このところ雑誌や新聞の取材、ラジオや音声メディア「Voicy」への出演やら何やらで、メディアに関わる人たちと会う機会が続いた。彼ら、彼女らは共通して、政治家の裏金や企業の不正への問題意識が高い一方で、「うちの会社~」問題も抱えていた。

 面白かったのが「うちの会社~」問題を嘆きだすと“会社員”の顔になることだった。

あまりにひどすぎて吹き出してしまうほど

 「この数年で働く環境ってすごく変わったのに、上は変わらない。上が変わらない限りどうにもならない」
 「壁って河合さんは呼んでいるけど、壁の向こうの化石化がますますひどくなってて、自分でどうこうできるレベルではない」
 「不正とかはうちの会社ではないでしょうけど、仮にあったとしても、言っても無駄なような気がしてしまう」
 「決まったことだけ降りてきて、いちいち説明とかないから、長いものに巻かれるしかない」
 「思考停止を装わないと会社では生きていけない、と思ってしまう自分が恥ずかしい」
 etc.etc...。

 みんな“上司”や“役員”に不満を抱えつつも、自ら手を挙げることを諦めていた。本来は自分たちの世代が改革の旗手になるのが順当なのに、そう思えない自分を嫌悪しているようでもあった。

 そして、彼ら、彼女らと同様の「あきらめ感」が描かれていたのが、先日公表された豊田自動織機のエンジン認証不正に関する203ページにわたる調査報告書だ。

 この2、3年、まるで本コラムにおけるレギュラーテーマのように“不正に関する報告書”を読み解き、そこから得られた知見をつづってきたけど、今回の報告書ほど「現場のあきらめ感」が露骨に描かれていたものはない。申し訳ないけど、あまりにひどすぎて読みながら吹き出してしまうほどだった。

 とは言え、売る車がなくなるという異常事態を招いた日野自動車の不正に関する「調査報告書」にも、2023年末に公表されたダイハツの「調査報告書」にも、ちょっとだけ“視点”をずらせば、豊田自動織機と同じような現場のあきらめ感が根付いていたように思う。

 一体いつから、こんなにもあきらめ感が日本の“会社員”にまん延するようになってしまったのだろう。リーマン・ショック以降の閉塞感とは違うし、自己責任論と並行して拡大した「一億総モラトリアム社会」とも異なる。“上”と戦うことの無意味さというか、戦う意志を持つことのバカバカしさに気づいた、という感じだろうか。

(サムネイルの写真=SH/stock.adobe.com)

 そこで今回は「現場のあきらめ感の真因」を、豊田自動織機の報告書を手がかりに、あれこれ探ってみようと思う。

 皆さんご承知のこととは思うが、念のために「豊田自動織機不正問題の経緯」を簡単に振り返っておこう。

前提となる技術的な知識を有する人材がいなかった

 23年3月、豊田自動織機のフォークリフト用エンジン3機種、建設機械用エンジン1機種に、国内排出ガス認証に関する法規違反が判明した。

 不正発覚のきっかけは、北米向けガソリンエンジンの認証申請だった(個人的には、せめて「内部告発」であってほしかったが)。21年用年次認証申請に対し、過去に提出した劣化耐久試験のデータに関して米環境保護庁(EPA)が問い合わせてきたという。

 そこで外部弁護士による社内調査を実施したところ、不正が確認され、23年3月に公表。その後、第三者委員会による外部調査が行われ、その報告書が24年1月29日に公開された。

 同報告書によると、不正は06年ごろから行われ、不正行為の中には試験データの書き換えなど、不正であることを認識しつつ故意に不正行為に及んだ事例の他に、法規の認識や理解の不足から、法規違反の明確な認識を欠いたまま不正行為に及んだ事例も多数認められたという。

 ご興味のある方は、「調査報告書」をご覧いただくとして、以下、全203ページの報告書に書かれていた中で、私が気になった部分のみ紹介する(一部抜粋・要約)。

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