店舗数の拡大で成長してきた大手チェーンが、かつてのような勢いを失っている。人手を簡単に確保できる時代ではない。消費者のチェーン離れも顕在化しており、想定した売り上げが見込めず、出店費用を回収するまでの期間が以前よりも長くなったことも背景にある。

 ファミレス御三家と呼ばれた「ロイヤルホスト」は、2016年4月まで17カ月連続で既存店の客数が前年を下回った。また、2016年12月期は4期ぶりに「出店ゼロ」を決断。ロイヤルホールディングスの黒須康宏社長兼COO(最高執行責任者)に、ロイヤルホストが直面している問題を聞いた。

*当連載は、日経ビジネス2016年5月16日号特集「外食崩壊 ~賞味期限切れのチェーン店~」との連動企画です。

価格に比べQSCが見劣りする

2016年12月期は、主力の「ロイヤルホスト」の出店はしないと発表しました。

黒須康宏・ロイヤルホールディングス社長兼COO(最高執行責任者)は、「今のロイヤルホストは出店よりも質の成長を目指すべき時」と話す(写真:共同通信)
黒須康宏・ロイヤルホールディングス社長兼COO(最高執行責任者)は、「今のロイヤルホストは出店よりも質の成長を目指すべき時」と話す(写真:共同通信)

 出店計画をゼロとした理由は2つあります。短期的に見れば景気は変動しますが、長期的にみれば国内の人口は減少し、市場は縮小しています。当然出店は慎重にならざるを得ません。

 もう一つは、価格に見合う価値を提供できておらず、若干見劣りしているのではないかという危機感があるからです。既存店の来客数は、2015年12月期には前年比の95.4%に落ち込みました。市場が縮小する中では、再度来店していただける「価値」が必要です。

「価値」とは、具体的には何を指すのでしょうか?

 私はお店の価値は、客単価をQSC(品質、サービス、清潔さ)で割ったものだと思っています。ロイヤルホストの客単価は1250円で、今はQSCがそれよりも低いということです。そんな時は、出店よりも質の成長を目指す戦略を取るべきです。達成には数年はかかるかもしれませんが、まずは内部を充実させて、単価以上のQSCを提供する1年にしたいと考えています。

 ここ数年、ロイヤルホストの出店は1~2店と抑制してきたので、社内には違和感はなかったようです。

 市場が縮小しているからといって、約220店あるロイヤルホストを100店にするのはナンセンスです。少し減らす可能性はあるかと思いますが。店数は200以上で、老舗のファミリーレストラン、ホスピタリティーレストランとして評価していただけるようになれば、来客数も上がるでしょうし、競争環境で生きる一つの道であると思います。

QSCが見劣りするとのことですが、それは、外食企業同士の競合激化による相対的な変化でしょうか?

 いいえ。これは決して外部環境によるものではなく、我々内部の問題です。期待に応えられる商品や満足度の高いサービスを提供できているどうかを見直すべき時期だという認識を持っています。今、事業会社ロイヤルホストの社長が交代したタイミングでもあり、もう一度しっかりとした内部固めが必要です。

 私は内部を充実させていくために必要なのは、「縦軸」と「横軸」の強化だと考えています。まず縦軸は事業ごとの取り組みです。この縦軸の成長には、量と質のバランスをとることが必要で、今のロイヤルホストは質の成長が求められています。

「安くなくても価値あるものを」という戦略は変えない

横軸の取り組みとは?

