「美容界のディズニーランド」と呼ばれ、顧客に感動を与える経営で知られる北九州市の美容室BAGZY(バグジー)。代表の久保華図八氏は全国で年間100回を超える講演をこなし、業種を越えて数多くの経営者からメンターとして慕われる存在だ。連載第3回は、経営者が幸せにするべき人の3人目として「かかわりのある業者さん」との付き合い方について語る。自分がものを買う立場になると、どうしても目上に立とうとしてしまう、その気持ちを強く戒める(前回の記事はこちら)。
経営者が幸せにするべき人、3人目は「かかわりのある業者さん」です。

ボクの美容室でしたら、玄関マットなどを取り換えてくれる清掃会社さんや、宅配便の方々、後はもちろん、仕入先の卸会社さんなどです。こういう人たちに対して、礼を重んじる、要するに敬意を表することが大切になります。
なぜそうするかといえば、かかわりのある業者さんを大切にすることで、応援してくれる人が増えます。自分が相手を喜ばせた分、後になって善意が返ってくるわけです。
故人で、ある有名な陶芸家さんの言葉に、「物買って来る、自分買って来る」というものがあります。
どういうことかというと、「物を買うときに人間性が出るんだ」ということです。
相手の立場に関係なく、きちんと礼を尽くせるか
自分たちがお客さまとして、お金を出して何かを食べたとします。そのとき、何もかも放り出して無言で帰る人もいれば、食器をちゃんと片付けてから「おいしかったです」「ごちそうさま」と言ってお金を払う人もいる。「物を買うときに、自分の本性が出る」という言葉です。
業者さんに対しては、どこかで自分たちの下というか、「自分たちが頼んでやっている」「おつき合いしてやっている」という気持ちが起こりやすいものです。まずその心を取り除かないといけません。
これが心で分かっていても、なかなか実践できないものです。特に自分が会社の幹部になったり、経営者になったり、地位が高くなると、卑下する気持ちがつい、わきやすいのではないでしょうか。
例えばタクシーに乗ったとき、「こっちの方が客だぞ。お客にそんな態度なのか?」という気持ちには簡単になります。逆に「乗せていただいている」とはなかなか思えないものでしょう。
自分の会社にかかわりのある業者さんたちは、自分たちより下ではなくて、パートナーだと考えなければいけません。「同等なお付き合いを、こちらがさせてもらっている」という感覚がまず必要です。先ほども書きましたが、相手に対して「礼を重んじる」ということです。
相手の立場に関係なく、きちんと礼を尽くせるかということがものすごく大切になってきます。礼を尽くすことで、業者さんたちからの応援という、目に見えない資産ができるのです。
仕入先との関係づくりで大切なのは、ボクも十分にはできていないけれど、やっぱり値切らないことです。
そして、ボクが絶対妥協しないのは、「いいものを持ってきて」と言うことです。
パーマ液でも、シャンプーでも、「いいものを持ってきてください」とお願いする。これは鉄則です。なぜかというと、「いいものを持ってきて」と言われたら、売る方は一番うれしいのではないでしょうか。

材料屋さんたちもうわさをします。「バグジーってあんなこと言っているけれど、安いパーマ液を使っているんだよね」と言われてしまう。ボクは最高のものを持ってきてほしいし、最新のいい情報が欲しいから、そうお願いしています。
仕入れで「まけて」を繰り返すと、自分の店の価値が下がる
いい商品、いいものを提案してくださいと繰り返しお願いする。そうしたら一所懸命考えて、探して、いいものを持ってきてくれます。
これが「安くして」と日々繰り返していたら、仕入先も嫌な気分になってしまうでしょう。「安くてもいいものを」とは思えなくなって、商品のグレードが下がっていく。
結局、それは自分のお店のグレードを下げることになってしまうわけです。
ちなみにボクは週に1回、面談日というのを決めています。その面談日はかかわりのある業者さんたちと会うようにしています。クリーニング屋さんも、銀行さんもその1つです。
銀行の支店長さんにも月に1回は会います。お金を借りたいときだけ会いに行くことはしません。何もないときでも「いい天気ですね。最近どうですか」と話をする。それで何度か会っていると「実は出店を考えているんです」という話になる日もあります。
いつもコミュニケーションが取れているからいい関係になるわけです。用があるときだけ会いに行っても、気持ちは見透かされてしまいます。
営業マンの人が「売りたい、売りたい」と思っていたら、いくらいいことを言っていたって売りたい気持ちが分かってしまいます。それと同じです。
やっぱり業者さんたちも、何か取ってやろうという気持ちや、自分だけ儲けようという気持ちは分かりますからね。共に栄えようという気持ちを持ち続けることが大切だと思います。
いい会社というのは応援者が多いものです。業者の人を大切にすることは、結局、自分の会社にとって見えない資産として貯まっていきます。

自分の会社を応援してくれる人が増えていく。自分の会社にかかわりのある人たちに、「バグジーはもっと繁盛してほしい」と思っていただける。その好意自体が見えない資産になります。
現場にいるスタッフもこの気持ちを忘れないように、どんな業者さんとお付き合いがあるのか、一度リストアップするといいかもしれません。ちょっと会社が大きくて、店が何軒かあると、それぞれの店でかかわりのある業者さんというのが少しずつ違ってくることがあります。
取引先をリストアップして、礼を尽くす仕組みをつくる
そのとき、単純に「会社に来る人はみんな大切にしなさい」と言っているだけでは、なかなか社員には浸透しないかもしれません。きちんとリストアップして、その業者さんとどういう関係かも含めてスタッフ全員に知っておいてもらう。会社の仕組みとしてリストをつくるのが良いと思います。
宅配便の人が来たときに「お疲れさまです、暑いのにすみません」とか、「暑いのに大変ですね、ありがとうございます」と言ったら、宅配便の人も「あそこだけはなんとなく丁寧に持って行きたいな」とか「最初に持って行ってあげようかな」という気持ちになるのではないでしょうか。そういう、かかわりのある人たちの好意を集められるのが、いい会社の条件だとボクは思います。
「バグジーってどう?」という話になったとき、「いい会社だよ」と言われるのと、「みんないい会社だと言うけど、業者には冷たいよ」と言われるのとでは大違いです。人の口に戸は立てられません。業者さんたちは、自分の会社にとって見えない営業マンみたいなものでもあるわけです。
自分の会社にかかわりのある人たちに敬意を表するということは、ぜひ掘り下げて考えてみてほしいと思います。
(この記事は日経BP社『経営者には、幸せにするべき5人の人がいる』を基に再編集しました。構成:菅野 武 編集:日経トップリーダー)

経営者が幸せにするべき5人の人たちとの関係づくり、そしていい会社をつくるリーダーの条件についてもまとめた久保華図八氏の新刊『経営者には、幸せにするべき5人の人がいる』を刊行しました。感動経営を実践するリーダーとして、業種を越えて多くの経営者から慕われる久保氏が「周りの人を愛し、周りの人から好かれる」経営者としての生き方について語ります。詳しくはこちらから。
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