「AI TOY(アイトーイ)」で販売しているドローン
「AI TOY(アイトーイ)」で販売しているドローン

 ドローン(小型無人機)とプロポ(操縦装置)のセット5万8000円、プロペラ130円、カメラの取り付け器具454円、バッテリー1814円、ドライバー1026円──。この6月にオープンしたドローン専門の通販サイト「AI TOY(アイトーイ)」には、ドローンの組み立てに必要な部品や工具など約70点の製品が並ぶ。100円台で買える部品から5万円を超えるドローンのセットまで価格帯も幅広い。サイトを立ち上げたのは、産業用ドローンの開発を手掛けるエンルート(埼玉県ふじみ野市)だ。

 エンルートは、測量やインフラ点検、災害調査といったドローンを利用したサービスを提供している。御嶽山や箱根山などの調査に採用された実績があるほか、ALSOK(綜合警備保障)が提供する太陽光発電施設の監視サービスにも使われている。調査や運行に関する技術力やノウハウに定評があり、官公庁や企業からの委託が増えている。

 業界では知られた存在の同社が、一般消費者を対象にしたドローンの販売に力を入れるのは、ドローンの用途を開拓し、市場を拡大するためだ。エンルートはもともとホビー用ドローンの販売を手掛けていた。模型飛行機の操縦が趣味だった伊豆智幸社長が、日本ヒューレット・パッカードを退職した後、2006年に起業したのが始まりだ。それが、火山の観察や災害の調査といった案件が増えていった結果、産業用ドローンに軸足を置いて事業を展開するようになった。

 アイトーイの開設は、エンルートにとって原点回帰ともいえる。今回の大きな特徴は、AI(人工知能)を活用する点にある。現在はプロポで操縦するキットのみ販売しているが、今後はAIによる自動操縦が可能な製品を取り扱う予定である。空中を飛行するタイプに加えて、ラジコンカーのように地上を走行する小型の車両タイプを用意する。ドローンは人が行きにくい場所にも行かせられる半面、落下などの事故につながる恐れがあるからだ。安全を考えて、AIを利用したドローンは、研究機関など対象を限定して販売する。

「AI TOY(アイトーイ)」での販売を予定している車両タイプの無人機(上)。AIを搭載するコンピューター(下)
「AI TOY(アイトーイ)」での販売を予定している車両タイプの無人機(上)。AIを搭載するコンピューター(下)

 エンルートの狙いは、ドローンや車両タイプの無人機を買ってくれた消費者に、AIを利用した様々な使い方を考えてもらうこと。面白そうなアイデアは広く共有する。そのための仕掛けも用意する。それが、近く立ち上げる情報交換サイト「AI DRONE(アイドローン)」である。ここでは、AIを活用してドローンや小型車両を動かすためのソフトなどを提供する。「ディープラーニング(深層学習)」と呼ぶAIの技術を利用して、人が操作しなくてもドローンや車両を自律的に動かせるようにする。

 AIを活用することで、ドローンに搭載したカメラで撮影した画像を解析し、次にどちらへ進むかをコンピューターが判断して飛行するといったことが可能になる。そのためには、多くの画像を取り込んで、AIに学習させる必要がある。この学習データを作る作業を消費者にやってもらおうというわけだ。

 消費者が作った学習データは、サイト上で共有できるようにする予定である。伊豆社長は、「ディープラーニングは、学習データを作るのが一番大変。便利な学習データを誰かが作ってくれれば、市場の活性化につながる。シェパードやチワワなど犬の種類や、セダンやSUVなどクルマのタイプを見分けたりできるので、そういうところからドローンの面白い使い方が生まれてくるのでは」と期待する。

 車両タイプについては、AIを利用して早く正確に走れるかどうかを競う大会を今秋にも開催する計画である。エンタテインメントの要素を取り入れることで、学習データを意欲的に作ってくれる人が増えるとみる。

 エンルートの社員は現在、十数人。業容の拡大で人手不足が懸念されるなか、一般消費者を含めた外部の人材を活用することが重要になっている。アイトーイで販売するAI搭載の無人機は、機体とそれに搭載する小型のコンピューターと合わせて20万円程度になる見込み。アイドローンでは、プログラミングの知識がない人でも学習データを作れるツールを提供するという。

「動くかかし」で害獣被害を防ぐ

 一方の産業用では、新たに害獣被害の防止で需要が見込めそうだという。山間部や農村部などで、シカやサルといった野生の鳥獣が植栽木やシイタケなどを食い荒らす被害が絶えない。農林水産省によると、2014年度の農作物の被害額は全国の合計で191億円。シカによる被害が最も多く、約3割を占める。そこで、カメラで撮影した画像から、シカやサルが接近していることを検知し、そうした鳥獣が嫌がる音を発したり、近づくのを嫌がるようなことをしたりする無人機の開発を検討している。エンルートは、「動くかかし」を提供することで、害獣被害を抑える考えである。

 産業用に加えてホビー用での販売拡大を狙うエンルート。ソフトバンクの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」やシャープのロボット型携帯電話「RoBoHoN(ロボホン)」など、AIを利用した機器が身近な存在になりつつある。愛嬌のある見た目をしたこれらとは異なるドローンが、一部のメカ好きやコンピューター好きの人だけでなく、より幅広い層まで浸透するか。エンルートの挑戦は始まったばかりだ。

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