後味の悪い話　その163
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54 ：「神がくしの8月」さねとうあきら＠＼(^o^)／：2016/06/16(木) 22:15:58.07 ID:Eh1fab/E0.net
昭和20年の夏、宮城県の農村に東京から小学生の一団が疎開してくる。
農村に唯一ある寺が敷地の一部を開放し、小学生達を受け入れた。
寺の長男坊(小学校5年生)は疎開してきた小学生達の中で同い年の女子生徒がいじめを受けていることに気付く。
長男は同情から少女を気遣い、励ました。そして少女が美しく可憐であったこと、それでいて同級生からの中傷や無視にも毅然と耐えていることを知り、惹かれていく。
やがて少女も長男に心を開き、東京大空襲で母と弟2人が焼け死んだことや疎開前から学校でいじめを受けていたが疎開してから同級生たちの仕打ちがさらにひどくなったことを話す。
長男のお寺は由緒あり、裕福であったため闇で砂糖や米を売りさばいている農家や商家ともコネがあり食糧難のご時世に、食事はおろかお菓子にも不自由しなかった。
長男は自分の分のお菓子を少女に与えた。少女はとても喜んだが貯めておいたお菓子は同級生のいじめグループに奪われて、泥棒の烙印を押されてしまう。
残酷な同級生たちのいじめはエスカレートの一途をたどり一枚しか持っていない洋服は切り裂かれ、夜中に布団部屋に連れ込まれ、殴る蹴るのリンチを受けるようになった。
食事も取り上げられやせ細り、全身痣だらけの少女が同級生から酷い虐待を受けていることは明らかだったが部外者である村人はもちろん、東京からの担任ですら見て見ぬふりを決め込んだ。


55 ：「神がくしの8月」さねとうあきら＠＼(^o^)／：2016/06/16(木) 22:17:22.05 ID:Eh1fab/E0.net
それでも少女は負けなかった。いつかいじめが終わる日がくると信じ、炊事や風呂焚きに必要な薪取りで誰よりも薪を運び、同級生たちが嫌がる重労働を積極的に手伝い、必死で勉強した。
しかし少女への風当たりが弱まることはなかった。
ある日少女の身に決定打と言える事が起こった。少女がいじめを受けた理由は彼女の父にあった。少女の父親は共産党員であり、過激な活動を行って逮捕され北海道の刑務所で服役しているのだ。
それはクラスメート達全員が知っており、そのために彼女はひどいいじめを受けていたのだ。
あろうことか少女の担任はその事実を寮母に漏らし、寮母は村のスピーカー的存在である雑貨屋の妻に漏らし、雑貨屋の妻は村中に触れて歩いた。
この噂は1日で村中に知れ渡った。それまで部外者だった村人も少女へのいじめに積極的に加わり、少女は寺の外でも暴力を受けた。
このままでは少女が殺されてしまうと考えた長男は少女を夜中に寺から無理やり連れだし逃げるように促した。
しかし少女は脱走すれば自分が卑劣ないじめに屈したことになる、それでは死んだ家族に顔向けできない、刑務所にいる父にも精神的負担をかけることになると少女は拒む。
村の出口で言い合いをしている内に雷雨に合い、二人は洞窟内に飛び込んだ。


