14日のニューヨーク証券取引所(NYSE)に続き、15日には東京証券取引所1部にも上場。売り出し価格を48%も上回る1株4900円で初値がつき、投資家需要の強さを見せつけた。初日の終値で換算したLINEの時価総額は約9100億円。上場初日だけで、2000億円以上も企業価値が上がったことになる。
この上場を誰よりも感慨深く見守った人物がいる。LINE株式の約8割を持つ韓国ネイバーの創業者で取締役会議長を務める、李(イ)ヘジン氏だ。
ネイバーは韓国の検索市場で7割以上のシェアを誇る韓国インターネット最大手。日本市場開拓のため、ネイバージャパンを2007年に設立。この日本法人が2011年、独自にLINEを生み出し、今日に至る。
李氏自身も当時、韓国本社とネイバージャパンとを行き来し、LINEの誕生に大きく関与していた。ネイバージャパンがLINEへと社名変更し、成長の過程を辿った以降も、李氏はLINEの非常勤取締役としてLINEの経営に深く関っている。
にもかかわらず、これまで李氏がメディアの前でLINEについて語ることはほとんどなかった。
最初の上場申請から2年。この「遅れ」の理由や、上場の真の狙いは何か。韓国ネイバーとLINEの関係性はどうなっていくのか。李氏があらゆる質問に真正面から答えた。(聞き手は井上 理)
「興奮というよりは、心配している」
LINEが日米上場を果たしました。まずは、率直な感想を聞かせてください。
李ヘジン:率直に、これは夢なのではないかという気がしています。私自身、毎月のように日本と韓国を行ったり来たりして苦労をしましたし、仲間と何度もお酒を飲んで悔しい思いを晴らしたりもしました。そういったことを考えると、何か自分たちがやってきたことが認められたような気がして、誇らしく感じています。
李ヘジン:ただ、上場すれば、何か嬉しくてたまらない気分になると思っていたのですが、今は、興奮や感動というより、心配する気持ちの方が大きいですね。
というのも、IPO(新規上場)をしたことで、一般の株主の皆様に対しても、社会に対しても、新しい会社としての責任をちゃんと果たしていかなければなりません。しっかりやっていかねばと、緊張しています。
日米での同時上場について、経営陣のあいだでいろいろな議論があったと聞いています。李さんはどういうスタンスだったのですか。
李ヘジン:途中、いろいろと変遷がありましたが、(上場しようと考えた)最初から、日米での同時上場が良い形だと思っていました。
LINEのユーザーや売上げ、社員などの構成を考えると、日本が中心であることは間違いないので、日本での上場は当然、大事だと思いました。ですが、LINEは他のアジアの国でもトップのシェアをとっています。そういった国々での展開を考えると、米国での上場は戦略的に活用できるなとも考えていました。
最初に上場申請書類を提出してから約2年が経ちました。日本では、親会社のネイバーが普通株の10倍程度の議決権を持つ種類株の発行にこだわったため、上場が遅れたと報じられています。真相は?
「種類株のせいで2年遅れたというのは間違った情報」
李ヘジン:種類株のせいで上場が2年遅れたというのは本当に間違った情報ですね。種類株の話が出たのは、グーグルやフェイスブックなど、米国で上場したネット企業の多くが、独自の経営や素早い意思決定を担保するために種類株を発行していたからです。同様にLINEの経営陣にもそのような“ツール”が必要だと思い、私たちも種類株を検討しました。
しかしそれは、米国では簡単なことでしたが、日本では複雑で難しいということが分かりました。さらに、もとの意図とは違い、何かネイバーや私がLINEの支配権を握ろうとしている、といった誤解も出てきたので、これは返ってLINEの経営にとって良くないと考え、種類株はやらない方がいいという判断に至ったということです。
では、最初の上場申請から2年が経った理由は何でしょうか。
李ヘジン:最初に検討した当時は、メッセンジャーアプリの競争が非常に激しかったので、戦略的な増資をするのか、あるいは上場を目指すのか、あらゆる可能性について準備はしておくべきだと考えました。でも、本当に上場を決定することは、準備とは違うものです。
李ヘジン:安定的で継続性のある収益を上げられる体制が確立していないままIPOをして、一般の株主の方々から資金を得るというのは、責任感のないことだと思います。
そもそも、ネイバーは資金に困っていませんし、LINEも資金不足で事業展開に行き詰まっていたわけでもありません。ですから、一般からの投資を受ける準備がちゃんと整った時期が一番いいと思いました。それが、今だったということです。
今回、上場を発表した時点での時価総額は約6000億円でした。日本では、2年前に上場していれば「1兆円」の価値がついていただけに、時期を逸したのではないか、との指摘もあります。
李ヘジン:その話は、非常におかしな話だと思いました。仮に、2年前に上場していれば、1兆円でしたと。その価値が、今は6000億円ということであれば、投資家に損害を与えてしまったことになりますね。それは、投資家に対して責任のある行動をしたとは言えません。
当時の1兆円ではなく、今の6000億円が正しい価値なのだとしたら、一般の投資家にとっても今が適切なタイミングということです。2年前に上場すべきだったと言うのは、IPOを巨大な資金を得る機会としか捉えない見方で、それは私は賛成できません。
「LINEを独立した一人前の会社にする」
李ヘジン:また、その時に上場して今よりも多くの資金を確保していれば、LINEはもっと成長できたのではないか、という見方もありますよね。でも先ほど話したように、LINEには事業拡大のためのキャッシュは十分にありましたし、今の状況が上場で変わっていたとも思いません。
潤沢な資金を得ることが主目的ではないのだとしたら、上場した真の狙いはどこにあるのでしょうか?
李ヘジン:LINEがもっと独立した経営をするためには、特定の株主(ネイバー)が独占的にLINEの株式を持っている状態はあまり望ましくありません。今の「親会社、子会社」という関係性ではなく、LINEを本当に独立した大人、一人前の会社にしていくことが、ネイバーとLINE、お互いの発展のためにもいいとも思いました。
加えて、上場をすれば、その会社の経営はもっと透明になりますし、社外取締役を招いて、さらに独立した取締役会も構成できます。つまり、親会社が子会社を勝手にコントロールすることはできなくなります。独立した会社として、LINEが社会に対して透明性や健全性を示すためにも、上場は必要なプロセスだと思いました。
なるほど。しかし、上場後もネイバーはLINE株式の約8割を保有する親会社です。シェアにこだわっている、と見る向きもあります。
李ヘジン:それも、全く誤った見方ですね。まず、私たちは資金があまり必要な状況ではありません。株式を通じてあまりにも多くの資金が入って来るのは健康ではない。その都度、必要な資金だけ受け入れて経営していくのが健全な形だと思います。
それに、ネイバーがLINEへの支配権を維持したいのであれば、そもそも上場しない方がいいですよね。プライベートな子会社であれば、やりたい放題、思う存分できますから。
ネイバーの立場からすると、LINEの上場に反対するネイバーの株主も結構、います。LINEの上場によって、直接、LINEへの投資が振り向くために、ネイバーのバリューが低くなるという見方をする海外投資家が多いのです。
それでも、今回、上場を選んだのは、決して、ネイバーの都合ではない、ということは分かってもらえると思います。
確かに、李さんは当初、韓国ネイバー株式のほぼ100%を保有していましたが、今ではわずか4%しか持ち分がありません。それはネイバーを独立した社会の公器へと変えて行きたかったからだと聞いていますが、LINEについても、いずれそうしていく考えでしょうか。
李ヘジン:そうですね。いずれは、段階を経て、そのようになっていくのだと思っています。
(続く)
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。