのは初めてだったので『ああ、私たち以上に制度を必要とされている方がいる』ということを強く感じました。」

転機は区議会議員に思いを伝える”動画メッセージ”

AU「9月になって、Tさんが自民党会派の方と面談の機会を作ってくれたのですが、同席できなかったことから、『動画を撮影してメッセージを伝えよう』ということになり、夫と2人で動画を撮影しました。ここから、KHがどんどん積極的に活動に関わってくれるようになりました。

陳情書の提出は、11月に行いました。しかし、当時の状況では陳情書を提出してもよくて継続審議になってしまうのでは?と心配していました。台東区では、陳情は付託委員会での審議が行われますが、過去に提出された陳情はほとんど採択に至っておらず、一体どうなってしまうのか!と思っていました。

しかし、Tさんが働きかけてくれた結果、公明党の方が橋渡しとなり、12月に付託先委員の自民党の委員長の方と公明党の方と面談することになりました。当日は2人で『何が起きるんだ……全く予想できない』というような気持ちで参加しました。代表の井田さんも選択的夫婦別姓の説明をしに駆けつけてくださいました。公明党の区議の方は、緊張している私たちの雰囲気を察してか、非常に温かく迎えてくださりました。

控え室で待っていると自民党区議の方がいらっしゃいました。当初おひとりと聞いていたのですが、その方が『他の自民党区議も連れてきた』と追加で2名入室。『あ、これはいい雰囲気になるのでは?』と思いましたが実際そうでした。

このとき付託先委員の委員長であった高森区議は、同委員でもある若手の男性議員を連れてこられましたが、全員が大変興味をもって参加してくださり、別姓夫婦の間に産まれた子どもの姓についてはどうなるのかといった質問もしてくださいました。同席くださった若手議員の鈴木区議も好意的な反応で、採択後にブログでも取り上げられていました。
開始前の不安はすっかりどこへやらで、このようないい雰囲気で進んだことが嬉しかったですね。」(※1)

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▲区議への説明で使用した資料と、採択後、意見書を国に提出したことを伝える「区議会だより」の写真。

――初めての区議会議員との面談はどうでしたか。

AU「区議の方とお会いしたときは『あ、区議会選挙のポスターで見たことがある人が目の前に……』というのが第一の感想です。つなぐプロジェクト、たいとうフロンティアの区議の方ともお話をさせていただきましたが、実際に居住地区の議員の方にお会いするのは初めてで『えっ、話聞いてくれるの?』ということも興味深い機会でした。」

――その後、企画総務委員会の審議も全会一致で採択となりました。

AU「委員会の審議では反対意見はなく好意的で、ちょっと『台東区に住んでてよかったな!』と思いました(笑)採択後に御礼に区議の方々の控え室にご挨拶に伺ったところ『当事者である若いカップルの話を聞いて、次の世代のためにがんばらなければならないと思った』とおっしゃってくださり、当事者の声を直接届ける効果がこんなにあったのかというのは発見でした。」

KH「Tさんや妻が地ならししてくれた後に相乗りさせてもらった形ではありましたが、やはり嬉しかったですね。
また、当初は、区議の方々に会いに行ってもどれだけの効果があるのだろうと不安だったのですが、実際に自分たちの思いを伝えると、力強く『任せて!』と言ってもらえて採択に至ったことから、ボーッと待ってないでやってみれば意外とイケるんだと思いました。」

――採択後は、お二人はクラウドファンディングプロジェクトや議員向け勉強会に参画しながら、引き続き選択的夫婦別姓の実現に向けて活動しています。選択的夫婦別姓について、大事にしている思い、伝えたい思いなどはありますか?

AU「選択的夫婦別姓制度の実現は、個人の選択の自由を広げるひとつの手段であることを忘れないように気をつけています。私たちは現状では事実婚で、結婚式・披露宴をしませんでしたが、これは夫婦間で話し合って選択した結果であって、そうではない方々を尊重しないことがあってはいけないと思います。つまり、私が当事者として別姓を希望するからといって「夫婦別姓のほうが一般的に優れている」ということはないのです。別姓で婚姻できることは、あくまで私個人にとってよい選択であり、この選択ができるようになると嬉しい人が私以外にも多くいらっしゃるから、アクションの活動に賛同し、協力しています。
勉強会で夫婦別姓に対する偏見を減らし、陳情・請願の活動をしていくことはとても遠回りに見えますが、選択的夫婦別姓を広く受け入れてもらうために、よい方法だと思っています。」

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KH「当事者になって気づいたのは、夫婦別姓が選べないことによる困りごとは、誰にとっても他人事ではないということです。

自分も数年前までは、『女性が改姓して当たり前』と思っていましたし、改姓の苦しみを真剣に考えたことはありませんでした。
なので、報道等で選択的夫婦別姓のことを知っても、最初は他人事のように捉えていました。

しかし、『女性が改姓して当たり前』との考えは、交際相手が研究者であるとの理由だけで崩れるような極めて脆いものでした。また、職業上の都合以外にも様々な理由により、男性の側が改姓の苦しみに直面する可能性があります。

自分自身の経験を伝えることで、夫婦別姓が選べない困りごとへの理解を深めてもらう一助になればと思っています。

(※1)台東区 陳情採択に関するツイートはこちら

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