56 ：「神がくしの8月」さねとうあきら＠＼(^o^)／：2016/06/16(木) 22:19:28.64 ID:Eh1fab/E0.net
運が悪いことにその洞窟内には脱走兵が二人潜んでいた。
年長の脱走兵Aは上官に不当な暴力を受けて足に障害を負っていた。若い脱走兵BはAを父のように慕っており、脱走の原因もAを暴行した上官をBが殺してしまったからだった。
自分たちの潜伏場所がばれては困ると考えたBは少女と長男を監禁した。少女はけが人であるAの世話を喜んで行い、リハビリまで手伝た。
恐慌状態であった長男もBの山菜採りや盗んだヤギの世話につき合わせているうちに脱走兵達の間に絆が生まれていく。
その間村では大騒動になっていた。共産主義者の娘である東京者と、寺の跡取り息子が共に姿を消したのである。
教師は頑として学校側の責任を認めなかったし寺の住職夫妻は息子はアカの娘に唆された被害者だ、すべての非は学校側にあると主張し警官を総動員して息子を探せとわめいた。
村人や少女の同級生達は面白がっていた。
4人の奇妙な共同生活開始から数日後、長男と親しい農夫に、ヤギに餌を食べさせている長男とBの姿を見られてしまう。Bは咄嗟に陸軍軍属のふりをして農夫を追い返す。
家出中の不良少年が軍の占領地に侵入して食料泥を働いたので罰として労働を課している、後少しで返すと。
この稚拙な嘘は当然看過され、村人達は家出した長男と少女が脱走兵に監禁されていると断定した。


57 ：「神がくしの8月」さねとうあきら＠＼(^o^)／：2016/06/16(木) 22:20:41.42 ID:Eh1fab/E0.net
少女の担任の発案により「戦争は終わった」と嘘をついて脱走兵達をおびき出す作戦が立てられる。
村長の「もう戦争は終わりました。脱走の罪も不問です。どうぞ出てきて下さい」という呼びかけにだまされたAと少女の制止を振り切ってBと長男がふらふら洞窟から出てしまう。
洞窟の外には何十人もの村人が待ち構えていた。
村人に羽交い絞めにされてリンチに遭うB。「この人は悪い人じゃない！暴行しないで！」と長男は叫ぶが村人達の怒号にかき消されてしまう。
半殺しにされたBは駐在に引き渡された。Bを暴行して気の済んだ村人達にはもはやアカの娘などどうでもよく、「寺のぼっちゃまが見つかったからもう捜索はすんだ」と家に帰ってしまう。
担任だけが少女の身を案じて少女の捜索を懇願するが「まだ迷惑をかける気か。」と長男の両親に一喝されただけだった。
翌日本当に戦争は終わった。村人達も「この村で疎開先の子が行方不明になったとなれば体裁が悪い」と長男の案内に従い、隠れ家の洞窟まで行った。しかし洞窟にはAも少女もいなかった。
勝手に下山したんだろう、と村人も少女の学校関係者も納得した。


58 ：「神がくしの8月」さねとうあきら＠＼(^o^)／：2016/06/16(木) 22:22:32.00 ID:Eh1fab/E0.net
終戦から数ヶ月後、村に立派な紳士が尋ねてきた。紳士は少女の父親だった。東京に帰って娘が行方不明になったことを知り、疎開先まで手がかりを探しに来たのだ。
戦争が終わって刑務所から釈放された父親は東京の大新聞で記者として働いていた。長男は父少女がどれだけがんばっていじめに耐えたか、そして脱走兵と少女の顛末を語った。
父親は泣きながら長男に礼を言い、村にたくさんの東京土産を置いて帰っていった。
少女の父親が出世していることを知ると村人達は手のひらを返して「あの子はどんないじめを受けていても耐えて働いていた」「悪いことをしてしまった」「生きていてほしい」などと勝手に言い合った。
それも数ヶ月で忘れ、終戦から3年後崖の下から小さい女の子と男性の白骨したいが抱き合った姿で発見されたときも誰も少女のことを思い出さなかった。
それから30年。村は廃村寸前になっていた。
この村の近くに山を削ってハイウェイが通る計画が持ち上がったのに地主である和尚(成人した長男)が断固として山を売らなかった為にハイウェイが村をよける形で建設されたのだ。
バスは廃線になり村はどんどん寂れていった。和尚は妻も娶らず、どんどん意固地になっていた。酒ばかり飲んでろくにお勤めも果たさない和尚のせいで寺は荒れ果てた。
村の年寄りたちは村が寂れたのは和尚が山を売らなかったせいだと和尚を恨み、４６時中和尚の悪口で盛り上がっていた。若い人は皆村を出て行いき、今や村も寺も死に体になっている。



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