国内工場と直接取引して作ったシャツや革靴などを、インターネットを通じて販売するファクトリーブランド「ファクトリエ」。商社や中間業者の中抜きによってコストを下げ、販売価格に対して高品質な商品を供給する、というビジネスモデルで急成長している。SPA(製造小売り)モデルで成功したユニクロと比較されることもあるが、ファクトリエを運営するライフスタイルアクセントの山田敏夫CEO(最高経営責任者)は「ユニクロになろうとは思わない」と言い切る。
中国への工場移転で国内産業の空洞化を招き、過剰生産による価格下落にも苦しむ日本のアパレル業界。ファクトリエのビジネスモデルはそんな業界全体に対するアンチテーゼとも取れる。日本のアパレルを蝕む病巣の分析と、それを踏まえてファクトリエが目指す未来について、山田氏に話を聞いた。
大手アパレルの下請けだった工場と直接取引し、それをインターネットで直接販売するビジネスモデルを確立しました。
「大きく3つの壁がありました。そもそも工場がない。次に、やっと探し出しても、コスト削減に慣れてしまって肝心の技術が失われている。さらに、そんな状況だから若い人が誰も入ってこない産業になっていました。我々がやっているのは、百貨店が5万円で売っているジャケットを2万5000円で売るという、『コスト削減型』ビジネスではありません。百貨店と同じ5万円という値段で売ったとしても、そのジャケットに10万円の価値があるという『価値創造型』です。低価格を前提にしないので、価格決定権を工場に渡しています。我々が消費者に売る値段は、工場が我々に売る値段の倍と決めています」
「技術のある工場の名前を世間に広め、彼らがお客さんや次の働き手と直に接してもらえる仕組みを作っています。例えば見学ツアーで顧客の声を直接届けるとか、10~20の工場を集めて就活イベントもやっています。こうした取り組みを我々が主催出来るのも、工場と直接取引し、それを直販しているからです。でなければ、まず商社に相談にいって、アパレルブランドや卸業者に声をかけて、と何段階も踏む必要があります」
「百貨店ブランドがファストファッションを目指してしまった」
山田さんは婦人服店の生まれです。小さい頃からアパレル業界を見てきて、ここ数年の不振の原因をどう分析していますか。
「アパレル業界は、コスト削減と価値創造の端境期に立っていると思います。百貨店ブランドは、本当は価値創造をするべきだったのに、ファストファッションと同じようにコスト削減をごり押しして、何も残らなくなりました。百貨店などでPB(プライベートブランド)の立ち上げが相次いでいますが、理由は原価率を下げるためなので、本質的にはファストファッションと変わりません」
「百貨店アパレルは、百貨店が『PBを始める』と言い出しても、売り場を握られているから逃げられない。商品企画もODM(相手先ブランドによる設計・生産)メーカーに任せていました。そんな風に販売力も技術もなくなり、昔のツケがいま回ってきているんだと思います。彼らの本質的な立ち位置は『価値創造で生きる』であり、これはまったく変わっていないはずなので、一言で言えば右往左往し過ぎですね」
そんな中でファクトリエの立ち位置をどう考えていますか。商社などの中抜きで低価格・高品質の商品を供給するという点では、ユニクロと似ているようにも見えますが。
「ファクトリエを始めた頃は、高品質の商品を低価格で売るのが我々の強みでした。今でもお客様満足は大事ですが、最近はこれに並ぶくらい社会性を強く意識しています。世の中も、資本性と社会性がまじり合うようになったと感じています。綿花生産に携わっている人々の厳しい現実や、バングラデシュのアパレル工場崩壊などを、世間の人が知り始めたからです。だから、僕たちも地方創生や持続可能なモノ作りなどを日本でビジネスと絡めてやっていきたい」
「僕らはユニクロになろうとは思いません。つまり、大量生産や低価格ありきのビジネスはしません。国内アパレル市場が10兆円だとすれば、その1~2割の市場で資本性と社会性を両立しながら、新たな価値を創造していきたい。歴史のある日本は価値創造型ビジネスが得意です。例えば欧州では、歴史あるブランドの職人が尊敬され、企業としても高い評価を受けています。僕らの理想はそういうビジネスです」
アパレル業界はブランドも店舗も飽和しています。
「逆に、僕らが目指す1~2兆円市場を作るには、まだまだブランドが足りないとすら思っています。ただ、価格訴求力を重視しないこの市場では、利益率は高いですが、売り上げや規模が伸びないことを覚悟しなければいけません。価値創造型のビジネスは、『消費者が何を欲しいのか』に振り回されないプロダクトアウト思考だからです」
「株式上場はやめた方がいい」
勢いのあったブランドが、規模を拡大する中で失速していくケースも多いです。株式を上場し、数字的な成長を求められ続けることが、アパレル企業にとって必ずしも良い選択ではないと感じるのですが。
「個人的には、株式上場はやめた方がいいと思います。もしくは、持ち株会社は上場してもいいですけど、後はブランドごとに会社を細かく分ける、とか。ブランドごとにやることが違うので、横串にはできないですから。組織が大きすぎて硬直化しているから『会社を回す』ということが優先されているように見えます。だから、数億円、数十億円のブランドや事業とかで『これは成立するな』と思うようなものでも、会社の規模から考えて『小さ過ぎるからやらない』という判断になってしまうのでしょう」
売り上げを追いすぎるから、生産も過剰になっています。
「販売の現場からリアルタイムで売り上げの情報を吸い上げ、それを直ちに生産に反映できるのが理想の工場のあり方です。『30枚だった生産能力が、40枚作れるようになった』と言われても困ります。それは昔、褒められていましたが、今は『売れ行きを見ながら、15枚に抑えることができる』といった柔軟な対応ができる事が優位性です。作り過ぎが問題になっていますからね」
「アパレル市場の8~9割を占める世界は、正直どうでもいいですし、興味もありません。残り1~2割をどう残していくのか。これは日本だから出来ると考えています。アパレル産業が弱ったから、技術のある工場が我々のような若い企業と手を組んでくれます。僕らのビジネスがちゃんと儲かるんだと示すことで、実家の工場を継ぐことや、工場のある地元で働くことが悪いことじゃないと思ってほしいですね」
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。