 横軸は、ホールディング傘下の各事業会社のノウハウをグループ全体で横展開するような取り組みを指します。例えば、イスラム教徒向けのハラルに対応した機内食のノウハウを、リッチモンドホテルに提供しています。「天丼てんや」を(コントラクト事業が得意とする)空港や高速道路のサービスエリアに出店したり、カフェ業態の「ザサードカフェ」を社員食堂で展開したりといった具合です。

 さらに最近では、縦と横の軸に加えて「中心軸」が重要だと考えるようになりました。それはお客様と従業員です。各事業の経営層が、お客様と従業員の声に耳を傾けて、満足度を高めるにはどうしたらいいのかを考える必要があります。現場で働いている人たちは頑張っています。経営と現場の心理的な距離が離れてしまった。もう少し双方の距離を近づけて、一丸となって価値を上げていかなければと思っています。

 今、ロイヤルホストの売り上げは、地域的な温度差が若干あります。直近のデータでは関東は悪くないが、地方は弱含みになってきています。なぜそうなっているのか、考えていく必要があるでしょう。例えばロイヤルホストは原則として全国どこでも同じメニューと価格にしていますが、地方と都心など、もう少し違いを出していくこともあるかもしれません。

ロイヤルホストではここ数年、国産食材の採用などで付加価値を加えた客単価が高めの商品を投入してきていました。この戦略をどう分析していますか。

 2011年にロイヤルホストは地域別の事業会社3社を合併しました。そして、単価は少し高いけれども価値ある商品を出す戦略をとりました。それが軌道に乗り、単価が上昇しながら、客数も上がっていきました。

 それが昨年、“踊り場”を迎えたわけです。「ちょい高」ブームのトップランナーとして、ステーキやパスタの麺など、原材料の質を毎年少しずつ上げてきましたが、他社に追従されてしまいました。

では、従来の戦略は方向転換するのですか。

 2013年から始めた国産食材を使ったフェアメニュー「グッドジャパン」は、220店規模のチェーンのロイヤルホストならではの企画です。食材の大量確保が難しいため、800店や1000店規模のチェーンではできません。

 ですが、生産量や漁獲量などの関係で、調達できる量が予測より少なくなってしまうこともあります。予定している期間よりもフェアが早く終わるのは、お客様との約束が守れなくなるわけですから、そこは苦労しているところです。

 今年に入ってからの消費環境は、他社を見ていると、ちょい高からデフレにシフトしている感があります。しかし、我々はデフレの方向に追従するのは苦手なので、自分の得意な「安くなくても価値あるものを」という戦略を変えようとは思いません。常に価値を見直しながら向上させていきます。

お客様の人生の一部を預かっている責任

外食市場が縮小する背景には、コンビニエンスストアの急増があります。コンビニは消費者との距離感が近い存在ですが、外食チェーンが生き残る道はあるのでしょうか。

 コンビニの戦略はたしかにすばらしいし、その存在は家庭にどんどん近づいています。コンビニと我々の違いは、レストランにわざわざ来ていただくわけですから、楽しい時間を過ごしていただき、商品とホスピタリティーをしっかり提供するということです。お客様の人生の一部を預かっている責任を持たなければいけないと感じています。

 ある地域に店ができて30~40年、行くたびに大きく変わってはいないけれども、楽しい雰囲気があり、また来ようと思っていただける存在。それが老舗のホスピタリティーレストランが目指す姿であり、そうなれれば持続性のあるレストランになれるはずです。

市場が直面する別の深刻な課題、高齢化への対応についてはどう考えていますか?

 今、地方では駅前商店街の活気が失われ、商店街の空洞化が顕著で、高齢者は買い物したり、食事をしたりする場所がなくなっています。様々な地域で、駅前に住宅を整備し、周辺に介護や医療を提供する施設や商業施設も作る構想が検討されています。

 ロイヤルホストはそうした場所との親和性は高いかもしれません。また、ロイヤルHDには病院食に携わる事業もありますから、連携も十分にあり得るでしょう。

 より長くお客様に来ていただくためには、改装も必要です。ロイヤルホストは1階部分が駐車場で、2階の店内に階段を上がらなければ入れない店もあります。お客様の杖を立てかけるためのテーブル設備の導入など、必要なサービスを考えていく時期に来ていると考えています。

当連載は、日経ビジネス2016年5月16日号特集「外食崩壊 ~賞味期限切れのチェーン店~」との連動企画です。あわせてこちらもご覧ください。
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