
この連載では、これまでもオープンソースのソフトウエアやハードウエアについて紹介してきた。オープンソースのソフトウエアによって米グーグルや米フェイスブックのような巨大企業が誕生した。さらに東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトのように、オープンソース・ソフトウエアは情報通信の業界を越えて、行政サービスをも進化させつつある。また米アップルは独自CPUへの切り替えを発表し、日本のプリファード・ネットワークスもAI学習チップの製造を手がけている。チップレベルの最適化はDIYやベンチャー含めてさらに身近なものになりつつある。
自由でオープンな技術へのアクセスはますます拡大しつつある。6月30日には、グーグルが後援する自由でオープンな半導体チップ製造プロジェクトが発表された。
自由な半導体チップの可能性
FOSSi(Free and Open Source Silicon Foundation)のイベントで発表された今回のプロジェクトは、実際に動作する半導体チップを、オープンで誰でもアクセスできる技術だけで製造まで行うというものだ。
コンピューターは計算を繰り返すことで音楽を演奏する、映像を出すなど、様々な処理を行う。多くの処理は人間がソフトウエアをプログラムし、コンパイラというソフトウエアで半導体チップが処理可能なバイナリコードに変換して実行される。しかし、こうして変換されたバイナリコードよりも、特定の処理のために専用に作られた半導体チップ(ASIC、Application Specific Integrated Circuit)のほうが、高い電力効率で処理を行うことができる。最初は汎用のパソコンで行われていたビットコインのマイニングが、やがてFPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。プログラムで論理回路を構成できるため、ハードウエアに近い効率が出せる半導体チップ)に移行し、さらには専用のASICでマイニングされるようになったのはよい例だ。
ウエアラブルやAIなど、新しいコンピューターの使い方はさらに広がっている。MacのCPUを自社開発にすると発表した米アップルはすでに、ウエアラブル機器など、自社の製品にあわせた半導体チップを続々と投入している。中国でも多くの新しい半導体チップが開発されている。たとえばドローン大手のDJIはドローンの中核であるフライトコントローラー、次いで無線通信で自社設計の半導体チップを採用している。専用の半導体チップを作るのは初期投資が大きいが、十分な利用ボリュームが見込めればかなりの優位になる。
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