大手牛丼チェーン「すき家」などを傘下に持つゼンショーホールディングスは、6月24日、定期株主総会を開催した。株主からは労働環境の改善に加え、M&A、後継者、ブランドの発展など、ゼンショーの今後について問う声が相次いだ。

 大手牛丼チェーン「すき家」などを傘下に持つゼンショーホールディングスは、6月24日、第34回定時株主総会を開催した。株主総会の会場は、東京都港区のANAインターコンチネンタルホテル東京で、午前10時に始まった。

 ゼンショーHDは、2014年、すき家の労働環境の悪化による深夜の一人勤務(ワンオペ)などが問題となり、「ブラック企業」との批判にさらされた。深夜営業の休止などを進めた結果、2015年3月期は売上高が5118億1000万円で、111億3800万円の最終赤字に転落。2016年3月期は深夜営業の再開も進んで業績が回復し、売上高は2.7%増の5257億900万円、当期利益は40億2600万円の黒字となった。

 一連の騒動を経て、小川賢太郎会長兼社長のメディアへの露出は大幅に減った。そんな中、今回の株主総会で、小川氏の口からどんな思いが語られたのか。株主の協力を得て、この日の総会で議論された内容を紹介する。

 出席した株主によると、まず外食や小売などの各事業の業績の報告ののち、小川氏が登壇。さらに時間を割いて、決算概要の中身と2017年3月期の業績予想、国内外の主要事業の状況について説明した。

 国内の主要事業は、①すき家、②回転ずし業態「はま寿司」、③小売事業、④介護事業──を取り上げた。すき家は既存店の客数の増加など、ここ数年の長期的なトレンドとともに、競合他社の実績と比較したグラフを提示して堅調さなどをアピールした。また、すき家ではマグロの丼メニューを充実させていることを強調。「週に1回牛丼を食べる人が多いが、もう1回マグロを食べに来てくれれば、客数は倍になる」といった狙いを語った。また、はま寿司の5月末の店舗数は439店と発表。競合他社との店舗数の比較を引き合いに、「店数では日本一の回転ずしチェーンになった段階。日々改善を図っていきたい」と述べた。

 介護事業については、会長自身の思いを語る場面がみられた。ゼンショーHDは2014年に北海道の介護事業を運営する企業をM&A(合併・買収)でグループに加えた。ゼンショーHD創業からは「いかに生きるか」で精一杯で、介護には関心がなかったというが、4年前に母親を亡くし、介護の実態や問題に直面して、人生観が変わったという。「人生の第4楽章をいかに生きるかが大事。もっと楽しく、おいしいものを食べて過ごしたい。晩年の食事は楽しみであるし、自分たちのできる役割はある」と熱く語った。

 その後、今総会で提案されている3つの議案(剰余金処分について、定款の変更、監査役2名の選任)について説明したのち、質疑応答の時間となった。あらかじめ個々人に1枚ずつ配布された赤、青、黄色の色紙を、議長に見えるように掲げる形。「質問は要点をまとめて1分程度。1人2問まででお願いします」との指示があったようだ。

「後継者を誰にするかは考えていない」

 質問は多岐にわたり、最近話題となっている後継者やガバナンスの問題について、株主から問う場面があったという。現在、ゼンショーHDでは、小川会長兼社長の子息である小川一政氏が常務取締役を務めているため、株主からは「後継者に考えているのか」といった質問も出た。

 小川会長兼社長は「ゼンショーは上場以来、『資本と経営は車の両輪』という基本認識。私は40%を超える大株主で、資本の側面とグループ経営の責任を負う立場にある。両者は関連しているが、機能は別だ。グループの社長たちは、切磋琢磨している。次のグループを担う人は常に育てているし、誰がということは考えていない」などと説明したという。

 また、「いつ1兆円企業になるのか」「今後行うM&Aの方向性は」といった今後の成長に関する質問に対しては、「M&Aは検討している案件はいくつかあるが、私の口からは言えない。私は、売上高の目標をCEO(最高経営責任者)の立場で言ったことはない。1兆円の売上高は、当然通るべきプロセスであって、目標ではない。可及的速やかにやりたいが、何年で達成するかは不確定。でも、それだからゼンショーグループは面白いと思っている」と話した。また、M&Aを担当する竹井功一専務取締役は、「国内外で、食と何らかのシナジーがあるもの、レストラン、小売り、介護などの分野で積極的に検討したい」と回答した。

 ゼンショーHDとしてのブランドの今後の打ち出し方についての質問もあった。質問した株主は各事業や業態のブランドは知られているが、それぞれが同じHDであることがあまり知られていないと訴えたかったようだ。

 小川会長兼社長は、「これまではゼンショーのブランディングはやってこなかったが、もっと知ってもらうために昨年からウェブサイトを充実させたり、グループを紹介したムックを出版したりした」と説明。また、すき家の工場で作ったサラダをパックにして、ゼンショーのブランド名を付けて、傘下のスーパーで販売し、好評を博していると説明。今後は加工度の高い食品も出して、認知度を高めたいと語った。

労務環境の改善状況を強調

 介護事業の説明に関連して、職場の待遇改善や社内コンプライアンスの状況についての質問も出た。これについて國井義郎常務取締役が回答。「すき家は、昨年2月以降は月80時間以上の残業をする人はゼロとなり、毎月それを達成している。昨年から約1年かけてグループ会社も含めて、時間管理の徹底や従業員との対話の時間を設けるなどして改善に努めている」といった説明があった。

 このほか、外食企業の株主総会では恒例となっているメニューやサービスに関する意見や指摘が相次いだ。例えば、すき家で「牛丼のつゆの油が多い」「牛丼にみそ汁をつけてほしい」という意見や、ファミリーレストラン「ココス」のイチゴの質が、店によってばらつきがあったといった指摘がなされた。小川会長兼社長や興津龍太郎取締役は、今後の対策としてマニュアルの徹底や改善活動、社内での検討を進めると返答したという。

 質疑応答ののち、議案事項の採決は、拍手をもって全て承認、可決された。今回の株主総会では、株主にお土産が用意されていた。だが、想定を上回る来場者で足りなくなるという一幕も。もらえなかった株主には後日配送するとのことで、帰り際に宛名を書いて帰る株主の姿が見られたという。

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