米マクドナルドが、約5割を保有する日本マクドナルドホールディングス株の売却に動き始めたことが明らかになった。大手商社や外資系投資ファンドなどに一部株式の買い取りを打診している模様で、実現すれば米マクドナルドは筆頭株主でなくなる公算が大きい。背景には長引く販売低迷と業績不振があり、新たな筆頭株主が現れれば、米本社から送り込まれたサラ・カサノバ社長兼CEO(最高経営責任者)らの幹部は、退任することになりそうだ。
フランチャイズチェーン(FC)店を運営するオーナーなど関係者には動揺はみえるが、一部には歓迎の声も上がっている。マクドナルドの日本事業の創業者である故・藤田田氏が会社を率いて、日本の独自色を貫き成長した時代を知る関係者らは、米社主導の経営の限界を感じているからだ。
社長が緊急メッセージ
米社が株式売却を打診しているという報道が流れた12月22日、カサノバ社長兼CEOは「日本マクドナルドホールディングスおよび日本マクドナルドはコメントできる立場ではない」とした上で、社内関係者向けのサイトに次のようなメッセージを出した。
「今、私たちがすべきことはこれらの報道内容に惑わされず、目の前のビジネスに真摯に取り組むことであり、お客様にこれまで以上の店舗体験をお届けすることが何より大切」「ビジネスに集中することが、唯一、重要である」──。
店舗で働く従業員や消費者の間では、多少の動揺は走ったようだ。首都圏のある店舗では、ハンバーガーと交換できる株主優待券を出す顧客が、報道が出てから3倍に増えたという。「筆頭株主が変われば使えなくなるかもしれないとの噂が出回り始めた」(ある社員)ようだ。
「株売却打診は予想通り」
その一方で、長年マクドナルドで働く関係者からは歓迎の声が上がっている。あるFCオーナーは、「現在よりも米国本社の関与が弱まる方が、業績回復に向けては近道」と賛成の姿勢を示す。売却に動き始めたことも「関係者の間では予想通りだ」と受け止めた。
背景にあるのが、長引く業績の低迷だ。2015年12月期の日本マクドナルドHDの業績は、2期連続の赤字を見込む。2014年夏、商品調達先が消費期限切れのチキンを取り扱っていた問題が表面化し、2015年に入っても異物混入騒動が続いた。こうした影響もあり、15年に日本マクドナルドの既存店の売上高が前年同月を超えたのは8月のみで、依然として厳しい状況だ。
だが、マクドナルドから消費者が離れた要因は、鶏肉や異物の問題に限らず、もっと根深いものだ。1971年に米社と合弁で事業を立ち上げたのが外食業界の伝説的な起業家である藤田田氏だ。米社と対等の関係で渡り合い、出店やメニュー、価格戦略など経営の要は藤田氏が握り、1990年代末までは外食業界で最強の企業としての座は揺るぎないものだった。
ところが急速な拡大路線の影響で2000年代前半に業績不振に陥り、03年以降は米社主導の経営に移る。翌04年には藤田氏が死去している。同年トップに就いた、原田泳幸(前社長兼CEO)氏は、米本社と戦略を一体化し、藤田時代の拡大路線を修正した。店舗の閉鎖と直営店のFC化などにより、利益を向上させた。経営陣も複数の役員、本部長クラスにも本社から派遣されるようになった。
その反面で、藤田時代を支えた人材の流出が起こった。FC店などの現場では、藤田時代には認められていた店舗ごとのサービスができなくなり、画一的な店舗運営に舵を切り、現場のモチベーションの低下につながったという声も漏れる。
メニューの開発でも日本発のヒットメニューがあまり登場しなくなった面もある。月見バーガーやチキンタツタ、グラタンコロッケバーガーなど、今も人気がある日本発のメニューは、藤田時代に生み出されたものだ。
マクドナルドのFCオーナーは、藤田時代に社員として在籍していた人材が“のれん分け”したケースが多い。藤田社長は休日返上で店舗を回り、現場主義として知られていた。「今はセットメニューの組み合わせなど、現場が売りたいと思うように提案しても、“米国的”な判断ゆえに本社に認められないことがある。米国側の意向が弱まれば、藤田さん時代のように、セールスを最大限にする方法が通りやすくなるのではないか」とあるオーナーは話す。
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