外食の激戦区、東京・吉祥寺で駅から徒歩10分と集客には恵まれない立地ながら、既に年内の夜の予約が埋まっている肉料理専門店「肉山」。運営会社、個人商店(東京都武蔵野市)の光山英明社長は異業種の出身ながら、10年余りで赤身肉、ホルモン焼きに特化した2つの繁盛店を作り上げた注目の存在だ。既存の常識にとらわれない発想の数々や、経営の極意を聞いた。
*当連載は、日経ビジネス2016年5月16日号特集「外食崩壊 ~賞味期限切れのチェーン店~」との連動企画です。
もう1度店に立ちたくなった
「肉山」のコンセプトや、開店の経緯を教えて下さい。
赤身肉のメニューに特化して提供する店で、2012年11月にオープンしました。その前は同じ東京・吉祥寺でホルモン焼きの店「わ」を運営していましたが、「わ」の経営が軌道に乗りスタッフに任せるようになった中で、私自身、もう一度お店に立ちたいという気持ちが強くなりました。
「わ」とは違う業態の店を考える中で、お客様が自分で食材を焼くのではなく、こちらが調理して提供しよう。そしてホルモンよりも脂身が少なくさっぱりして、幅広い方に楽しんで頂ける食材を売りにしようと考えました。そうして赤身肉に特化した店を出すことを決めたのです。
どのような赤身肉を提供していますか。
牛肉、豚肉、馬肉、鹿肉など幅広く取り扱っています。牛肉や馬肉は熊本県、鹿肉は長野県や北海道産から厳選し、仕入れ状況に応じて使っています。メニューは1人5000円の「お任せコース」のみで、メニュー表には「色んな肉」としか書いていません。肉料理が得意なレストランのシェフの指導を受けながら、赤身肉のうまさを引き出す料理や調理法を学びました。豚ロースやソーセージ、カレーライスなど、提供する料理は様々です。
メニューがコース1種類では、客層が狭まりませんか。
店のコンセプトを理解して、最初から最後までメーン料理のみを楽しみたいお客様に来て頂ければ良いと考えています。メニューを絞ることで食材や調理作業の無駄を省き、出来る限りお得なお肉を提供できるようになっています。
食材の仕入れでのこだわりや、心掛けている点は何ですか。
私は元・高校球児で、野球部の後輩に、肉の卸売りをしている人がいます。その後輩のサポートを得て、良い赤身肉を仕入れています。
それから2つ目に、絶対売れるという自信と覚悟を持って、食材を早めに調達するよう心掛けています。既に、年末まで使う食材の発注をほぼ終えています。これは良質な赤身肉を、他の飲食店が買い付ける前に確保する狙いもあります。
そして3つ目が、取引先に仕入れ代金を早めに支払うことを心掛けて、振り込み手数料分を引かずに支払います。これは私が以前、業務用の酒販店で働いていた際に抱いた疑問を踏まえての対応です。取引先の飲食店で、仕入れた酒代から振り込み手数料分を引いて代金を支払う飲食店があまりにも多かったのです。数百円の振り込み手数料を渋る前に、収益を伸ばすために打つ手は他に色々とあるでしょう。こうした自分さえ儲かれば良いという発想では、取引先と良好な関係を築くことはできません。
牛ホルモン人気も作る
「肉山」の前にも、ホルモン焼き店の「わ」を繁盛店に育てました。成功の秘訣を教えて下さい。
「わ」は2002年にオープンしました。当時、大阪では一般的だった牛ホルモンの料理を出す飲食店が、東京にはほとんどなかったことに注目しました。焼酎がブームだったこともあり、東京で牛ホルモンと焼酎を手頃な価格で提供すれば流行ると思いました。酒販店を辞めて、飲食店経営は初の挑戦でしたが、料理と酒を500円均一で提供し、人気店になることができました。
「わ」で扱う牛ホルモン、「肉山」で提供する赤身肉とも、今では他の多くの店で提供する食材になりました。私は先駆者としてこれらの食材に目をつけ、流行らせてきたという自負があります。
人手不足が深刻な中で、スタッフの確保・研修をどう進めていますか。
「わ」をオープンして以来、広告宣伝やアルバイトの募集費は1円も使っていません。バイトは店内で募集するのみですが、スタッフ確保にはそれほど困っていません。
接客などの研修はほとんどせず、スタッフの常識に任せています。以前、髪を染めたまま応募してきた子がいました。「そのままバイトをして大丈夫か大丈夫でないか、自分で考えなさい」と私が話すと「さすがにこれでは無理かな」と言うので、「その感覚で良かった」と答え、採用を決めたことがあります。
「わ」「肉山」と、光山社長が手掛けた業態はどれも成功してきました。経営の心構えを教えて下さい。
「潔さ」でしょうか。私はお店をいつでも閉める覚悟で働いています。東京では優しいお客が多く、人気が落ちた店でも何とか残そうと頻繁に通うことがあります。ですが、そういう「延命作業」を続けても、店や経営者のためになりません。私なら、客足が遠のいたら店をすぐ閉めて、何がいけなかったのかを反省するでしょう。そうして改善し、またやり直せば良いのです。
今後の運営方針は。
ホルモン焼き、赤身肉の店舗ともFC(フランチャイズチェーン)展開を進めていて、現在は全国で約45店に上ります。「肉山」の名称が1つのブランドになり、最近は経営が立ち行かなくなったレストランを、肉山と同様のコンセプトで改装したいという依頼も多くなりました。
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